第12話 【天界解体】神域の粗大ゴミ、アンバインド(一括廃棄)します
天界の主が霧散し、黄金の玉座が崩れ落ちた。
静寂が訪れるかと思いきや、天界のあちこちで「バチバチ」と不穏な火花が散り始めた。
神というメインサーバーを失った天界は、今や巨大な「制御不能の廃棄物」へと成り下がっていたのである。
「……ゼノンさん、これ不味いです!
神様の演算で維持されていた浮遊術式が、次々とシャットダウンしてます。
……このままだと、天界の全質量が地上に『不法投棄(墜落)』されますよ!!」
実体化したルナが、手元の端末(今や彼女の指先から直接ホログラムが出る)を操作しながら叫ぶ。
「……やれやれ。……退職後の引き継ぎもなしに、職場を畳むとは……。
……無責任な経営陣には、最後まで困らされますね」
全能感に満ちたゼノンは、冷静に天界の全構造をスキャンした。
一万年分溜まった不必要な契約の残滓、機能停止した自動防衛システム、そして山積みの「神罰」の在庫。
「――ルナ。……『現場(地上)』の協力者に、最終清算の業務委託を。
……これより、天界の物理解体作業を開始します」
『了解! ――勇者連合、魔王軍、および全世界の協力機関へ!
これから空から降ってくる「ゴミ」を、各自のスキルで適切に処理してください!』
地上の空が、にわかに騒がしくなる。
「――待たせたね、ゼノン殿!
……落ちてくるのが神様のゴミなら、僕の剣で『粉砕』してやる!」
地上では、加護を捨てて真の英雄となったアルフレッドが、聖騎士団を率いて剣を構える。
「……フン。……神罰の在庫処分か。
……我が魔導艦隊の主砲で、宇宙の塵にしてやろう。……全艦、対空戦闘用意!」
魔王ゼクスが、不敵な笑みを浮かべて旗艦ベリアルから号令を下す。
勇者、魔王、そしてカナデやカイン。
かつての敵味方が、今はゼノンという「司令官」のもと、一つの巨大な「解体業者」へと変貌していた。
「――さて。……本丸は、私たちが片付けましょうか」
ゼノンがペンを振るうと、空中に巨大な「シュレッダーの刃」を模した魔導術式が展開された。
「アンバインド・アセット(資産廃棄)。
……対象:天界の全構造物。
……分別区分:不燃ゴミは魔力へ変換、可燃ゴミは熱エネルギーへ。
――残された『思い出』以外、すべてを抹消します」
ズガガガガガガガガガッ!!!
天界の黄金の壁が、神殿の柱が、物理法則を無視した「論理の刃」によって細断されていく。
それは破壊ではなく、整然とした「整理整頓」。
『……アワワ……ゼノンさん、演算速度が速すぎて、私の処理が追いつきません!
全能感って、こんなに恐ろしいんですね……っ!』
「……恐れることはありません、ルナ。
……これからの世界に、この『空の上のオフィス』は必要ない。
……人々が自分の意志で契約を結ぶ場所は、もっと身近な、喫茶店のテーブルで十分ですから」
ゼノンの指先から放たれる蒼い光が、天界の最深部にある「契約の核」を貫いた。
パリンッ!!!
世界を縛っていた最後の呪縛――「運命」という名の古いOSが、完全にアンインストールされた瞬間。
天界は美しい光の粒子となり、雪のように地上へと降り注いだ。
「……きれい……」
ルナが、空から舞い落ちる光の破片を手に取る。
それは、もはや人を縛る力を持たない、ただの「魔力の残滓」。
地上では、人々がその光を浴びながら、歓喜の声を上げていた。
「……ゼノン。……お疲れ様」
背後で、オーウェン所長がいつものようにコーヒーを啜りながら声をかける。
「……所長。……事務所の『片付け(清算)』、これで完了しましたよ」
「ああ。……だが、まだ一番大事な『支払い』が残っているだろう?」
オーウェンが、空っぽになった神の玉座を指差す。
「……神様への『退職金』だ。
……奴をただ消すだけじゃ、お前らしくないだろう?」
ゼノンは、薄れゆく神の意識の断片――光の核を見つめた。
「……ええ。……承知しています。
……神としてではなく、一人の『労働者』として、彼に報いるのが事務屋の筋ですから」
ゼノンは最後の一筆を、天界の消えゆく空に刻んだ。
物語は、神に対する「最後の手続き」――自由という名の退職金の請求へと向かう。
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