第6話 金剛
「ほら、二人とも。あれが忌部村だよ。」
次の日の昼過ぎに3人は忌部村が見下ろせる丘の上へと着いていた。村人が100人くらいの小さな村である。点々と小さな家が見えた。ちょうど昼時、炊事の煙が何軒かの家からたなびいていた。
「ほう、良い村じゃな。」
白は翡翠の正確な強さを見極めたため、元の態度に戻っていたが、耶咫に翡翠を傷つける事を厳しく禁止されていた。しかし、翡翠への敵意は変わらぬようで。
「主、私はこの村で主とつがいになっても構わないぞ?強い子を産めるのは獣人の誉じゃ。」
「な、何言ってんの!耶咫はあなたなんて相手にしません!」
やれやれといった感じで白は肩を竦めてみせた。
「何じゃ、小娘。嫉妬しているのか?」
「そ、そんなんじゃありません!」
「私は主を愛している。お役目で主にまとわりついている小娘とは覚悟が違う。」
翡翠は白の言葉に強く反発した。
「わ、私だって覚悟があります!」
白はスッと目を細めた。
「ほう、小娘も主の事を愛していると?」
「わ、わ、私は…。その…。」
翡翠は顔を真っ赤にすると黙り込んでしまった。
「ほらほら、二人とも村に入るから喧嘩はやめて。」
耶咫は直接的な白の好意を本気にしていなかった。
(やれやれ、白は僕をからかって楽しいのかな…?困ったもんだ…。)
耶咫は色恋に関しては鈍感、感違い、言うなれば朴念仁であった。
そんな耶咫を白はため息まじりに見つめる。
(まあ、時間はある。ゆっくり主にはわかってもらおう。ふん、小娘なんぞに負けはせぬ。)
村の周りには小麦を育てている畑が広がっていた。自家消費するための野菜畑も見える。道沿いには木が植えられ、白い花が咲いていた。
「耶咫、のんびりできる良いところね。」
翡翠の言葉に耶咫は嬉しそうに頷いた。
「ありがとう、翡翠。本当に良い村だと思うよ。ほら、ここが僕の家だ。」
耶咫が案内したのは社であった。その地は清々しい霊気に満ちていた。その入り口にはとても大きな木が聳え立っている。
「大きいでしょ。楠なんだ。もう1,000年くらいここに立っているそうだよ。」
翡翠は感慨深気に楠の大木を見上げた。
「そう…。二度の精霊戦を見ているのね…。」
その時、社の奥から一人の老人が出てきた。
「あ、爺さん!」
その老人は紛れもなく、翡翠の知る金剛であった。翡翠は耶咫に見えないように金剛へ一礼した。
「こ、小娘。こ、こいつは何じゃ?霊数は私より低いが、あの楠の大木のような偉大さを感じる…。」
「うん、耶咫のお爺様よ。失礼な事をしないでね。」
「お、おう。わかった…。」
白はそう言うと尾を股に挟んでしまった。
「おう、お帰り。耶咫。それに翡翠もよく来たな。そっちは牙狼か?ふむ、我々に歯向かう気はないようじゃな?」
翡翠の後ろに隠れながら白はこくこくと首を振っていた。
「爺さん、やっぱり翡翠の事を知っているんだね。」
金剛は耶咫の質問には答えずに翡翠へと歩み寄った。
「翡翠、耶咫の侍人に選ばれたのだな?」
「はい、金剛様。」
翡翠は真っ直ぐに金剛の目を見据えて答えた。その目線の強さを金剛は好ましく感じた。
「良い目をしておる。翡翠、耶咫を頼む。」
金剛に頭を下げられ、翡翠は慌てた。
「金剛様、頭をお上げください。私は…、私は耶咫様の事を好ましく思っています。私は耶咫様が精霊の王となった世を見てみたいと思ってます。なので侍人として働く事は金剛様にお願いされるまでもない、私の強い意志です。」
翡翠の目は純粋だった。
「そうか…。翡翠にこうも言われるとはな。耶咫は幸せだな。」
「でも金剛様。耶咫様と私は友達になりました。なので主従関係ではありません。ビシビシしごきますので。」
金剛は肩の力を抜くと翡翠へ言った。
「この世界には新しい力が必要だ。今までの撰霊や侍人の在り方ではない方が良いのかもしれんな。耶咫!聞いての通りだ!」
「ああ、爺さん。僕も翡翠とがんばってみたいと思う。だけど、どういう事なのか?ちゃんと説明してくれないかな?なぜ、首でもない僕が撰霊に選ばれているんだ?」
「ああ、そうだな。ではこちらについてこい。」
そう言うと金剛は社の奥へと3人を誘った。耶咫は翡翠と白に目線を合わせ、頷くと金剛の後を追った。
◇
3人が金剛へ通されたのは10坪ほどの板張りの間だった。金剛が精神集中に使う部屋である。
「まあ、3人とも座れ。」
金剛は床に置かれた座布団をすすめた。
「耶咫、儂は【土】の臣だ。今は"真木“を名乗っているが本名は金剛じゃ。」
耶咫は頷いた。金剛が精霊使いである事は耶咫もわかっていた。属性が【土】である事も。しかも金剛はかなりの使い手である。【土】の臣であったとしても何の不思議もない。
「ああ、それはなんとなく察していた…」
「そうか。儂は【土】の首、土門様に請われて耶咫、お前を預かりこの忌部村へと引き篭もった。」
耶咫はこれもなんとなく察していた。自分が本当は金剛と血のつながりがない事を。
「ああ、それもなんとなくわかっていた。面と向かって言われるとちょっと動揺しちゃうけどね…」
金剛は口の中で“そうか“と呟くと話を続けた。
「耶咫、お前はこの世界のことわりから外れた存在なのだ。お前の霊力はちょっと特殊でな。」
金剛は耶咫の目を見た。金剛から見て耶咫の目に恐れは感じられなかった。
「耶咫。お前は別の次元からこの地に送られて来た。そこにどのような訳があったのか?儂にはわからん。じゃが、一つだけわかっている事がある。お前は【闇】の霊力をその身に宿しているということじゃ。」
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