第20話 【土】の里にて
色々あったが耶咫達は無事に【土】の里へとたどり着いていた。
「翡翠、すごいね。精霊に満ちているよ。素晴らしい土地だ…。」
感動的に呟く耶咫に翡翠は多いに自慢した。
「そうでしょそうでしょ!良いところだよね!朴念仁の耶咫にもここの素晴らしさはわかるんだね!」
里には家々が立ち並び、里の人達も穏やかな表情をしていた。畑や田が広がり、とても豊かな土地だという事がわかる。
「翡翠、朴念仁ってどういう事?」
「あら、耶咫は学がないんだね。朴念仁とは『感情表現が極端に乏しく、鈍感で、周囲の空気も読まなければ人の心も読まない。言葉をかけても反応は薄く、他人の感情の機微に疎い人』の事を言うのよ。わかった?」
「い、いや。そういう事じゃなくて…。」
翡翠は空青の様子を思い浮かべていた。勝負がついた後、耶咫は空青に手を差し伸べた。その手を掴んだ空青の顔は。
(あれは完全に恋する乙女の顔だったなあ。)
その後、空青は耶咫と噛み合わない会話をした後に顔を真っ赤にして逃げるようにその場を離れた。
(あんなに純な反応をしていたのに、こいつ!何も気づいて無いの??ふんだ!ふんだ!)
強力な恋のライバルの出現の予感に心穏やかにいられない翡翠。
「まあまあ、翡翠。耶咫様なんてこんなもんよ。大丈夫よ。翡翠には私がいるから。」
砂寿の気持ちもありがたいのだが、そんなんじゃないんだよな…と言うのが翡翠の気持ちである。
「耶咫様が朴念仁なのは良しとして…。」
「砂寿さん、良しとしないでよ…。」
耶咫の抗議を無視して砂寿は続けた。
「今日は土門様に耶咫様の到着だけ伝えておきます。明日、土門様にお会いしましょう。これから私の家に行って先ずは休みましょう。長旅だったからね。」
「うん。砂寿パパと砂寿ママに早く会いたいな!」
翡翠の無邪気な言葉に砂寿はニコニコしていた。
「砂寿さん、よろしくお願いします。」
「では行きましょうか。」
◇
砂寿の家は里の中心から少し離れた川の辺りにあった。こじんまりとしているが清潔感のある住み心地の良さそうな家。
「さあ、どうぞ。」
ドアを無造作に開けると砂寿は家の中に向かって叫んだ。
「パパ!ママ!翡翠を連れて来たよ!」
『ドドドドドドドド』
すごい音を立てながらものすごい勢いで現れた二人。
「翡翠ちゃん!!無事だった??まあまあ、少し見ないうちに美人になっちゃって!!!」
(いや、まだ3カ月くらいしか経ってないけど…)
砂寿ママの勢いに押された翡翠の心の声。
「翡翠ちゃん、疲れただろ?今日はご馳走を用意するからお腹いっぱい食べてね!!」
翡翠の手を握り、ブンブンと振り回しながら歓待しているのは砂寿パパ、銅万と砂寿ママ、砂葉だった。
「お二人ともありがとうございます。ただいま帰りました。」
「あらあらあら、おかえりなさい。待ってたのよ。しばらく家に泊まるんでしょ?楽しみにしてたのよ!なんならずーーっと居ても良いのよ!」
砂寿ママの勢いにタジタジになりながらも翡翠は耶咫を紹介した。
「あ、あの。こちら【闇】の撰霊、耶咫です。私、耶咫の侍人になったの。」
翡翠の言葉に二人はスンと冷静になる。
「翡翠ちゃんとはどのような関係なのですか?返答次第では!!」
砂寿パパは壁に立てかけてあった槍を掴むと耶咫を睨みつけた。
「どうなの?翡翠ちゃん!そ、その。に、肉体か、か、かん…けい、とか…?」
砂寿ママは今にも倒れそうだった。
「な、なな、何を言ってるんですか!!私と耶咫はそんなんじゃありません!耶咫には裸を見られたけど…。」
「「な、な、何!!」」
砂寿ママはそう叫ぶと倒れてしまった。
「ゆ、ゆるさんぞーー。」
砂寿パパは槍をしごくと耶咫に突きかかった。
「ちょっと、パパ。やめてよ!」
砂寿が止めに入るが砂寿パパにその声は届かない。
「こ、言葉が足りなくてごめんなさい。見られたというのは勘違いで、耶咫は何も覚えてないの!!」
「そうなのか!!??」
こくこくと首を振り、頷く耶咫。
「ママ、だそうだ。びっくりしたな…。」
「びっくりしたのはこっちよ!パパもママも翡翠の事になると見境なくなるんだから!」
砂寿に一喝され、二人ともしゅんとなる。
「だいたいさ…、、」
まだまだ続きそうな砂寿の言葉を遮って砂寿ママがボソッと言った。
「あら、砂寿。居たの?」
◇
「翡翠…、愛されてるんだね…。槍で突かれるかと思った…。」
砂寿パパと砂寿ママは食事の用意のために買い出しに出かけた。あの勢いだと食べきれないくらいの食材を買ってくるんだろうなと砂寿は思っていた。
「うん、ありがたいよね。両親のいない私をあんなに思ってくれるなんてさ…。」
「まあ、だけど限度というものがあるよね。私の事なんか気づいてなかったもんね!」
カラカラと笑いながら砂寿が言った。
「それよりさ…。」
ブワっと砂寿から耶咫へ向けて殺気が放たれる。
「耶咫様…。翡翠の裸を見たってどういう事なのですか?返答しだいでは…。」
刀をスラっと抜く砂寿。
「いや、あの、あっ、偶然!水浴びしてる翡翠を見かけて…。でも…、覚えていない!!全然、覚えていない!」
砂寿の殺気がより強まった。
「お、覚えていない??翡翠の裸を見て?覚えていない??こ、こんなに素晴らしい身体なのに??」
「ち、ちょっとちょっと。砂寿姉。」
「いや、その、覚えていない訳はなくて…。あんなに素晴らしい光景…。僕は女神様かと思ったんだから…。」
今度は翡翠からブワっと殺気が立ち上がる。
「耶咫!忘れたって言ったじゃない!!頭を叩けば忘れるかしら?」
「ああああ、翡翠!忘れたよ!全然覚えて無い!」
「何ですって!!」
今度は砂寿だ。
「もう…、勘弁してください…。」
耶咫は翡翠と砂寿に正座させられると"朴念仁"な事についても含めて多いに責められたのであった。
「はあ、翡翠と砂寿さんを怒らせないように気をつけよう…。」
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