第16話 白、屈服する
「ただいま帰りました!」
翡翠と砂寿が砕躯の工房に戻って来た時にはもう夕方になっていた。
「どうでしたか?良い武具はありましたか?」
砕桜は二人をニコニコと出迎えた。
「はい、おかげさまで。」
そこへ耶咫が顔を出した。
「二人ともおかえり。」
「ねえねえ、耶咫!これ見て!どうかな?」
翡翠は白のシャツに黒のショートパンツ。胸には青い胸当を付けていた。ミスリルの胸当。凝った意匠はないが、上品な輝きを放っていた。そしてその上には。
「そのジャケットは?」
翡翠が着ていた黒いジャケットは魔鉱といわれる【土】の精霊が宿った鉱石を編み込んだ布で作られていた。霊力耐性、物理耐性に優れており、とても軽い。縫製もしっかりしており、シンプルな作りだが翡翠に似合っていた。
「翡翠…、すごくかっこいいね。」
「うふふふふ。」
耶咫は嬉しそうな翡翠を見ているのは楽しいのだ。
「このジャケット、すごく軽くて動きやすいんだ。すごく防御面で優れているし。これで耶咫の事を守ってあげられるね。」
「うん。心強いなあ。本当に良い物だね。僕もこれ欲しいなあ。」
(え?耶咫も欲しいの?という事はお、おそろい!!きゃーー、武器庫にまだあったかな?)
明日、朝早くから武器庫に行って探してみようと翡翠は決意していた。耶咫とおそろいの服を着れるなら、あの変態達なんて恐るに足りない!!
「翡翠?どうしたの?顔が赤いよ?」
耶咫に指摘されて翡翠は大いに慌てた。
「何言ってんの!そんな事、ないんだからね!!」
耶咫は翡翠のあまりの慌てように少し驚いていた。
(悪い事、言っちゃったかな…?)
「翡翠ちゃん。良いのを選んで来たね。ところで石場は大丈夫だった?」
砕桜の言葉に翡翠は我に帰る。
「あ、あーんと、砂寿姉が殴り倒して来たよ。」
「そう。」
(え?石場って村の入り口にいた責任者っぽい人だよね?殴り倒した??)
「え?」
そんな心配気な耶咫を砕桜は笑い飛ばした。
「石場は大丈夫よ。」
「ところで砕桜さん、武器庫にたくさんの人がいたんだけど。あれ、何してるの?」
「うーん、あれはね…。武器の鑑賞をしているのよ…。何とかならないものかね…。」
「はあ。何となくわかった…。」
耶咫は何となくこの村の特異性がわかって来ていた。
(要はあれだな。皆んな、武器が好きなんだ。ちょっと"好き"の方向性が歪んでいる気がするけど。でもこの村で作る武具は良い物だ。)
耶咫は翡翠が身に着けている武具を見て改めてそう思った。
(でも砕躯さん、無理しないでほしいなあ。)
◇
武天村で耶咫達が泊まっている宿までは砕桜と一緒に戻って来た。これから白を説得しなければならない。
「白、素直に言うこと聞くかな?」
翡翠の心配を耶咫も心の底から思っていた。
「どうかな…。自信はないかな。」
「だよね。」
宿に戻ると白はイライラと待っていた。
「遅い!遅いよ、主!待ちくたびれたぞ!」
イライラしながらも耶咫に飛びつき、尻尾を振る姿に、
(犬と変わらんな。)
砂寿はそんな事を思っていた。
「えーと、白。」
「何じゃ、主よ。」
「あの、お願いがあるんだ。」
耶咫は白へこれまでの経緯を説明した。白へ砕躯の刀を届けて欲しい事も含めて。白の尻尾が段々と垂れて来ていた。
「主よ。話はわかった。主のためになるなら儂は喜んで協力するが…。」
白にはいつもの威勢の良さがなかった。
「あの女と一緒に行くのだろ?あいつ、力はそんなに感じないが、何だか不気味なんだ…。」
白の動物的な感なのだろうか?でもなぜ??耶咫には疑問だった。砕桜に不気味さなどあるだろうか?
「白さん、私は砕桜と言います。お互いに耶咫様のためにがんばりましょうね。」
「それは構わないのだが…。」
白はやはり砕桜に不気味なものを感じていた。このまま手玉に取られてしまうような、引き込まれるような感覚。
「主、やはり…」
この女と行動を共にするのは危険だ。白の本能はそう告げていた。主に断りをいれよう。白がそう決意した時。
「うー、もう我慢できない!えい!」
砕桜は白をコロンと転がすとモフりだした。
「うー、かわいい!!」
「ふわわわわ。やめてーー。」
白はたちまちに砕桜にいいようにモフられた。
「ふわわわわん。」
「あ、変幻が解けた…。」
白はあまりの出来事に変幻を解いてしまった。白い牙狼が姿を現す。
「うわー、かっこいい!!」
砕桜は増して白をモフりにモフった。
「ひやーーー。」
白はこれまでに感じたことの無い感覚に砕桜の恐ろしさを痛感していた。
(な、何なんじゃー?あやつに逆らうことができん!)
白は砕桜に屈服した。
「はあはあはあはあ。主よ、儂は辱めを受けた…。」
「そうなの?何だか楽しそうだったけど。」
取り縋る白を撫でながら、耶咫は言った。
「うふふ、白ったら砕桜さんに飼い慣らされちゃったね。」
「な、何じゃと!翡翠!そんな事はないぞ!」
「うふふ、白ちゃん。お手。」
「ワンワン。」
反射的に砕桜へ手を出した白。
「やっぱり飼い慣らされてるじゃん。」
「うーー、主…」
(さすがは砕桜さん!これで白の事も心配ない。憂なく【土】の里に向かえる!)
戯れ付く白と砕桜、耶咫を見ながら翡翠は思っていた。
(ここから精霊戦が始まる。私は耶咫の力になりたい…。)
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