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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元彼が聖女になりました

聖女になった彼に「またね!」と手を振った

作者: 押野桜

腕組みをして枕元に座っていた修に、静かな声で更良は


「もう死にます」


と言った。

更良(さら)の白い顔には、イタズラっぽいかすかな笑顔がある。

(しゅう)は長い間悲しんだ果ての落ち着いた、けれど芝居がかった声で、


「そうかね、もう死ぬのかね」


と返した。

更良も芝居っけたっぷりで楽しそうに、


「死にますとも」


と応えた。

修は涙をこらえながらささやく。


「百年待ったら白い百合が咲くかな」

「きっと咲くから待っていてね」


更良がゆっくりと目を閉じ……修がナースコールを押した、その瞬間。

ぶわぁあああ!と、虹色の光が二人から放たれる。


「えっ、何?何が起こっ……」


修の戸惑う声がフツッと消え、虹色の光も消える。

その後には、抜け殻のベッドだけが残っていた。


※※※


「白い空間ってこんな感じなんだね」

「まさか自分が来るとは思わないよね」


二人はお互いしかいない空間でのんびりと話していた。

修は更良が普通に立てていることに気づく。


「立てるの?」

「痛みが無くなってる。嬉しいなぁ」

『おい』


更良は腰をさする。

修はタバコを探す仕草をした。


「やだ、吸わないでよね」

「タバコがないから吸えないよ」

『おい!』


白い空間にホウッ、と光が灯った。


『無視するなよ!神だぞ!』

「「あっ、やっぱりそういうテンプレなんだ」」

『テンプレ……もっと敬意を持ってくれよ!』

「いやー、光に敬意?それは難しいね」

「ちょっと、仮にも神様に失礼よ」

『あっ、君、良い子なんだね』


光が虹色に瞬いた。

光は次第に形を成してゆく。

光は白く輝くウサギの姿になり、フワフワと漂う。


『あれ?一人呼んだつもりだったのに二人いるの?』

「あっ、私が死んだ瞬間だったからじゃないの?」

『えっ、君、死人?』

「多分そうですよぉ」

「そしたら本当は俺しか呼ばれなかったってこと?」


そうだ、と光はゆらめく。


『聖なる乙女を探して君に行き着いた。こちらの世界に来てはもらえないだろうか?もし、君が聖なる乙女となるならそこの彼女を救えると思うぞ』

「救える?更良を?」

『そう。聖なる乙女、聖女は全ての魔を払い、死にかけの人すら生き返らせられる。君こそが聖女の魂を持つ存在』

「えっ、この人けっこう俗物なおっさんだけど」

「確かにそうだけど彼女に言われると傷つくな」

『否定はしないのか』

「しないね。百合とゾンビが大好きな中年男性だよ」

『ちょっと何言ってるかわからないな』

「神様の合いの手も俗物だった」


ともかく!と、虹色ウサギは輝く。


『そこの生きている方の君、聖女になってもらいたい』

「そして何するの?」

『魔王の出現によって荒れるある世界を救ってほしい』

「「テンプレ」」

『ひどいな!でも、聖女になればそこの死にかけの彼女を救えるよ?』

「じゃあなるよ」


即断で修が応え、更良はびっくりした。


「そこもっと考えるところじゃない?!私にはもっと要求したいことあるよ!」

「それはあるけど、何より更良に生きててほしいに決まってるだろ!」


更良が目を潤ませ、修が空飛ぶウサギに手を差し伸べる。


「聖女にしてくれよ。そして更良を救うんだ」

『ありがとう、聖女の魂を持つもの』


ウサギが光を増し、修の身体を包む。


「どうせ聖女なら誰もが恋に落ちる美少女にしてね」


修が抜かりなく言うと、了解したよ、とウサギはうなずいた。


※※※


修が目を覚ましたのは、白い石造りの神殿らしき部屋の一段高くなっている場所だった。


「×××××!」


と、叫ぶ神官たちの声を聞き流しながら、すぐさま横に寝転ぶ更良の心臓が止まっていないことを確認し、蘇生を試みる。

どうすればいいかは何故か分かった。

身体を取り巻く自分の過剰にある力を更良に注意深く入れてゆく。

ぱりん、ぱりんと更良の中に巣食っている病巣を壊し、生命力で満たすと、白かった頬に赤みがさしてきた。


「×××××!」

「うるさいなぁ」


最後の仕上げに更良を若返らせる。

そうだな、15歳くらいで。


(おお、俺、これチートだな)


と、考えていると更良が目を瞬かせた。


「なんたる輝く美貌」

「えっ、俺、そんなに美少女?」

「えっ、と言うことは修?本当にー?!これ以上はないってほどの美少女だよ!」


ひょいっ、と更良は起き上がって、あ、私パジャマだ、とぶつぶつ言っている。


『言葉に困らないようにしたからね〜』


というウサギの声が響くと、ただの声だったものが言葉になった。

白い服をまとった男女が叫ぶ。


「聖女様が降りてこられた!」

「なんと美しい!奇跡だ!」

「我が国を救ってくださいませ!」


勝手言ってるなぁ、と、二人が顔をしかめていると、男女の奥の扉が開いた。


「我がスターン国が魔王に襲われる時、聖女が降臨する……予言通りのことだが、神に感謝せねば……!」

「あらあらきれいなお嬢さんねぇ」

「……!」


ひときわゴージャスなイケオジは王様であろうか。

ふんわりキラキラとした美貌の女性は若く見えるが王妃だろう。

と言うことは、彼らの真ん中に立って、修に身惚れ言葉をなくしている若きイケメンは王子であろう。


「……私も共に魔王を倒す旅に行く!」

「ご立派なおこころざしです、殿下!」


わあっとギャラリーが盛り上がる。


「推定王子に魔王討伐は無理ではないの?」

「完全に俺にラブの目だし」


ボソボソと二人が囁いているのをよそに、白い男女だけではなく、美々しい服を着た貴族らしき人たち、甲冑をまとった騎士たちで狭くはない部屋がギッチギチである。

そして、ほぼ全ての男性陣が、修を見てポーッとなっている。


「俺も行くぜ!」

「騎士団長殿!百人力ですな!」


「私も微力ながら協力させてください!」

「おぉ、神官長様が!心強い!」


「僕も行こうかなーっと」

「魔法庁長官様が!最高の布陣ではないですか!」


盛り上がるギャラリーは、名乗りを上げる男たちの視線がひたっと修に注がれているのに気づいているのだろうか。


「俺の、貞操の危機!」

「あはは、誰もが恋に落ちてる」


明るく言い放った更良は修を抱きしめた。


「ありがとうね、修は命の恩人だよ」

「じゃあ魔王討伐についてきて。野郎どもが怖い」

「私も怖いわよあんなん。修しか見てないけど」

「と、言うことは……」

「私、ここで待ってるから!」

「ええーっ!」


二人が話している間に修のための旅の道具の準備が整えられ、前に積み上げられた。

どうやら更良はいないものとして扱われるらしい。


「せっかく助かったこの命、無駄にしないよ。この街か村がどんなところなのか、どうやって生きられるのか、美味しいもの、きれいなもの、楽しいところ、調べておくからね!」

「改めてだけど、俺は、魔王と戦いに行くのか……命とか、大丈夫なのかな」

「死にかけの私を生き返らせるチートなんでしょ、大丈夫だって!」


そして更良は修を見下ろして……そう、いつの間にか背丈が逆転していた……笑って言った。


「またね!」

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