ガラスの靴
「ママ。ガラスのくつ、どこにうってるのかな?
ちか、シンデレラになるの!」
幼い頃思い描いていた夢。
少しずつ成長する度、その夢が夢でしかない事を知った。
例えガラスの靴を買っても、王子様は迎えに来てくれない事。
私を変身させてくれる魔法使いは存在しない事。
どんなに頑張っても、かぼちゃが馬車にはならない事。
素敵な王子様と出会う舞踏会は、現代の日本では有り得ない事。
…そもそも物語の中の王子様は、現実に存在しない事。
幼馴染の男は、居心地は良いけど恋愛対象にはならなかった。
言い寄ってくる男は殆ど下心が透けて見えていた。
まともな男もいたけれど、最終的に私から離れていった。
思っていた人と違う、って。
知らないわよ、そんなの。
あんたが勝手な私の人物像を作って、
それで勝手にがっかりしただけでしょう。
シンデレラに出てくる王子様。
たった一度、一緒にダンスを踊っただけの相手を
落としたガラスの靴だけを頼りに探し出し、2人は結ばれる。
多くの言葉を交わしていないのに、そんなに好きになれるの?
思った人と違うって思わなかったの?
…どうして、そんなに想ってくれる人が現実に現れてくれないの?
ただの物語だって言ってしまえば終わりだけど、
期待してしまうのは、いけないことだろうか。
そしてある日、夢を見た。
顔は暗くてよく見えないけれど、
明るくて、賑やかな、私を一心に愛してくれる人。
物語の王子様の様ではなかったけれど、
私の全てを包み込んでくれる優しい人。
オレンジ色の景色の中。
「愛しています」と囁かれた。
そよぐ風に、柔らかそうな茶色い髪が靡くのが見えた。