婚約破棄されたので竜を100匹飼いましたが、気付けば領地が最強になっていました
婚約破棄されたので、竜を百匹飼いました。
ええ、本当にそのままの意味です。
◇ ◇ ◇
「シルビア・エルヴェルト! 貴様との婚約はここで破棄する!」
王宮の舞踏会場で、王太子エドガー殿下は高らかに宣言しました。
周囲がざわめく中、私は優雅にお辞儀をします。
「かしこまりました、殿下」
その途端、会場が静まり返りました。
私の反応があまりに落ち着いていたからでしょう。
「……随分とあっさりしているな」
「ええ。覚悟はしておりましたので」
殿下の隣には、勝ち誇った顔の聖女ミレイユ様が立っています。
どうやら私は“冷酷な悪女”として告発されているらしいのですが――まあ、細かいことはどうでも良いでしょう。
私はゆっくりと顔を上げました。
「では、失礼いたします」
それだけ言って、会場を後にしました。
涙?
いえいえ、とんでもない。
私はむしろ、とても清々しい気分でした。
◇ ◇ ◇
婚約がなくなったその日、私は屋敷に帰るなり執事のアルベルトに言いました。
「竜を買います」
「はい?」
「百匹ほど」
「……お嬢様、聞き間違いでしょうか」
「いいえ。百匹です」
アルベルトは額を押さえました。
「竜は家畜ではございません」
「知っています」
「百匹は国家戦力です」
「知っています」
「そもそもどこで」
「闇市です」
「闇市」
アルベルトは深くため息をつきました。
「……なぜ竜なのでしょう」
「だって、可愛いじゃないですか」
私は微笑みました。
「昔から竜が好きだったんです。王太子妃になったら飼えませんもの」
◇ ◇ ◇
最初に闇市で手に入れたのは、小さな卵でたちでした。
「可愛い!」
十個、二十個、三十個――全部で百個。
私はその一つ一つを丁寧に布でくるんで、魔力を注ぎました。
竜の卵は与えられた魔力に反応して、殻の中で育ち孵化するそうです。
専門家の話によると、竜の卵を孵すのはとても難しいことだそうです。
百個の卵があっても一匹生まれるかどうかとのことでした。
数日後、全部孵りました。
どうやら私の魔力が、竜の育成に適正があったようです。
アルベルトが遠い目をしながら呟きます。
「……百匹ですね」
「百匹です」
私は、にっこりと微笑みました。
◇ ◇ ◇
それから三か月後、我がエルヴェルト邸の裏山には百匹の竜が住みついていました。
種類も様々です。
火を吐く火竜が二十匹。
空を滑空する風竜が十五匹。
地面を掘り進む地竜が十匹。
水辺が好きな水竜が八匹。
このあたりはまだ可愛い方です。
岩を主食にする岩喰竜が十二匹。
夜になると光る月光竜が七匹。
やたら人懐っこい小竜が十八匹。
そして――なぜか一匹だけいる古代竜。
「……あの子は闇市でも説明がありませんでした」
「でしょうね」
アルベルトが虚空を見つめながら頷きました。
ちなみに古代竜は、普段は山の頂上で昼寝をしています。
たまに起きると、のったり首を持ち上げて王都の方を睨みます。
――王都の城壁が最近やけに補強されているのは、きっと気のせいでしょう。
私の朝は、竜たちへの餌やりから始まります。
大きな荷車を引きながら、元気に裏山へと足を運びました。
使用人たちに任せることもできますが、やはり私の大切な子たちですもの。
自分でしっかりとお世話をして、可愛がってあげたいのです。
「みんな、ご飯よ!」
「グルルル」
「はいはい、順番ですよ」
私の姿を見つけると、竜たちはご機嫌で近づいてきます。
なんて愛らしいのかしら!
「ほら、肉です」
ドン、と巨大な肉塊を置くと、竜たちは嬉しそうに食べ始めます。
私はその姿を、目を細めながら見つめました。
竜のお世話は大変です。
餌代には、月に金貨数百枚が必要です。
しかし、問題ありません。
「シルビアが竜を飼い始めてから、本当に助かっているよ」
「ええ。我が領の収入も増えたので、民の為に大きな道の整備もできますわね」
お父様とお母様が裏山へやってきて、にこにこと竜たちを眺めました。
「最初は百匹も孵化して、どうなることかと思ったが……」
「この土地を持て余していた裏山も、有効に使うことができましたわね」
「私に全て任せてくださった、お父様とお母様のおかげですわ」
「いや、シルビアが頑張ったからだよ」
「本当に誇らしいわ。私たちの自慢の娘よ」
竜のお世話をしていると、沢山の素材が手に入ります。
竜の鱗。
竜の爪。
竜の抜け落ちた牙。
竜の魔力結晶。
――全部、とても高いのです。
これらを販売した結果、エルヴェルト家は王国一の富豪になりました。
「それに、最近では竜たちも積極的に働いてくれるそうじゃないか」
「ええ。みんな大きくなって、競うように役に立とうとしてくれるのです」
私は竜たちを愛でることが出来れば、それで幸せでした。
でも、この子たちは私のために、色々と自分から仕事をしてくれるようになったのです。
地竜は畑を耕し、風竜は荷物を運び、火竜は鍛冶屋に火を貸します。
水竜は乾いた土地を潤し、岩喰竜は荒れた大地を整え、月光竜は夜闇を照らしました。
こうして竜の素材で得た資金源を元に、領地は瞬く間に豊かになっていきました。
「本当に、良い子たちですわ!」
「この竜たちも、いずれは卵を産むかもしれない。山をもう何個か買い取っておかなくてはね」
「まあ、お父様ってば!」
「素敵ね。今度、竜たちを囲んでパーティーでも開きましょうか」
「うふふ、お母様ってば!」
「軍が……竜の軍隊ができていく……」
楽しく会話する私たち親子の横で、アルベルトが全てを諦めたような目をしています。
小竜たちが、よしよしと彼の頭を撫でてあげていました。
◇ ◇ ◇
竜たちを飼い始めて、半年ほどが経ちました。
いつものように裏山で竜のお世話をしていると、アルベルトがやってきました。
「お嬢様、王宮から使者が!」
「嫌です」
「まだ何も言ってません」
「どうせ竜を貸してほしいとかでしょう」
その通りでした。
勝手についてきたらしい王国の使者が、青い顔をして叫びます。
「王都に魔物の大群が攻め込んできたのです。王国軍は敗北し、民が危険にさらされています!」
「それこそ、聖女様に助けて貰えばいいではないですか。私は一方的に、王家から裏切られた身ですよ?」
「あの、その、それが……」
死者はもごもごと言い辛そうにしていましたが、寄ってきた火竜に睨まれると、縮みあがりながら声をあげました。
「聖女ミレイユ様とエドガー王太子殿下は、早々に王都から避難され――」
「仕事も放棄して、逃げ出したと」
私は盛大に溜息をつきました。
彼らがいい加減な性格なことはよく分かっていましたが、ここまで無責任だったとは。
「まったく、なんて情けない」
私が呟いた瞬間、山の頂上で静かに休んでいた古代竜がゆっくりと起き上がりました。
古代竜は天を仰いで、鋭い声を轟かせます。
――ウオオオォォォォッ!!
その声に導かれるように、領地で働いたり休んでいた竜たちが、一斉に集結しました。
「まあ……」
彼らは皆、大きな翼を広げて空へと舞い上がります。
青空が一瞬、黒く染まる程の、竜の大群が羽ばたきながら王都の方へと飛んでいきました。
「あらあら」
そのまま、私はじっと王都の方角を見つめていました。
数分後、遠くの空が真っ赤に染まるのが確認できました。
おそらく、竜の炎でしょう。
かなり遠い距離にも拘らず、焼かれていく魔物の絶叫が響いてくるようでした。
こうして王都の魔物騒ぎは私の可愛い竜たちによって、あっと言う間に鎮圧されたのでした。
◇ ◇ ◇
翌日、なんと馬鹿王子――エドガー王太子殿下が屋敷を訊ねてきました。
「喜べ、シルビア! 婚約破棄を取り消してやろう!」
「お断りします」
「なんだと! なんて無礼な――!」
身勝手に憤慨する殿下を、竜たちが取り囲んで睨みつけます。
「ひいっ!! おい、こいつらを何とかしろぉ!」
「何とかするなら、エドガー王太子殿下の方ですわ。燃えるのと埋まるのと、どちらがお好みですか?」
「とんでもないことを言うな!?」
「本気ですが……」
「止めろ、俺は次期王だぞ!」
「その次期王である高貴な方が、なぜ、わざわざ我が領地まで足をお運びに?」
「うっ、そ、それは」
「大方、魔物騒動の際に逃亡したことを陛下に咎められ、挽回するために私と復縁しようとなさっているのでしょう」
「そこまで分かっているなら話は早い! シルビア、俺と」
「お断りします」
「まだ何も言ってないいいっ!」
「そもそも、聖女様はどうされましたか」
「……逃げた」
「は?」
「こんな魔物だらけの国はごめんだと、隣国に亡命した……」
「あらまあ」
「つまり! 俺と君を結ぶ障害は何もなくなったんだ。さあ、俺と」
「お断りします」
「なんでだよおおおっ!!」
「いえ、普通に貴方に魅力がありませんので」
「何だと!」
「取り合えず、燃えるか埋まるか、早く選んでくれませんか?」
「その物騒な発想をやめろ!!」
エドガー王太子殿下を急かすように、火竜が軽く炎を吐き、土竜が僅かに地面を隆起させました。
「ひいいっ! 分かってるのか、これはチャンスなんだぞ! 国に返り咲くことができる、絶好の――」
「必要ございませんわ」
私がきっぱり言い切ると、巨大な古代竜が山の上からのっそりと王太子殿下を見下ろします。
威嚇するように、その竜は唸り声を低く響かせました。
「くそおおおおっ、覚えてやがれ!!」
顔をひきつらせた殿下は、捨て台詞を吐きながら転がるように走り出しました。
小竜たちは彼の後を追いかけて、背中や頭を突っついています。
彼らは遊んでいる心算なのですが、殿下はそのたびにこの世の終わりのような悲鳴をあげていました。
――まあ、これくらいは無礼者には良い薬でしょう。
ちなみに王太子殿下はこのあと、王位継承権を剥奪されたそうです。
国を治める者としての、度重なる不適格な振る舞いがその理由だそうです。
また、聖女ミレイユ様の亡命した隣国は、最近、魔物に頻繁に襲撃されているとか。
もしかしたら、彼女自身が呪われているのかもしれませんね。
だって、あまりに聖女とは言い難い振る舞いが目立ちますもの。
でも、もう私には関係のないことですわ。
「ねえ、みんな」
私は今日も元気に、裏山で可愛い竜たちに囲まれています。
語りかければ、百匹の竜がこちらを見つめてきました。
「婚約破棄されて良かったわ」
もしあのまま王太子妃になっていたら、こんな生活はできなかったでしょう。
「グルル」
竜たちは嬉しそうに鳴きました。
私は微笑みながら、一匹一匹、その頭を撫でてやります。
婚約者はいなくなりました。
でも、その代わりに百匹の愛しい家族が増えて、私は幸せに包まれています。
竜たちは日に日に成長し、番となって卵を生み始めました。
また、小竜の一部が、新種の竜に進化する予兆も見られ始めたのです。
まだまだ賑やかで楽しい日々が、続いていきそうです。(終)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも「スカッとした」「竜たち可愛い!」と思っていただけたら、とても嬉しいです。
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ブックマークや感想も大歓迎です。
今後も短編を投稿していく予定なので、宜しくお願いします!
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!




