第13話 砂寿、デレる…
(あ、砕躯翁。引退したと聞いていたけど…、矍鑠としている。)
翡翠は砕躯から老人とは思えない迫力を感じていた。
「砂寿殿、耶咫様の武器はこの砕躯が責任を持って用意いたします。耶咫様。この砕躯へ何卒お任せくださいますよう…」
「あっ。はい…。」
耶咫は砕躯という老人の迫力ある気配に押されて思わず頷いていた。
「砕躯翁。お身体は大事無いのですか?」
砂寿の言葉に砕躯は破顔した。
「なに、娘が大袈裟に土門様へ報告しているだけだ。娘はなにぶん心配症なものでな。ほれ、この通り。」
砕躯は力瘤を作ると砂寿へ自慢気に示して見せた。
「耶咫。こちらは砕躯翁。【土】きっての名工なの。今は引退されていたと聞いていたけど…。」
「ほう、翡翠か?美人になった。砂寿殿の後ろについて歩っていた頃が懐かしいな。」
「もう、砕躯翁。いつの話をしているんですか!」
砕躯は翡翠をにこにこと見ていたが、耶咫に視線を移すと表情を険しくした。
「土門様に聞いていたが…。これは儂も命をかけねばなるまいて…。」
砕躯の言葉の真意を測りかねた砂寿が砕躯へ問うた。
「砕躯翁、命をかけるとは…?」
「ああ、文字通りの意味じゃ。儂が耶咫様の武器を作る!金剛の奴め、悔しがる姿が目に浮かぶわ!」
砕躯はそう言うと耶咫の手を握った。
「うん、良い手をしている。『始まりの時』までに耶咫様の武器をお渡ししよう。楽しいなあ、砂寿よ。」
泣きそうな顔をしていた砂寿は頷くしかなかった。
「はい、砕躯翁。よろしくお願いします。」
「うむ、土門様に伝えてほしい。【闇】の撰霊の刀は砕躯が打つと!」
翡翠は砕躯の迫力に呑まれそうだった。
(砕躯翁は刀と言った。しかも命をかけて打つ刀だ。耶咫の力になってくれるだろう。私も耶咫の力になりたい。耶咫に相応しい侍人に!)
翡翠は隣に立ち並んでいる彼女の優しい撰霊の横顔を見ていた。
(耶咫…。あなたのその眠そうな目は何を見つめているの?)
◇
「そうか。耶咫様は精霊の声が聞こえると。」
「そうなんだ、砂寿姉。だから私の突きも精霊の声に教えてもらってかわせたみたい。」
「私も…、ああも簡単に私の連打をかわされるとは…思わなかった。今でも信じられない。しかも…」
翡翠は脇に立て掛けてある黒い刀身の刀を見つめた。その刀身はまるで風化したように崩れていた。
「しかも…精霊が自分の意思で耶咫様を守るとは。あの時の耶咫様の霊数は私には計り知れない…。」
翡翠は思っていた。耶咫は他の精霊使いとはまるで違うことを。それは世界に変革をもたらすのではないかと。
「翡翠…。私はあなたが心配だよ…。」
砂寿の気持ちを翡翠はよくわかっていた。今までの常識では測れない撰霊。翡翠の撰霊。
「それはそうと…、砂寿姉は何で私に膝枕されているのよ?」
「だってだってだってだって!ずっとずっとずっとずっと翡翠に会えなかったんだもん。私の中の翡翠成分がカラカラなのよ!!」
そう言うと砂寿は翡翠の股に顔を埋めた。
「もう砂寿姉!匂いを嗅がないで!!」
「はあ、翡翠は良い匂いがする…。」
本当に困った姉だな、翡翠が思ったその時ドアが開き、飲み物を持った耶咫が部屋へ入ってきた。
その瞬間、砂寿はスッと翡翠の太腿から頭を上げると背筋を伸ばしてきれいに座り直した。その姿はとても美しく絵画のようだった。
「耶咫様。何か御用でしょうか?」
「あ、あの飲み物をお持ちしたのですが…、お取り込み中なようなので出直してきます。」
「耶咫様。」
「は、はい。」
「何か誤解されているようですが、これは【土】に代々伝わる精霊交換の儀です。こうして精霊を交換する事でお互いの情報を伝達するという…」
「そうなんですね!僕は精霊の使い方を全然わかってない…。こんな技もあるとは!砂寿さん、今度教えてくださいね。では儀式が終わった頃にまた来ます!」
耶咫はそう言うと飲み物を置いて部屋から出ていった。
(え?耶咫?砂寿姉の話を信じたの?アホなの?)
翡翠はちょっと心配になり、砂寿に助言を求めようとした。
「砂寿姉、、、」
翡翠がそこに見たのは床をゴロゴロと転がり、悶絶する砂寿だった。
「あーー、見られた見られた見られた!恥ずかしい!!」
「…」
「翡翠、どうしようどうしよう?見られたよーー。」
「まあ、大丈夫じゃない?耶咫は砂寿姉の話を信じたようだし…」
(はあ、いつもはあんなに凛としているのに…。砂寿姉は私といるとこんなに甘えん坊何だよな。ふふ、かわいいなあ。)
翡翠は砂寿の頭を柔らかく撫でた。フワッと砂寿の甘い香りが翡翠の鼻をくすぐった。
「翡翠…。」
泣きそうな砂寿を慰めながら翡翠は言った。
「さあ、砂寿姉。耶咫を誘って砕躯翁と耶咫の刀についてお話ししに行きましょう。」
「うん、わかった。」
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