命題3
久しぶりに肩慣らし(。-`ω´-) キリッ
―――真夏の午後の蝉時雨
中庭の木の下
雨に濡れているのに気にせず立ち尽くす君は
泣いているように見えた―――
***
雨は嫌いだ。じめじめしてるし、着ている服が肌にピトッとくっ付いて嫌になる。
夏の午後の学校、僕は教室で夏期補習の真っ最中。先に断っておくけど、別に赤点マスターとしてここにいるわけじゃない。僕が目指している大学のため、どうしても足りない教科の授業を、夏休みという甘美に満ちた日々を返上して、分厚い眼鏡が汗でずり落ちそうになる中年のオッサンの聞いているわけだ。
他のクラスメイトは、各々の好きな時間を過ごしていることだろう。忌々しいことこの上ない。
・・・でもまぁ、僕には適当なんだと思う。家に帰ってもやることはないし、寧ろ帰らないほうがいいのだろう。
はぁ、と短い溜息を漏らし、僕は雨が伝う窓から中庭を見た。
学校の北棟と南棟を繋ぐ1階の渡り廊下から延びた道の先に、小さな屋根が付いたベンチが中庭の真ん中にあり、その周りを草花や木々が生い茂っている。なんでもあそこのベンチに座ると、木々が発するマイナスイオンの効果で素敵なことが起こるらしい。・・・素敵なことといってはぐらかす部分が、なんとも胡散臭い。
そんなことを思っていると、ある木の下に目が留まった。黒髪のロングヘアーの少女が立っていた。肩の辺りは濡れており、下を向いている。ここからでは長い髪が邪魔して表情は伺えなかった。
しかし、僕にはなんとなく、その姿は泣いているように見えた。
キーンコーンカーンコーン、授業の終了のチャイムが鳴った。
「今日はコレでおしまい。みんなお疲れ様」
そう言って、額の汗をハンカチで拭きながら先生は教室を出て行った。
僕もその後を追って教室を出た。行き先はもちろん、中庭だった。
***
途中で玄関に寄って、水色の傘を拝借してきた。ちゃんと元の場所に返すのは、拝借。そのまま持って行っちゃうのは、盗難。そこら辺の違いをいかに理解しているかが、犯罪に手を染めるか染めないかのポイントなんだと思う・・・。
と、わざとらしい言い訳を自分に言い聞かせながら中庭に向かった。
雨は先程より強く降り、辺りはザーという雨音に包まれていた。
渡り廊下から屋根つきのベンチへと続く道の前で傘をさし、中庭に入る。
(えっと、あの教室から見てだから、多分・・・)
そんなことを思いながら少女が立っていた木を見つけたが、そこに少女の姿は無かった。辺りをキョロキョロ見渡すが、一向に見つからない。
「おっかしいなー、もう校舎に戻ったのかな?」
「誰を探してるの?」
「へ?」
突然後ろから声がかかり、僕は急いで振り返った。
そこには、教室から見た少女が立っていた。少女は傘もささず、雨に打たれていた。
「・・・あの、濡れたら風邪引くよ?」
水色の傘の中に入れてやろうとしたら、目の前の少女は手を上げてそれを制した。
「いいの、雨、好きだし・・・」
フッと、悲しげに笑ったその顔はまるで、雨の中、妖しく咲き誇るハルジオンのようで・・・。一瞬で心を奪ってしまう、そんな感じの笑みで・・・。それを見た僕の心は、例外なく奪われたわけで・・・。
「それで、誰を探してたの?」
「えっ?・・・あぁ、君を――」
「私?」
言った後にしまった、と思った。名前はおろか、顔も見たことがない異性から探していた、と言われて気を良くする女性は居ないだろうに。僕はあわてて言い訳をした。
「いや、さっき授業中に君をそこの木の下で見つけてさ、なんか泣いているように見えたから―――」
「泣いている?」
あぁ僕のバカ!!また言った後に後悔する。いきなり泣いているように見えたって・・・、僕は何様なんだ。いっそのこと一回死んでやり直したい。せっかく仲良くなれるきっかけを作ろうとしたのに・・・。
すると、少女はふふっ、と静かに笑い出した。
「そっか・・・、泣いている、か」
「あぁ、ごめん、的外れなこと言って」
「ううん、いいの」
そう言って、少女は笑いながら、こう続けた。
「ねぇ、傘の中に入れてもらってもいい?」
僕は突然の申し出に、一瞬返事をするのを忘れた。
「・・・あ、はい、どうぞ」
ぎくしゃくしながら彼女が入れるスペースをつくり、黒髪の彼女はそのスペースに入る。
水の雫は長い髪を伝い、地面に落ちていく。制服はびしょ濡れで、下着が透けていた。なんつーかもう、健全な男子高校生にはちょっとアレだった。なにがアレなのかは、あえて言わないでおく。・・・とにかくエロいんだよ!!
至近距離に迫った彼女を前に、僕の心の中はもはや夏祭り状態で、平静を保つのに苦労した。と、そんな僕に少女は手を差し出してきた。
「私、條原沙弥。あなたは?」
突然の自己紹介に、僕の心はもう有頂天だった。
僕は差し出された手を握った。その手は雨に濡れて、とても冷たかった。
その時、僕はこの手を温かくしたいと、守ってやりたいと思った。
「僕の名前は―――――」
***
その後、しばらくして、僕と沙弥さんが付き合うこととなった。
はからずも素敵なことが起こった中庭だが、僕はマイナスイオンのせいだとはこれっぽっちも思っていない。もちろん、志望大学に合格したことも。
それらをお話しするのは、また別のお話。
これが、僕と沙弥さんの、始まりのお話・・・。
End
知ってる人は知っている、とある物語の続きのお話でした
余談ですが、執筆に当たって流れていたBGMはドリカムの「やさしいキスをして」です。・・・うわぁ本当に余談(笑




