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『異世界退職代行』〜魔王軍から勇者パーティまで、不当な契約をアンバインド(解放)します〜  作者: 街角のコータロー
魔王軍組織風土改善編

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第11話:秘伝の魔術、マニュアル化(解放)します

魔王軍・第一魔導大隊。

 そこは軍の中でもエリートが集まる部署だが、実態は一人の男の「独裁」下に置かれていた。

 「――ええい、違うと言っておろうが!

 

 

 この古代魔導式の収束ポイントは、もっと『感覚』で掴むのだ!

 

 

 何百年修行しても分からんのか、この出来損ない共めッ!!」

 怒鳴り散らしているのは、魔導大隊長、古の魔術師・アーカイヴ。

 彼は五百年生きる大魔導士であり、魔王軍の防衛結界の主核を担う「唯一の術者」を自称していた。

 「……申し訳ありません、アーカイヴ様。

 

 

 ですが、その『感覚』をもう少し具体的に教えていただけないと、我らでは維持が……」

 若き魔術師が震えながら問うが、アーカイヴは冷酷に鼻で笑う。

 「教えるだと? ぬかせ。これは我が一族に伝わる一子相伝の秘術。

 

 

 安安と他人に教えられるか。……死に物狂いで俺の背中を見て盗め。

 

 

 それが嫌なら、この大隊を去れ。……もっとも、俺がいなくなれば、この城の結界は一秒で崩壊するがな! ヒッヒッヒ!」

 アーカイヴは知っていた。

 

 

 技術を独占し、ブラックボックス化(秘密に)し続ける限り、

 

 

 自分は組織にとって「切れないカード」であり続けられることを。

 だが、その歪んだ特権意識を打ち砕く、冷ややかな声が響いた。

 「――『盗んで覚えろ』。それは、教育を放棄した無能な指導者の言い訳ですね」

 黒いコートの男、ゼノン。

 彼は手に、一枚の水晶板(魔導タブレット)を持って現れた。

 「……また貴様かッ! 代行屋ッ!!

 

 

 魔術の深淵を知らぬ素人が、私の神聖な研究室に土足で踏み込むなッ!!」

 「深淵など必要ありません。必要なのは『再現性』と『効率』です」

 ゼノンは無造作に、水晶板を若き魔術師たちに向けた。

 「退職代行『アンバインド』、エージェントのゼノンです。

 

 

 本日を以て、魔王軍における『秘伝』という名の技術独占を禁止します。

 

 

 ルナ。例のブツの配布準備は?」

 『完了していますよ、ゼノンさん。――アーカイヴ大隊長。

 

 

 あなたが五百年かけて隠し続けてきた「古代魔導式の構造」……。

 

 

 私の超高速演算により、すべて解析・言語化・図解化が完了しました。

 

 

 名付けて、『誰でもわかる! 3分で張れる最強防衛結界マニュアル』です!』

 「な……ななな、何を言っている!?

 

 

 我が一族の秘術を解析だと!? そんなこと、人間にできるはずが……!!」

 『はい、全軍の魔導受信機へ一斉送信アップデート開始っ!!』

 ピコン、ピコン、と若き魔術師たちの手元の水晶板が光る。

 「……これ、すごいぞ。今まで『気合』だと言われていた部分、

 

 

 実は魔力の周波数を440ヘルツに固定するだけだったのか!?」

 「図解が分かりやすい……! これなら、新兵のゴブリンでも結界が張れるぞ!」

 「アーカイヴ様が『百年かかる』と言っていた奥義……

 

 

 この手順通りにやったら、今、できました!!」

 部屋のあちこちで、若手たちが次々と「秘術」を発動させ始める。

 アーカイヴが独占していた光輝く結界が、そこら中で安売りされるように輝き出した。

 「バ、バカな……!! 私の、私の五百年が……!!

 

 

 こんな紙切れ……いや、板切れ一枚で……!!」

 「アーカイヴ大隊長。技術とは、共有されて初めて組織の資産となります。

 

 

 自分を特別に見せるために後進を腐らせる行為……。

 

 

 それは組織に対する『知的財産の横領』です」

 ゼノンは絶望に震える老魔術師を見下ろし、バインダーにチェックを入れた。

 「今日からあなたは、『唯一の術者』ではありません。

 

 

 ……代わりに、全魔術師に知識を共有する『教育担当』へと降格、

 

 

 もしくは、そのプライドと共に『退職』を選んでいただきます」

 「う、うおおおおッ!! 認めん、認めんぞぉぉッ!!

 

 

 私をコケにした報い、受けてみよッ!!」

 アーカイヴが暴走し、全魔力を込めた禁呪を放とうとした。

 「――アンバインド・スペル(術式の解放)」

 ゼノンが杖を軽く振る。

 パリンッ!!

 アーカイヴが練り上げた膨大な魔力が、まるで見えない刃で切られたように、

 

 

 綺麗な「基礎魔力」へと分解され、空気中に霧散した。

 「……私の、禁呪が……!? 詠唱すら……終わる前に……!?」

 「あなたの術式は、すでにルナによって『バグ修正デバッグ』済みです。

 

 

 私に対してその術を使うためのキーコードは、すでに無効化されています」

 ゼノンは冷たく言い放った。

 「技術に溺れ、アップデートを怠った者の末路です。

 

 

 ……さようなら、大隊長。あなたの『秘密』は、今や全軍の『常識』になりました」

 アーカイヴは力なく膝をつき、若手たちが意気揚々とマニュアルを読み耽る姿を、

 

 

 ただ呆然と見つめることしかできなかった。

 魔王城・執務室。

 魔王ゼクスは、全軍に配布された「マニュアル」を手に、感嘆の声を漏らしていた。

 「……信じられん。あの気難しいアーカイヴの術が、これほどまでに簡潔になるとは。

 

 

 これなら、私にもこの結界が張れそうだ」

 「陛下。組織の強さは、一人の天才の背負う重さではなく、

 

 

 全員で支える基盤の厚さで決まります」

 ゼノンは、疲れを見せることなく次の書類を取り出した。

 「……次は、『部署間の壁(縦割り)』の打破ですね。

 

 

 魔法部隊と近接部隊が、お互いの手柄を巡って……」

 「……いや、ゼノン。少し休んだらどうだ?

 

 

 君こそ、有給休暇が必要ではないのか?」

 魔王が心配そうに尋ねるが、ゼノンはわずかに口角を上げただけだった。

 「陛下。……私の休暇は、この『アンバインド(解放)』という仕事そのものですから」

 「ははは。……やはり、君には勝てんな」

 魔王軍は、確実に「誰でも戦える、最強の合理化組織」へと進化していた。

 しかし、その「合理化」によって、

 

 

 居場所を失った『特権階級』たちの怒りは、ついに沸点に達しようとしていた。

 改革の火を消そうとする、最後の抵抗が……すぐそこまで迫っていた。



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