第19話 気持ち
空青は気合いを入れるとその両手に精霊を集めた。空青の掌で空気が渦を巻く。
「青玉さん!あれはやばい!止められないの!」
翡翠は空青の霊力に身震いしながら青玉へと言った。
「そんな事言ったって…。あんなに楽しそうな空ちゃんを止めたら後で拗ねそうだからなあ。」
翡翠は青玉ののほほんとした答えにイライラしていた。
「私が止める!」
刀を抜いた翡翠を青玉が制した。
「翡翠ちゃん、ダメだよ。それにあの【闇】の撰霊なら大丈夫だ。彼には空ちゃんの攻撃を受け止める力がある。」
「だけど!」
「いいから、見てごらん。」
青玉に言われて翡翠は耶咫を見た。
「な!」
その時、耶咫の周りには多くの精霊が集まって来ていた。
(砂寿姉の時と同じ!)
耶咫の霊数は5,000を超えていた。
「耶咫!」
翡翠の声と同時に空青が仕掛けた。当たれば岩をも砕くであろう暴風をまとった拳。しかも速い!
耶咫は空青の突きをかわしきれないでいた。拳そのものはかわしていたのだが、暴風の余波が耶咫の頬を腕を斬り、赤い筋が浮き出ていた。
(このままだとやられる!)
耶咫は内心で焦っていたのだが、
(え?力を貸してくれるの?)
耶咫は精霊の声を聞いていた。精霊達は耶咫へと集まってくる。それは【空】の精霊。精霊達は耶咫の前で圧縮していく。まるで風の弾丸。
「ははは、耶咫くん!すごいよ!」
耶咫は集まった風の弾丸を空青に向けて放った。風の弾丸は空青へ向かって真っ直ぐに飛ぶ。
「こい!」
空青はこの風の弾丸へ両手の暴風を叩きつけた。
「ご、互角?」
その力の衝突は互角に見えたが。
「いや、耶咫の方が強い!」
空青は押し負けて、力の衝突による衝撃を緩和する事ができなかった。空青はわずかに身体のバランスを崩した。そのために空青の次の行動が遅れる。
「し、しまった!」
その時、もう耶咫は空青の足元に滑り込んでいた。その拳をちょこんと空青の腹に当てた。
「僕の勝ちですね!」
耶咫はニコッと笑うと空青へと手を伸ばした。
「あ、ああ。」
空青は耶咫へと手を伸ばした。空青はこの時、耶咫に魅了されていた。真っ直ぐで曇りのない耶咫の霊力。そして、
(ああ、良い顔で笑うんだな…。)
「耶咫、耶咫!大丈夫?」
空青が耶咫に目を奪われていた時、心配顔の翡翠が飛んで来て耶咫に飛びついた。
「うん、大丈夫だよ。」
「でも…。」
「うん、空青さんはとても強かった。まだドキドキしてるよ。」
翡翠は耶咫の頬の傷をそっと袖口で拭った。
「翡翠、服が汚れちゃうよ。」
「良いの…。」
その様子を見ていた空青はムッとしていた。
(あれ?私ったら何でイライラしてるのかしら?)
自問しながらも空青は答えをわかっていた。
(嫉妬…。翡翠さんに嫉妬している?私、耶咫君が好きになっちゃったかも…)
◇
空青はその後に耶咫とどう別れて、どうやって宿舎に帰って来たのか?覚えていなかった。ただただ耶咫の笑顔が目に浮かんでいた。
「空ちゃん?どうしたの?」
いつもと違う空青の様子に青玉が訝しがる。
「ねえ、青玉。翡翠さんってどんな子?」
「え?急に何?」
「良いから。教えてよ。」
青玉は椅子に腰掛けると空青の事を見つめながら答えた。
「とっても良い子よ。優しくて強くて…。一途に思い込んじゃうところもあるけど…。私、空ちゃんの侍人は翡翠ちゃんになると思ってた…。砂寿さんが強く望んでいたから。」
そう。と答えた空青の声は元気がなかった。
「何、何?どうしたのよ、空ちゃん?」
青玉の問いに力なく頷いた空青はぽつんと答えた。
「私、あの子…嫌いだな…。」
空青の脳裏には翡翠が耶咫の傷を拭ってあげている場面が焼きついていた。
「ああ、もう、何なのよ!!」
「何なのよ!は私のセリフだよ。どうしたのよ、空ちゃん?」
空青は元来、このような事を言う子ではない。
「青玉、ごめん。何でもないよ。忘れて…。」
らしくない空青の様子に青玉は戸惑っていたが、原因はわかっていた。
(空ちゃん、耶咫様に心奪われちゃったんだな?翡翠ちゃんに嫉妬してるのか…。ふふふ、空ちゃん。かわいいところもあるんだな。)
そう思うと青玉は楽しくなってきた。
(男っ気のない空ちゃんの恋心か…。これは応援してあげないとな!)
急にニタニタし出した青玉に空青は訝しんだ。
「何よ…?」
「ふふふ、大丈夫大丈夫!大丈夫よ、空ちゃん!この経験豊富なお姉さんに任せなさい!」
青玉のこの言葉に空青は不安を覚えた。
「ちょっとちょっと!何を勘違いしてるのよ!」
空青の抗議の声は青玉には届かない。
「よし!私は空ちゃんの侍人だ!これから作戦を立案する!そして!【空】をあげて耶咫様を攻略するよ!」
「青玉!お願い!お願いだからやめて!!」
空青の絶叫が響いたがこの声も青玉には届いていなかった。
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