第2話:【魔力返還】偽りの強さ、アンバインド(差し押さえ)します
「――ガハハハ! 資格だと? 権利だと? そんな紙切れ一枚で俺が止まるかよッ!!」
レオンが狂ったように笑いながら、愛剣『ブラッド・スレイヤー』を振りかざす。
その刀身には、リリィから強制的に吸い上げた魔力がどす黒いオーラとなって渦巻いていた。
「アルフレッド! あんたは強すぎるんだよ。
だが、その『正しさ』が仇になる。俺は勝つためなら仲間の命も魂も全部使い潰す。
この一撃に、リリィの寿命十年分を詰め込んでやったぜ!! 受け取れぇぇッ!!」
レオンが踏み込み、黒い閃光を放とうとした、その瞬間。
「――返却の期限です。利息を含めて、すべてお返しいただきましょう」
ゼノンが冷徹な声と共に、バインダーのページを強くめくった。
「アンバインド・アセット(資産の強制返還)。
対象:勇者レオンが不当占有している全魔力。
返還先:真の所有者、魔導師リリィ」
パチンッ!! と、ゼノンが指を鳴らした。
その刹那、レオンの剣に宿っていた黒いオーラが、まるで意志を持っているかのように逆流を始めた。
「な……!? 何だ!? 魔力が……俺の剣から、逃げていく……!?」
「逃げているのではありません。……本来の場所に帰っているだけです」
逆流した魔力は、レオンの手を焼き、彼の筋肉を内側から引き裂きながら、リリィの体へと吸い込まれていく。
「ぎ、ぎゃあああああッ!! 熱いッ! 腕が、俺の腕がぁぁッ!!」
レオンは剣を取り落とし、床をのたうち回った。
彼が「自分の実力」だと思い込んでいた強大な魔力は、すべてリリィからの搾取で成り立っていた。
その供給源が絶たれ、逆に奪っていた分を強制徴収されたレオンの体は、見る間に萎んでいく。
一方、魔力を取り戻したリリィの肌には赤みが差し、絶望に濁っていた瞳に宝石のような輝きが戻った。
「……体が、温かい。……魔力が、私の言うことを聞いてる……」
「それが本来の姿です、リリィ様。
……さて、アルフレッド様。
不当な『粉飾魔力』を失った、ただの人間がそこにいます。
勇者の名誉を汚した罪、その清算をお願いします」
アルフレッドは、静かに一歩前へ出た。
聖剣『エクシード』が、彼の純粋な闘志に呼応して、一点の曇りもない白銀の光を放つ。
「レオン……。君は最後まで、仲間の想いを『燃料』としか思わなかったのか。
……君のような者が、僕と同じ『勇者』と呼ばれていたことが、今の僕には何よりの屈辱だ」
「ま、待て……! 待ってくれアルフレッド!
悪かった! 改める! だから、その剣を収めてくれ!
俺たちは仲間だろう!? 同じアデルバイド王国の……」
「――国はもう、ありませんよ。レオン様」
ゼノンがバインダーを叩き、冷たく遮った。
「あなたが縋っている『王国』は、先ほど事務的に解体されました。
今のあなたは、ただの『暴力的な債務者』に過ぎない。
アルフレッド様。……迷う必要はありません。これは処刑ではなく、正当な『強制執行』です」
「……ああ。……行くぞ、レオン。
君が踏みにじった者たちの痛みを、その身で知れ!!」
アルフレッドの体が、白銀の残像を残して消えた。
「ひ、ひいいいッ!!」
レオンが慌てて予備の短剣を抜こうとするが、指が震えて力が入らない。
自分より弱い者を痛めつけることしかしてこなかった男に、真の頂点の剣を凌ぐ術などなかった。
キィィィィィィィィィン!!
一閃。
アルフレッドの聖剣が、レオンの肩から胸にかけてを「光の鎖」で縫い付けた。
肉体を斬るのではない。勇者としての「器」を、物理的かつ魔法的に粉砕する一撃。
「ガッ……はあぁッ!!」
レオンは壁まで吹き飛び、そのまま深々とめり込んだ。
彼の目、鼻、口から、これまで蓄積してきた不浄な魔力が煙となって吐き出される。
「……レオン。君の勇者ライセンスは、今この瞬間、僕の手で『破棄』した。
二度と剣を握るな。二度と、人を導くなどという夢を見るな。
……地を這い、自らの罪を数えて生きるがいい」
アルフレッドは剣を鞘に収め、一度も振り返ることなくゼノンの隣へと戻った。
壁に埋まったまま、虚ろな目で宙を見つめるレオン。
かつての栄光も、金も、仲間も、すべてを失った「元・勇者」の末路であった。
「……お見事でした、アルフレッド様」
ゼノンは事務的に一礼し、リリィへと視線を向けた。
「リリィ様。これであなたの『退職手続き』は、実力行使を含めて完了しました。
これからは、誰に魔力を吸い取られることもなく、自分のためにその魔法を使ってください」
「……はい。……ありがとうございます、ゼノンさん。アルフレッド様」
リリィの顔に、本当の意味での「生気」が宿った。
だが、ゼノンの仕事はまだ終わっていない。
「さて……。ルナ。次の『整理対象』の居場所は?」
『ふふん、準備万端ですよ!
レオンのようなクズを勇者に仕立て上げ、裏で中抜きをしていた「王国勇者管理局」の幹部たち……。
今、証拠隠滅のために、極秘資料を持って帝国の亡命政権へ逃げ込もうとしています!』
「……逃亡、ですか。……最もコストのかかる、無駄な抵抗ですね」
ゼノンの眼鏡が、冷たく、そして鋭く光った。
「――追い詰め、すべての不正をアンバインド(公開)しましょう」
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