寂れた街のスタンピード
それは十数年前のことだった。世界に突如としてモンスターが現れた。モンスターを倒すと経験値が手に入り、レベルとかいう訳の分からない数値が上がる。そしてなぜかレベルを上げると戦闘能力が上がる。
こんな得体のしれない法則がこの世界に追加された。人間はモンスターを倒すとレベルが上がり、モンスターは食べ物を食べたり、人間を殺したりするとレベルが上がる。
人間は倒したモンスターが強ければ強いほどレベルが上がる。
対してモンスターも殺した人の強弱で手に入る経験値の量が左右される。食べ物に関しては質のいいものであればあるほど経験値が手に入る。
まるでゲームのようだった。モンスターを倒すとなんかいろんなものが落ちる。それはモンスターのスキルだったり、素材だったり、装備だったりと多種多様である。ついでにモンスターを一度殺すと職業が本人の適性に応じて選ばれる。その職業の数は無数だ。職業によって手に入るスキルは違う。さらにゲーム要素に拍車がかかった。
モンスターを倒すと金が手に入るので、モンスターを狩る職業が生まれた。それが冒険者だ。そうなると冒険者から税金を取り立てる必要ができた。そうして冒険者に関するお役所が作られた。
ちなみに冒険者はゲーム大好きなオタク共が呼び始めて定着した通称であり、公的機関がつけた名称は長くややこしく僕も正しく覚えていない。
世界はいろんな意味で大盛り上がりだった。やれモンスターに人が殺されたり、冒険者が成り上がったり、モンスターが落とした道具が役に立ったり。モンスターに畑が荒らされたりとか。話題に事欠かさなかった。
そんな激動の時代でも変わらないことがあった。田舎は寂れたままだということだ。モンスターは人の住んでないところに生まれる。そのため最初は田舎にいる。しかし田舎には人が少ない。
そんなにたくさんの人を殺すことができず経験値の効率が悪い。モンスターは食べ物を食べることでもレベルは上がるが、田舎じゃあ残飯の量も少ない。そのためしばらくモンスターはコツコツとレベルを上げてゆく。そしてレベルが一定に達すると知性を手に入れる。
するとどうなるか。賢くなったモンスターは効率的なレベル上げの方法を考える。考えた結果、経験値を求めて、人があふれ、残飯食べ放題の都会に向かうことになる。そうなると冒険者も強いモンスターを求めて都会に行く。モンスターと冒険者の首都圏一極集中であった。
モンスターが出ようが田舎は田舎のままだった。そして僕が冒険者として活動している稚内も例外ではない。冒険者になってるのは年寄りばかりだし、鹿っぽいモンスターや牛っぽいモンスター、鮭っぽいモンスターなどが出るが、知性がまだ芽生えていない連中なのでそんなに強くない。
なので落ちるものもあまり価値がない。鹿の毛皮とか肉とか、角とかだ。落ちるものの質もモンスターの強さに比例するのだ。つまり冒険者は田舎じゃ金を稼げない。
マジでこんな所で冒険者をやりたくない。しかし僕はこれでも稚内で最強の冒険者だ。抜けたら町にモンスターがあふれてしまう。どれぐらい強いのかというと冒険者のレベルの世界平均は現在26だが、僕はレベル37だ。ちなみに職業は野蛮人。
野蛮人というのは蔑称ではなくちゃんと職業の一つだ。力とスピードに関する補正が高く、防御力が低い。そして得られるスキルは乱暴な戦い方に向いているものが多い。使うと補正がかかる武器は斧や棍棒など重い武器だ。
斧は斧でもハルバードみたいな使い方が難しい斧には補正がかからない。使い方が難しい武器を使っていたら野蛮に見えない。きっと補正がかからないのはそういう事なのだろう。
僕は鹿が群れで出てきたときにまとめて一掃している。この町でそれだけ強いのは僕だけなのだ。一応稚内の他の冒険者も長く冒険者をやってるだけあってレベルは30前半くらいあるのだが、いかんせん年寄りなので、どうしてもレベルの割に弱いのだ。
それなのに頑張ってくれる冒険者の皆さんに頭が上がらない。稚内の冒険者の皆さんは町の平和を守るため、あとついでに苦しくなる生活の足しにするため今日も老体に鞭を打つ。
僕は稚内の他の冒険者のように高い志を持って冒険者をやっているわけではない。僕は都会で早口で落ち着きがないためにいじめられていた。ついでに顔もブサイクなのできもいと言われていた。しばらくは耐えたが、ある日耐え切れずに椅子を持って暴れてしまった。
そうしていじめっ子連中をタコ殴りにしたら高校の合格を取り消されたのだ。そして15の春を笑えなくなった僕は、精神療養のため稚内に帰った。
そこでおばあちゃんにまともな職業には就きにくいもしれないから、ここで冒険者をやることを提案されたのだ。おばあちゃんひどくね?ストレスが溜まってた僕は、町をうろついている鹿どもに腹が立っていたので冒険者になって毎日、夢中になって鹿どもを狩りまくった。
そして気づいたらレベル37になっていた。さてと今日も鹿を狩りまくろうかなと思ったら、スマホが鳴り響く。役所からだ。なんだ鹿の群れでも出たのかな?そう思って電話に出る。
「もしもし鈴本ですが?」
電話に出た途端、役所の職員さんが慌てた声で言った。
「大変です。モンスターの中規模の群れが町の近くに集結。すぐに役所に来てください対策会議です。」
なに?中規模の群れ?いつも出てくるのは鹿が数匹。それで小規模。中規模の群れとなると数十匹だ。町が危ないじゃん!すぐ僕は返事をした。
「すぐ行きます!」
僕は密着ボトムスと密着インナーを着て、黒鉄製の膝パッドに肘パッド。それに頑丈なグローブを装着して、物がいっぱい入る魔法のポーチをつけて、コンバットブーツを履いて。両手斧を手に持ち駆け出す。
僕はレベルが上がっているのでかなり速く走ることができる。馬くらい速い。あっという間に役所に着いた。
役所につくと既に稚内の冒険者が勢ぞろいしていた。そして会議室に次々入っていく。僕も急いで入る。そこには役所の職員がいて、椅子が並べられていた。みんな椅子に座って真剣な表情をしている。
僕もとりあえず椅子に座った。そのあと遅れてきた何人かが座った。そして会議が開かれた。職員が重々しい雰囲気の中で口を開いた。
「今回町の外に中規模の群れを確認しました。なんとその中にはボス級が四体。これを稚内自衛隊の応援なしで制圧します。」
部屋の雰囲気がさらに重くなった。稚内のすぐ近くにはロシアがある。そのため沿岸を監視する部隊が稚内には存在する。モンスターが出るようになってからは積極的にモンスターを駆除してくれていた。彼らは若いし、僕に並ぶ程の高レベルの隊員もいる。その助けが得られない。何故?職員が沈黙に耐えられなくなり理由を説明した。
「沿岸からは今は巨大タラバガニが迫ってきており、そちらも倒す必要があるからです。」
巨大タラバガニ!かなり驚いたが。今は驚いている時間さえもったいない。最低限のことを説明された後に僕たちは現場へと向かう。そこでは確かに中規模の群れが前進している。
ボス級の四体は多分あいつらだろう。槍を持った半魚人のような鮭。二足歩行するヒグマ。かっこいい斧を持った、ミノタウロスとそっくりな宗谷黒牛。全長5メートルはある歩く分厚い巨大昆布。
そしてそれぞれ自分と見た目が似てる取り巻きを連れている。昆布モンスターは十数匹ぐらい連れているが、ほかのボス級は数匹しか取り巻きがいない。ボスモンスターの強さの指標の一つに統率しているモンスターの質と数が挙げられる。昆布モンスターが一番強いのかな?こいつら何者?みんなそう思って思わず足が止まる。
{我々は稚内魔王軍!貴様ら冒険者を皆殺しにして、しばらくの間、人間を乱獲するためにやってきたのだ!」
昆布モンスターがきっちり解説してくれた。だとしたら通すわけにはいかない。僕は歩いて前に出た。そして勢い良く叫ぶ。
「魔王がなんだああああ!僕が鹿狩りだ!僕のいる街で暴れるなんていい度胸じゃねえかあ!てめえら全員八つ裂きにしてやるぜええええ!」
鹿狩りとは僕の二つ名だ。鹿の魔物を殺した数がとても多いのでそう呼ばれてる。こういう時に二つ名を名乗っとくと気分良くなるから言っといた。中二病はなかなか治らない。その叫びを聞いた昆布モンスターが不敵に笑いながら口を開く。
「ほう、お前が噂の冒険者か?ならかかれ!四天王!」
四天王?昆布モンスターが魔王だとしたら、あとは三人しかいないように見えるが?他にもいるのかな?そう思ってたら、鮭とヒグマと宗谷牛が前に出てくる。やっぱり三人しかいないんじゃないか?四天王の数が合わないことにツッコミを入れたくなって、僕は叫んだ。
「四天王なのに三体しかいないじゃないかああ!」
ヒグマが顔をゆがめた。そして苦しそうな顔をして言った。
「だって・・・・・・。こんな田舎に残る高レベルのモンスターはなかなかいないのでクマ。」
僕は顔を真っ赤にしてまくしたてる。
「お前っ!こんな田舎だとお!僕の住んでるところをそんな風に言うんじゃねえよ!あとはなんだ?語尾にクマ?ふざけてんのか?ぶっ殺すぞ!」
喋りながら、僕はいきなり飛び出した。そしてヒグマの首を吹っ飛ばして飛び退く。おっと。レベルが上がった。宗谷牛が顔を青ざめて震えながら言った。
「うわあ。本当に殺した。ヤンキーかよ。」
僕は人のことをヤンキーと決めつけた失礼な宗谷牛をにらめつけた。
「ああん?」
稚内のブランド牛モンスターは震えだした。威圧されて怖がるなど情けない奴だ。鮭は幻の牛肉を体につけているモンスターとその他の仲間達を落ち着かせるように言った。
「まあ、あいつは四天王の中でも最弱でやんす。しかし、あの冒険者が強いことは変わらないでやんす。二人がかりで倒すでやんす。」
やんす?ふざけた口調だな。それはそれとして、あのヒグマが最弱?一番強そうに見えたけど。気になったので聞いてみた。
「じゃあ最強の四天王はどっちだよ?」
鮭が誇らしげな顔をしている。まさか?いやそんなわけは。でも宗谷牛が少し悔しそうにしている。鮭が言い放った。
「あっしが最強の四天王でやんす!」
嘘だろ。おい。どう考えてもヒグマに瞬殺されそうな見た目をしているが、モンスターも見かけによらないもんだ。
まあとりあえず死んでもらおう。誇らしそうな顔をしている鮭に飛び掛かる。鮭は僕の斧を槍でそらす。僕はそれを見て飛び退く。冒険者たちも雑魚モンスター達と争い始めた。戦闘開始だ。
宗谷牛が僕に向かって突撃してくる。そして僕の前に来ると斧を勢い良く地面に振り下ろす。僕は横に跳んで避ける。避けたところで鮭の声が聞こえた。
「鮭突ヤムワッカナイ!」
ヤムワッカナイ?アイヌ語で冷たい水の沢。稚内の地名の由来だ。言ったとたん。そこはきれいな森の中だった。そして僕の足元には冷たさそうな水の沢が広がっていた。次の瞬間、鮭が無数に出てきて、水面から飛び掛かってくる。
僕は慌てて沢から出た。おかげで無傷だったがとても驚いた。固有スキルだ。一部のモンスターが持っているスキルだ。こういうのは倒すと受け継がれることがある。かなり強力だぞ。一瞬とはいえ僕が見ている景色を変更させて、さらにすごい勢いで鮭が突っ込んでくるとは。
本気を出さないとな。暴走スキルを発動させる。暴走スキルは理性をなくすことで身体を強化することができる。とてつもない高揚感が僕を支配する。
「キイエエエエエエエエッ!」
大きく叫びながら鮭に斧を振りかざす。鮭は斧を槍で払った。そして槍を僕の胴体をむく位置に戻しそのまま突き込んでくる。斧は重心が高いところにある武器だ。重心が高いということは振り回しにくいということなので、払われた直後に来た攻撃を防ぐことは難しい。
なので半身になって、突きをかわす。そして払われた斧を自分の頭の近くまでもっていき、そのまま斬り下ろす。鮭はそれを見て、後ろに一歩引く。
僕はそれを見て、さらに勢いづく。突撃スキルを使う。突撃スキルとは野蛮人などの職業で取得できるスキルで直進しかできないが、その時のスピードと筋力はかなり上がるというスキルだ。
そうして僕は鮭に向かって突っこんでいく。鮭はあまりの速度に驚いている。死ねねええええ!斧を振り上げて、鮭に振り下ろす準備をする。しかしその瞬間、黒い影が見える。宗谷牛が割り込んできた。
死ぬのは宗谷牛でも構わなかった。僕は斧を勢いよく振り下ろした。しかし宗谷牛は斧のハンドルの部分で僕の斧を止めた。なんてパワーだ。暴走と突撃のスキルを使い、そもそも元から力が強い野蛮人という職業についている僕と互角だと!さすがボス級。
僕は力で勝てないことが分かったので飛び退く。そして跳ね回りながら近づく。力で勝てないのら、速度で勝つ。宗谷牛と鮭は跳ね回る僕を目で追う。
しかし集中力の問題もあり、いつまでも僕の姿を目で捉える事はできないはずだ。今だああ!少し宗谷牛に隙ができたので斧を上段に構え斬りかかる。
「キエエエエエエエエエエエエイイイイイイ!」
絶叫とともに宗谷牛の頭蓋骨を砕いた。レベルが上がる。鮭は仲間が死んだのに気を取られず、僕に迫る。すり足で近づき、足を前に滑らせるとともに鋭い突きを打ち込んでくる。一歩横に動いて突きをかわす。鮭は仲間が一人死んで形勢不利と見るや、後ろに下がって叫んだ。
「鮭突ヤムワッカナイ!」
僕の見ている景色が切り替わる。僕は飛び掛かってくる鮭達に向かって走り、それを飛び越えた。飛び越えた先には鮭がいる。空中で斧を振りかぶり鮭の頭を砕いた。レベルが上がった。そしてアナウンスが響く。
「鮭突ヤムワッカナイを獲得しました!」
おっしゃあああああ!一流の冒険者なら持っていて当然とされている固有スキルを入手したという達成感が脳みそを支配する。有名な冒険者になってテレビの取材を受けているところを想像した。
成功の秘訣聞かれたらなんて答えようかな。やっぱりモンスターぶっ殺すの楽しかったからって答えようかな?でもそれだと頭おかしい人みたいだから、諦めなかった事って答えようかな。それはありきたりだよなあ。
「おい、おい、しっかりしろおおお!」
なんだうるさいな。テレビの取材の最中だぞ。静かにしてくれないかな。僕は怒りを抑えて口を開いた。
「うるさいよ。テレビのスタッフの迷惑になる。」
次の瞬間、いきなり肩をゆすられた。うおおお。なんだ何事だ。ここはテレビのスタジオじゃないのか?じゃあどこなんだ?どこからか怒鳴り声が聞こえる。
「おい正気に戻れええええ!」
あまりの騒音のせいで目が覚めた。目の前で爺さんが心配そうな顔で僕を見つめている。そうか。固有スキルを手に入れたから、うれしすぎて正気を失っていたのか。僕は恥ずかしさをこらえて感謝の言葉を口にする。
「有難う。少し錯乱していた、怪我はないよ。」
爺さんは、感謝の言葉に受け答えする余裕がないようだった。目は大きくかっぴらき、表情筋はこわばっている。借金を返せなくなった人のようだ。そんなひどい顔をしながら僕に言った。
「礼はいい!早く戦いに戻ってくれ!」
そんなに戦況はひっ迫しているのか?あと残ってるボス級は巨大昆布だけのはず。稚内の雑魚モンスター共と稚内の冒険者の強さには大きな差がある。冒険者の皆さんも、そろそろ雑魚を一掃しているだろう。
一匹だけになった巨大昆布を数の差で押せば容易に倒せるはず。そう思って僕は巨大昆布のほうを見た。巨大昆布は稚内の冒険者数名とにらみ合っていた。なんで冒険者が数名しかいないのかと疑問に感じたが、何のことはなかった。体力切れでへばって遠くで休んでいただけだった。じいさんばあさんばっかだから仕方ない。
若い冒険者が稚内に来てくれないかなと切実に願っていると、職業が魔法使いのおばあさんが、風の刃を飛ばす。巨大昆布に風の刃は見事に命中した。しかし巨大昆布はにんまりと笑みを浮かべている。
よく見ると巨大昆布の表面には傷一つついていない。どういうことだ?なんかのスキルか?何か弱点があったりしないか?利尻昆布は笑いながら言い放った。
「利尻昆布はほかの昆布に比べて硬いんじゃ!この程度の魔法じゃ傷一つつかんぜい!」
単純に利尻昆布の特性だった。利尻昆布すげえ。これほどの硬さとは恐るべし。みんなの表情が険しくなる。次の瞬間、巨大昆布は体表から液体をものすごい勢いで冒険者の皆さんに発射した。冒険者の皆さんはとっさによけるが、巨大昆布の液体は地面をもえぐる。
えぐられた土が冒険者の皆さんを襲う。さすがに冒険者の皆さんも全ての土はよけることができず、次々と地面に倒れ伏して動けなくなっていく。みんな死んではいないようだが戦える状態でないのは確かだ。
冒険者の皆さんを一掃した巨大昆布が殴ってやりたくなるようなドヤ顔をして勝ち誇ったように言った。
「こんなものかあああ!冒険者どもよ!我の必殺技、だし汁ぶしゅーの前には手も足も出ないようだな。やはり利尻昆布のだし汁は質も量も世界一いいいい!」
あれ、だし汁なのかよ。確かにその辺から旨味成分がたっぷりのだし汁のにおいがする。おのれ、利尻昆布。まさかこれほどとは。今戦える冒険者は僕だけだ。ここで僕が負けたら、町に被害が出る。そうなればおばあちゃんが危ないし、ここにいる冒険者の皆さんもあの巨大昆布の経験値になってしまう。
負けるわけにはいかない。僕は暴走のスキルを発動させる。激しい感情が僕の脳みそを侵略していく。突撃スキルを使用して巨大昆布のもとへ迫る。巨大昆布は僕のほうを向いてだし汁を放つ。僕はだし汁を避けて走る。
飛んでくる破片を飛び越えながら巨大昆布にさらに接近。僕は斧を斜め上から勢いよく振り下ろす。巨大昆布は後ろに跳んで距離をとる。攻撃が当たりきる前に距離を離されたせいか手ごたえが少ない。
「何っ?我の体に傷がついているだと?まさかこれほどとは鹿狩り。おまえを倒せばこの町は終わりだ。最後の戦いを始めようではないかあ!」
巨大昆布は驚きと感動を混ぜたような声で僕にそう言った。昆布のくせにラスボスのようなセリフを吐きやがった。僕は巨大昆布がセリフを言い終わった瞬間にとびかかった。巨大昆布はだし汁を地面に浴びせて、自らの周囲に土塊をばらまく。
僕はすかさず後ろに飛び退いた。巨大昆布は何が気に入らなかったのか、迷惑なことに怒って僕に説教をし始めた。
「我のセリフの後になんか意気込み言えよ!いきなりとびかかるんじゃねえ。マナー違反だぞ!だいたいな・・・・・・。」
戦いにマナーがあるかよ。わけのわからないことをぬかしやがって。僕は奇声を上げながら説教を続けようとする巨大昆布に襲い掛かる。
「この野蛮人がああああ!」
確かに僕の職業は野蛮人だね。当たり前のことを言い出した巨大昆布を僕は斧で斬りつける。巨大昆布は薄っぺらい体をそらしたが、完全によけることはできず、体の端に切れ込みが入る。
昆布は全身を鞭のように使って僕をビンタする。僕は後ろに跳んで衝撃を逃がすが、かなりのダメージだ。まともに戦っても勝てない。そう思った僕は手に入れたばかりの新しいスキルを使った。
「鮭突ヤムワッカナイ!」
このスキルの発動条件は魔力を消費したうえで技名を叫ぶことだ。強力な技なので魔力をごっそり持っていかれた。巨大昆布の顔が驚きに染まる。突撃スキルで僕も走り出す。巨大昆布は鮭をだし汁でまとめて撃ち落とす。
僕は突撃スキルを解除して、その勢いのままに飛び上がった。鮭を全部撃ち落とした巨大昆布は安堵の表情を浮かべている。鮭が撃ち落とされる一瞬前に、鮭の陰に隠れて高く飛び上がった僕の存在に気付くことなく。
空から落ちてくる僕の存在に巨大昆布が気付いた時にはすべてが遅い。僕は巨大昆布を頭から切り裂いた。巨大昆布は真っ二つになり地面でしばらく痙攣した後、動かなくなった。
レベルが何個か上がった。巨大昆布の命が失われたのを見届けたのか、冒険者たちから歓声が上がった。とても誇らしい気分だ。心なしか勝利のファンファーレが聞こえる。プルルルルってね。あれ?それ電話じゃねえか?
「もしもし鈴本ですが。」
電話に出ると職員さんが慌てた声で僕に説明する。さっきも似たようなことがあったばかりなのだが。次は何だろう?
「巨大タラバガニに自衛隊の皆さんが苦戦しています!急いで応援に来てください!」
僕は天を仰いだ。稚内はいつでも人手不足だ。モンスターが出るようになっても田舎は田舎のままだった。稚内はいつでも若い人を求めている。マジで誰か来てくれ。僕は溜息を吐いて、冒険者の皆さんに役所からの電話の内容を説明した。まだまだ仕事は始まったばかりだ!