ただいまとかそういうの
吸血鬼の城と言うと、
山奥の古城であったり、
崖っぷちで雷鳴ってたり
そんなイメージを抱いていました。
でもこの家、いや城は違う。
全然違う。
何で平地にたてたの。
何で道沿いにたてたの。
「平地の方が便利いいでしょ?」
何か間違ってる?とでも言いたげに返された。
間違ってないけど。
吸血鬼としてそれはどうなの。
「ささ、入って入って!」
伯爵は大きな門をくぐっていく。
どうやって開けているんだろうと見上げると、
目があった。
それはそれは大きな顔でした。
筋肉質な巨人が、三メートルはあろうかと言う門の両脇に立っていた。
「お、お邪魔しますぅ…」
右手を軽くあげて挨拶する。
顔は引きつっている。自分でも分かる。
「「…」」
沈黙が痛い。
これ何?侵入者撃退トラップでしょ?
守護者というより殲滅者じゃないの。
「…通りますねぇ…」
目をそらせばやられる!
見上げたまま門を潜ろうとしたそのとき、
「「ア」」
何!なんかミスったの!
「…な、なんでしょ、ございますか?」
聞き返す。願わくばリカバリのチャンスを。
「「足元、キヲツケテネ」」
…あ、ハイ。
「ありがとうございます」
意外といい人なのかもしれない。
「「イーノイーノ、ジャーネー」」
大きな手を振り見送ってくれた。
すごくいい人なのかもしれない。
心臓に悪い門を抜けて、城の中へ。
「ようこそわが城へ」
うやうやしい一礼。
伯爵様直々の接待だ。
少しは気分も高まる。
はず、だったのだが…。
「伯爵、ここ手入れしてますか」
門から城内の途中で庭が見えたが、とても整備されているとは思えなかった。
垣根に蔦が絡まり、大きな花びらがうごめき。
ひしめき。花粉を噴射し、あまつさえ走り回ったりしていた。
花って走るんですね。
いや比喩じゃなしに。
「いや、手入れね。最近ちょっと忙しくてね。後でやろうと思ってたんだけどね」
絶対やる気なかった人の言い訳だ。
「そんなだから奥さんに逃げられるんですよ」
伯爵の顔がみるみる青くなる。
「え!何で知ってるの!」
いや鎌かけたんだけど、まさかビンゴか…
「それはいいじゃないですか」
「それもそうだね、それで例の件だけど」
切り替え早いですね。
ちょっと尊敬します。
ここで私はこれからどうするんだろうか。
「軟禁とか?」
「無理強いはできればしたくないんだよね」
あ、良心はあるんですね。
「しばらくは様子見だね。まだ息子にもなにもいってないし」
独断専行かよ!せめて一言いっておくべきでしょう。
「まぁ、それまではここで働いて貰いたいんだよね。実はこっちのが優先度高かったりしてね。モチロン、結婚してくれれば文句ないけどね。給料要らないし!」
ケチ!ドケチ!
「結婚はともかく、働くのは良いですね」
そう。行く当てもないし。
歪んでるなりにも、好意的だし。
「ホントに?いやー助かるよ、使用人が今いなくってさぁ」
この広い城に使用人なしって、無駄すぎるだろう。
「じゃあ、掃除洗濯や食事は…」
「出前」
ちょっと待て吸血鬼ィ!
え?え?何?出前?
だから道沿いにあったのこの城。
嘘でしょ?
まだ食事はいいとして、
「洗濯は」
「私にはこの一張羅があればいい」
「ギャー!」
ギャー!
思わず声に出たわ。
こんなのほっておけない。
野放しにしてはいけない。
僕がやらねば。
「分かりました、この城の家事。僕がやらせていただきます」
「いや悪いね、よろしくねこれから!」
伯爵は、すっと右手を差し出した。
スゴい嫌だけれど一応、主人になるわけだし。
受けないわけにはいかない。
「ハイ、よろしく…ゥ!!」
お願いしますと言おうとしたら、いきなりがんじがらめに。
あ、ちょっと!
首筋に、顔が、近いです。
「な、なんですか」
「いやさっきは全然吸えなかったからね、今度はもう少しじっくりと」
「いや、僕は家事が、仕事で」
こういうのは仕事じゃないです。
「これが私の食事だからね」
首筋に少し刺激が、うわ。
「ふぁえ……、や、でも、ぼくはですね…」
変な声出ちゃうからやめてください。
「『私』と言ってくれ。昔はどうあれ、今は淑女なのだからね」
また刺激が…。
「ふぇぁ…わかりまふぃ…ふぁ……」
まんまと言いなりだよ。
体に力が入らない。
ああもう、何がなんだか…。
「大変よろしい。しっかし、君の血。ほんと旨いなぁ~!あれ?ちょっと大丈…しまった、やり過ぎたか」
その時僕はあっさり昇天しました。
貧血で。
貧血ですって。
そりゃ気持ちはよかったですけど!
貧血です。
何はともあれ。
こうして僕、あー私の、
吸血鬼の根城での暮らしが始まりました。
導入って難しい。
妄想だけなら楽なのにね。