第13話:旧体制の逆襲、アンバインド(解放)します
魔王城・地下最深部。
そこは、かつて初代魔王が世界を焦土に変えるために封印した禁忌の区域。
その封印を、どす黒い魔力でこじ開ける影があった。
「――認めん。あのような小細工を弄する人間ごときに、我が軍が変えられるなど……!」
声を荒らげたのは、降格させられた元・人事委員長エルダーと、
再教育を拒み逃亡していた旧体制の将軍たちだった。
彼らの背後には、異形の魔導兵器『終焉を告げる巨像』が、不気味な脈動を始めていた。
「ホワイト化だと? 共存だと? 虫唾が走るわッ!
魔族は奪い、殺し、支配してこそ至高!
この禁断の兵器で城ごとゼノンを消し去り、ゼクス陛下を『再教育』して差し上げるのだッ!!」
その時。
冷徹な声が、地下の静寂を切り裂いた。
「――再教育が必要なのは、現実を見ようとしないあなた方の方ですね」
暗闇の中から、ゼノンが静かに歩み寄る。
その隣には、怒りに燃える瞳をした魔王ゼクスが並び立っていた。
「ゼノン……! それに陛下までッ!
くかかか! 自ら死にに来るとは手間が省けたわッ!!」
エルダーが狂ったように笑い、巨大なレバーを引く。
ゴォォォォォォォンッ!!
巨像が咆哮し、城全体を揺らすほどの魔力砲がチャージされ始めた。
「見よ! これこそが古き良き魔王軍の『力』だッ!!
一撃でこの国を消し飛ばす、絶対的な恐怖よッ!!」
ゼノンは落ち着いた動作で眼鏡を直すと、耳元の通信機を叩いた。
「ルナ。……『現場の力』、見せてあげなさい」
『了解です! ――新生魔王軍・各部署、同時介入開始ッ!!』
その瞬間。
地下室のいたる所から、訓練を積んだ若き兵士たちが次々と現れた。
「――第一魔導大隊、マニュアル通りの『並列結界』展開ッ!!」
かつてアーカイヴから術を解放された若手魔術師たちが、一糸乱れぬ動きで魔法陣を描く。
彼らが協力して作り上げた結界は、巨像の魔力砲をいとも容易く減衰させた。
「なっ……!? アーカイヴの秘術を、なぜこれほど多くの小僧共が使いこなせるのだ!?」
「秘術ではありません。……共有された『知恵』です」
ゼノンが淡々と答える。
さらに、巨像の足元に、ガウル将軍率いる第3軍団が躍り出た。
「――野郎どもッ! バカンスで蓄えたスタミナ、ここで全部吐き出せッ!!」
休暇によって完璧にメンテナンスされた筋肉が躍動し、
かつての倍以上の速度で放たれる打撃が、巨像の装甲を次々と砕いていく。
「ぐ、がぁぁッ!? 近接部隊の動きが……速すぎる!
なぜだ、奴らは飢えもせず、傷だらけでもないはずなのに!!」
「飢えは動きを鈍らせ、傷は判断を狂わせます。
今の彼らは、最高の食事と休息によって研ぎ澄まされた『完成体』ですよ」
ゼノンの言葉と共に、トドメを刺すべくゼクスが前へ出た。
「――エルダーよ。古き力こそが最強と信じて疑わぬ愚か者たちよ。
これがお前たちが軽んじた『現場の声』の力だッ!!」
ゼクスの魔力が爆発し、巨像の動力源を貫く。
ドガァァァァァァンッ!!
断末魔のような音を立てて、禁忌の兵器が瓦解していく。
「ば、馬鹿な……。俺たちの誇りが……俺たちの時代が……!!」
崩れ落ちる巨像の前で、エルダーたちは腰を抜かして震えていた。
ゼノンは、煤一つ付いていないコートを整え、彼らに歩み寄った。
「あなた方が守りたかったのは『時代』ではなく、自分たちが支配者でいられる『利権』だけだ。
その執着こそが、魔王軍をブラックな泥沼に沈めていた正体です」
ゼノンは、最後の一枚の「解雇通知書」を取り出した。
「――アンバインド・レガシー(旧態の解放)」
キィィィィィィィン!!
杖から放たれた光が、エルダーたちの魔力回路を完全に封印した。
「あなた方の『支配者としての身分』は、今この瞬間、消滅しました。
これからは、自分が蔑んできた『一般市民』として、
ホワイト化されたこの軍の下で、一から働き直すことです」
「ひ、ひいぃ……!!」
衛兵によって連行されていく老害たちの姿には、もはやかつての威厳など微塵もなかった。
静寂が戻った地下室で、ゼクスは大きく息を吐いた。
「……終わったな。ゼノン」
「ええ。これで、あなたの背中を刺す者は誰もいなくなりました」
「ああ。だが、それだけではない。
私の部下たちが、あんなにも頼もしく、楽しそうに戦う姿を見られたことが……
何よりも嬉しいよ」
魔王は、ゼノンの肩を軽く叩いた。
「これが、君の目指した『ホワイトな軍隊』の真価なのだな」
「いいえ、陛下。……これはまだ、プロローグに過ぎませんよ」
ゼノンは不敵に笑い、地上へと続く階段を指し示した。
「さあ、行きましょう。
城の上では、新しい時代を祝う『全軍バーベキュー大会』の準備が整っているはずですから」
「……ははは! それはいい! 最高の勝利の味になりそうだな!」
二人の英雄は、希望に満ちた地上へと歩き出した。
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