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第15話 変態の巣窟

「翡翠…。覚悟はできた?」

「うん、砂寿姉!心の準備はできたよ。」

「それじゃあ行くよ!」


 翡翠と砂寿は砕桜からの手紙を握り締めながら村の武器庫の前に立っていた。悲壮感を漂わせながら。


「ま、待って。砂寿姉、もう一度、もう一度だけ深呼吸をしても良い?」


 翡翠はそう言うと大きく息を吸った。


「落ち着け、落ち着け、私…!」


 二人は顔を見合わせると頷きあって武器庫のドアをノックした。


「石場はいるか?」


 砂寿の声が辺りに響き渡る。


「だ、誰もいないのかな?」


 反応が無いのでもう一度、ノックをしようと翡翠が手を伸ばしかけた時。


「ひっー。」


 気配なく青白い顔の男がドアを開けた。翡翠は思わず声を上げてしまった。この男は翡翠に全く気配を感じさせなかったのだ。


「こ、こいつ。私達に気配を感じさせないなんて!かなりの使い手だ。」


 翡翠が砂寿へ耳打ちしたが、砂寿は知っていた。この男は達人なんかではない。単に生気が無いだけだ。


「あ、あの…。石場さんにお会いしたいのですが…?」


 男は黙って小刀を出すと翡翠へと突きつけた。翡翠は反射的に男を蹴り飛ばそうとしたが何とか思いとどまった。そうだ、こいつらは変態だが【土】の臣なんだ…。


「こ、この…、先っぽが…、いい…。」


 男は恍惚の表情を浮かべるとにへらっと笑った。そしてその人差し指で小刀の先を突いた。男の指先には血の玉が滲んでいた。


「うふんー!」


 男は一声叫ぶと絶頂した。


「ひーーー」


 翡翠は今度こそ思いとどまる事ができずに男の顔を思いっきり蹴り飛ばしていた。男は壁にめり込み、動かなくなった。

 砂寿を見上げた翡翠の目には涙が浮かんでいた。


「さ、砂寿姉!!もう帰ろうよーー」


 翡翠の泣きそうな顔を見て、今度は砂寿が激昂した。


「く!翡翠を泣かせるなんて!!許さん!!」


 砂寿はドアを蹴破ると裂帛の気合いを込めた。


「石場!!!出てこい!!出てこないとここら一帯を吹き飛ばすぞ!!!」


 後に翡翠は耶咫へ、この時の砂寿をして『魔王』のようだったと語った。

 砂寿の怒りは霊力をはらみ、ピリピリと空気を振動させていた。そのあまりに鋭い霊力に驚き、燻された虫のように武器庫から多くの人が飛び出てきた。

 翡翠は後に耶咫へこう語った。


『川にある石を持ち上げたら虫がわらわらと出てくるじゃ無い?あんな感じだった…』


 砂寿は逃げ惑う人々の中に石場を見つけていた。


「いーーしーーばーーー、みーつーけーた!」


 石場は砂寿の般若のような形相に戦慄した。


「ふあああ!砂寿殿が"金砕棒"みたいにトゲトゲしている!!」

 

 石場は砂寿に怯えているようだったが、やはり石場だった。武天村の変態達の頂点にいる男。


「金砕棒!それは一撃のロマン!男のロマン!!ああああ、砂寿殿!!金砕棒のように一撃で吹き飛ばせそうな怒気をはらんだ霊力がまた素晴らしい!!さあさあ、この金砕棒で私を思う存分に突き回すがいいーーー。」


 石場はどこから取り出したのか?金砕棒を手に砂寿へと迫る。


「さあ!さあ!さあ!」

「いやーーー」


 砂寿の口から嫌悪感の入り混じった悲鳴が発せられた。そして石場から金砕棒を奪うと思いっきり石場を殴りつけた。


「はふん、し・あ・わ・せ…」


 石場は吹き飛ぶとそのまま動かなくなった。その顔は幸せそうな気持ち悪い笑みを浮かべていた。


「はあはあはあ。」


 息をみだしている砂寿を翡翠はそおっと後ろから抱きしめた。


「砂寿姉、仕方なかったの。砂寿姉は悪くない…。私達は悪くない…!運が悪かっただけ…。もう忘れましょう…。」

「ひ、翡翠!うわーん、怖かったよーー」


 砂寿は翡翠の胸に顔を思いっきり埋めて泣き出した。


(あれ?砂寿姉、泣き方が嘘くさいな…?)


 そう、砂寿は石場の事など少しも意識していなかった。この状況を利用して妹(自称)の柔らかさを堪能したかっただけだった。



 

 

「翡翠、これなんてどう?」


 翡翠と砂寿は人がいなくなった武器庫で主に防具を物色していた。


「うーん、動きやすい方がよいなあ。ほら、攻撃は当たらなければどうという事はない、みたいな?」

「まあねえ、防具は万一に急所を確実に守れる動きやすい物が良いかあ。」


 二人であちこちの棚を開けて回る。


「ねえ、砂寿姉。勝手に武器庫を漁って怒られないかな?」

「えーー、いまさら?」


 砂寿はそう言うと砕桜から石場宛の手紙を翡翠へ見せた。


「砂寿姉、勝手に見たの?」


 翡翠はそう言ったものの手紙を受け取り、中を読み始めた。


「なになに?『石場へ。砂寿殿、翡翠殿のやる事に口を出すな。砕桜』。何これ?」

「うんうん、砕桜さん。わかってるよね!」

「確かに!それじゃあ、遠慮なく色々見せてもらいましょう!!」


 二人は今まで以上に遠慮なく、物色を再開したのだった。


「翡翠、これなんてどうかな?」


 砂寿が取り出したのは青く光る胸当だった。


「うん、これなら動きやすいね。」


 翡翠は砂寿から胸当を受け取ると実際に着けてみた。


「すごい、大きいかと思ったんだけど、私に合わせてサイズが縮んだよ!」

「霊力を通すと大きさが変わる防具は最近の流行りなんだ。」

「へえ、私は防具を付けないから知らなかったなあ。それにこれ!軽いね!」

「うん、ミスリルでできているね。強度も申し分ないね。」


 翡翠はクルクルと回りながら砂寿へ胸当を見せていた。


「どうかな?砂寿姉、似合う?」


 翡翠のかわいらしい姿に、


(あ、危ない…、翡翠のあまりのかわいらしさに鼻血がでるところだったぜ…)


「砂寿姉?」

「う、うん。良いんじゃないかな?」

「よし!これにしよ。砂寿姉、あとは小手が欲しいかな?」



お読みいただきありがとうございます!これからもよろしくお願いします。

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気に入っていただけましたら是非、評価の程をよろしくお願いします。

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