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『異世界退職代行』〜魔王軍から勇者パーティまで、不当な契約をアンバインド(解放)します〜  作者: 街角のコータロー
魔王軍組織風土改善編

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12/12

第12話:軍の暴力、アンバインド(解放)します

魔王軍・近接戦闘訓練校。

 そこは、将来の将軍候補を育成する学び舎であるはずだった。

 だが、校庭に響き渡るのは、教育の言葉ではなく、肉体が潰れる鈍い音と、罵声である。

 「――立てッ! 殴られた程度で気絶するなど、魔王軍の恥晒しめッ!!」

 校長を務めるのは、四天王バルガスの元部下であり、鉄拳のボーン。

 彼は倒れ伏す若き新兵の腹を、容赦なく踏みつけた。

 「魔族の教育に言葉など不要ッ!

 

 

 痛みを刻み、恐怖を植え付けることで、絶対服従の兵士が生まれるのだッ!

 

 

 逆らう奴は、この俺が叩き直してやるッ!!」

 周囲の新兵たちは、次は自分の番かと怯え、視線を地面に落としている。

 彼らの心は、忠誠心ではなく「殺されたくない」という恐怖だけで縛り付けられていた。

 そこに、静寂を切り裂くような、硬い靴音が響いた。

 「――暴力は、自らの知性の欠如を証明する、最も安直な敗北宣言ですよ」

 黒いロングコートを纏い、ゼノンが訓練場の中央へと歩み出た。

 「あぁ!? また貴様か、代行屋ッ!!

 

 

 ここは俺の『教育現場』だ! 文弱な人間に口を出される筋合いはないッ!!

 

 

 これは魔族の伝統、必要な痛みだッ!!」

 「伝統、ですか。……いいえ。それは単なる『加害者の自己正当化』です」

 ゼノンは無造作に、耳元の通信機に指を添えた。

 「退職代行『アンバインド』、エージェントのゼノンです。

 

 

 本日より、魔王軍内に『ハラスメント・コンプライアンス相談窓口』を正式に設置しました。

 

 

 ルナ。この訓練校における『教育的指導』の実態を」

 『はい、ゼノンさん。――全軍にライブ中継でお届けします。

 

 

 ボーン校長による「指導」の結果、過去一ヶ月で再起不能になった新兵、合計四十二名。

 

 

 そのすべてが、戦場ではなく「校長室」での私的な暴行によるものです。

 

 

 これ、教育じゃなくてただの「ストレス発散」ですね。最低です』

 訓練場の空中に、ボーンが隠れて部下を痛めつけていた隠しカメラの映像が、魔法投影プロジェクションされる。

 「なっ……ななな、貴様ぁッ! 盗撮したのかッ!!」

 「監視です。……陛下から預かった大切な人材を、私物化して壊す権利は、あなたにはない」

 ゼノンは一歩、ボーンに近づいた。

 「ボーン校長。あなたは今日、軍を『懲戒解雇』となります。

 

 

 さらに、被害を受けた兵士たちへの賠償金を、あなたの私財からすべて差し押さえます」

 「ふざけるなッ! 力こそが正義の魔界で、そんな理屈が通るかッ!!

 

 

 その小生意気な口ごと、握り潰してやるわッ!!」

 ボーンが巨大な拳を振り上げ、ゼノンの顔面に向けて魔力全開のパンチを放った。

 ドォォォォンッ!!

 凄まじい衝撃波が広がるが、ゼノンは指一本触れられていなかった。

 「……が、はっ!? な、なんだ……この、痺れは……!?」

 ボーンの拳が、ゼノンの数センチ手前で、青白い稲妻に包まれていた。

 「――アンバインド・バイオレンス(暴力の解放)」

 ゼノンは冷徹に告げる。

 「あらかじめ、この訓練校の全員に『コンプライアンス印章(契約魔法)』を付与しておきました。

 

 

 不当な攻撃意図を持って部下に手を上げようとした瞬間、その魔力はあなた自身を麻痺させる電流へと変換されます」

 「き、貴様……俺の魔力を、逆流させたのか……!?」

 「暴力に頼る者は、暴力を奪われた時に最も無力になる。

 

 

 言葉で人を動かせないあなたは、もはや指揮官としての価値はゼロです」

 ゼノンが杖を軽く振ると、ボーンの巨体は電流に焼かれ、無様に地面を転がった。

 「……諸君。これからは、拳で語る必要はありません」

 ゼノンは怯えていた新兵たちに向き直った。

 「理不尽な命令や、不当な暴力があれば、いつでも窓口に報告してください。

 

 

 私が、そしてルナが、必ずあなたたちをアンバインド(解放)します」

 新兵たちの中から、堰を切ったように拍手が沸き起こった。

 それは、暴力という鎖から解き放たれた、魂の産声だった。

 魔王城・執務室。

 魔王ゼクスは、窓の外で明るく談笑しながら訓練に励む若者たちを見て、静かに微笑んだ。

 「……ゼノン。君の言う通りだ。

 

 

 恐怖で支配するよりも、敬意で繋がる方が、軍は遥かに強くなる」

 「陛下。……それが『組織』というものの、あるべき姿です」

 ゼノンは、残された最後の一枚の書類に目を通した。

 「……これで、主要なハラスメントと腐敗の温床は、すべて排除アンバインドしました」

 「そうか。……ついに、終わったのだな」

 ゼクスは少し寂しげに、空になったコーヒーカップを見つめた。

 「ああ。これで私の軍は、世界で最も『働きやすい』場所になった。

 

 

 ……だが、それは同時に、君との契約が終わることも意味しているのではないか?」

 ゼノンは答えず、ただ眼鏡を直した。

 その時、城内に不穏な鐘の音が鳴り響いた。

 『ゼノンさん! 緊急事態です! ――改革に不満を持つ旧勢力、老害将軍たちが……!

 

 

 地下の「禁忌の魔導兵器」を奪って、クーデターを起こしましたッ!!』

 ルナの緊迫した声が、部屋に響き渡る。

 ゼノンは、ほんのわずかに不敵な笑みを浮かべた。

 「……陛下。最後のお掃除が必要です。

 

 

 ホワイト化された我が軍の『真の強さ』、彼らに教えてあげましょう」

 「ふっ……。喜んで。……共に行こう、ゼノン!」

 魔王軍を揺るがす最後の嵐。

 

 

 それは、改革を完成させるための、最終試験フィナーレだった。



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