自己紹介とかそういうの その1
「今日はもう遅いし、話は明日ね」
そんなことを言われた気がする。
どうにも血を吸われると変な感じだ。
痺れると言うか、麻痺すると言うか。
動機も激しくなるし。
あのあと伯爵に抱えられ、
ベッドに寝かされると、ストンと意識は飛んでいった。
何事もなく翌朝。
カーテンの隙間から差し込む光で目が覚める。
手足をグッと伸ばす。
あれ、寝る前こんな服来てたっけ?
白いネグリジェのようなものを着ているようだ。
伯爵様何してるんですか。
裸体を見られたことに、少々の気恥ずかしさを感じつつ起き上がる。
おや。
ベッド脇のテーブルに水の入ったコップと、
書き置きがあった。
どれどれ。
書いてある文字は知らないものだった。
でも大体意味は分かる。
不思議だなぁ。
『おはよう!君の服は勝手に着替えさせてもらったよ!服なんかはドレッサーに色々あるから、好きな服を着てくれたまえ。私は朝が苦手なんで起こさないでね!私が起きるまでは城を見て回るといいよ。挨拶回りだね』
吸血鬼は太陽光が苦手なのかな。
その辺は予想通りなのだろう。
水をグイっと飲み干す。
よし。
お着替えだ!
ドレッサーのなかは案の定ドレスだらけだった。
一人でできるもん!
といいたいけれど、そういうの知らないし。
その脇のタンスを確認する。
お、こっちは普通だ。
黒っぽいロングスカートに…
何枚か羽織るものでいいか。
ある程度物色を済ませ、鏡の前へ。
そういえば、初対面だな。
どんな顔をしているのやら…
これが…僕…?
などとありきたりな反応をすませ、
鏡に写る顔を見る。
髪は金色でショートカット。
寝癖か髪質か、外側にはねている。
年は、10代後半かなあ?
幼くは見えない。
顔はまあ普通、といいたいけど。
日本人離れしている顔つき。
それだけで美人に見える。
金髪碧眼。
容姿に関して文句はない。
さーて、着替え着替え。
ネグリジェを脱ぐ。
すると、珠のような肢体が露に…
なるけど、特に感じることもなかった。
自分の体にいちいちコンプレックス抱えてられませんし。
自覚が薄いだけなのかなぁ。
視線を下に移す。
おや。
ブラはないけど、ショーツはあるのね。
上は、まあシャツでも着ておこう。
黒のロングスカートに、ベージュのシャツ、ネズミ色のフード付きの羽織。
うん、おしゃれセンスは皆無だが。
無難にまとまっただろう。
鏡のまえでくるくると回ってみる。
うん、上出来。
スカートだけだと足元が寂しいと思い、
ハイソックスをはいておいた。
スースーして落ち着かないとよく聞くが、
意外と悪くないかもしれない。
さて、伯爵が起きるまでブラつくとしよう。
挨拶回りっていってたけど、門番の人以外に誰かいるのだろうか。
フーム。
ま、考えてもしょうがない。
取りあえず門にいこう。
…
……
門につきました。
改めて見ても大きな門です。
門番さんは外にいるのだろうか。
取りあえず開けてもらおう。
「すいませーん!開けてくださーい」
すると扉が重低音を響かせて開いた。
門の外には昨日の二人の巨人がいた。
「おはようございます!」
はじめが肝心。
ここは元気よくいっとこう。
「「オハヨー」」
ゆったりした重低音が響く。
「きょーからここでお世話になります、えーと」
そうだ、名前。
この姿でハザマケンジは嫌だ!
わーどうしよ。
なんかいい名前。名前。
「「ヨロシクネー、エーコチャン」」
ん?エーコチャン?
それは誰ですか、
「エーコチャンって?」
私ですか?
「「伯爵カラキイタヨ」」
エーコ…
まさか村人Aだからか…?
村人A子。
何てモブ臭い名前なのだろう。
まあ、いいか。
どうせ定着しちゃってるんだろう。
あの伯爵のことだし。
「あ、はい。エーコです。今後ともよろしく」
「「ヨロシクー」」
「門番さんのお名前はー?」
どっちもそっくりで、区別つかないけど。
「「コッチガ、ゲート」」
お互いに指を指す。
「「コッチガ、ガード」」
自分たちに指を差す。
え、どっち?
「「アレ?ドッチダッケ」」
うんうんうなり始めた。
見てるこっちも悩ましいよ!
やや!
知恵熱だろうか。
頭から煙が立ち上ぼり始めた。
どーしましょ。
その後の対応に頭を抱える。
すると後ろから、誰かが声をかけてきた。
「こいつらは一心同体だから、個体の区別とかしたことないんだよ」
振り返ると、トカゲが二本足で立っていた。
人型以外の登場に、少したじろぐ。
えっと、
「どちら様ですか?美味しくないですよ」
あ、また本音と建前が同時に。
「え、別に食べやしないよ。私はリザードマンのクロコ。よろしく、エーコ」
あ、はい。よろしくお願いします。
深々と一礼。
そうだ、後ろで知恵熱出してる巨人たちなんですけど。
「あの二人はどうしたらいいんでしょうか」
「特に難しいことないさ」
まあ、見てな。
とクロコさんは笑った。
「おい、ゲート!ガード!門番サボるなよ!」
「「アーイ」」
え、それでいいの。
なんか、深いお話とかしないの。
「あいつらは考えるのが苦手だからな。ああなった時は、取りあえず仕事を与えればいいのさ」
脳筋ですね。
あんまりお喋りしすぎても良くないみたいだ。
そろそろ他のところへ行こう。
「それじゃあ、ゲートさんと、ガードさん。また今度!」
「「ジャーネー」」
うーん、なんかかわいい。
また大きな音をたてて、門はしまった。
その様子を見ていると、クロコさんが話しかけてきた。
「ところでエーコは、なにしてるんだい?」
「伯爵様が起きるまで、この城の方に挨拶するようにと言われているのですが…」
この城、大きさの割に、生き物の気配が全然しない。
何百人といても良さそうなものだけど。
「昔と比べて人が減ったからね。よければ案内しようか?」
クロコさん、素敵!
「ええ、是非お願いします!」
「よし。じゃあ行こうか。伯爵はまぁ、昼過ぎには起きるだろう」
昼に起きて大丈夫なのだろうか、吸血鬼。
「伯爵様は太陽平気なのですか?」
「平気なんじゃないかな?」
「じゃあ、ニンニクは?」
「口臭を気にして、食べないね」
想像と全然違うんだ。
情報提供に感謝しつつ、行き先を訪ねる。
「それで、まずどちらに?」
そうだなぁ、と悩むクロコさん。
なりはトカゲだけど、格好いい。
リザードマンのなかでは二枚目に違いない。
「うーん、まずはラミアのところに行こう」
ラミアさんか、どんな人だろう。
ようやく主人公に名前つきました。
ドタバタするにもまず下地から。