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第12話 砂寿

 それから数日、3人は村へとたどり着いた。

武天村。村人は200人ほど。鍛治を主な生業としている。家々からは煙がたなびき、槌の音が絶えず聞こえて来る。村へはきれいな川が流れ込んでいた。そんな村の入口には数人が立ち並んでいた。


「あれ?あれは。」


 村の入口を見て、翡翠は嬉しそうな声を上げた。


「砂寿姉だ!耶咫!砂寿姉だよ!!」


 翡翠はそう言うと砂寿の元へと駆け出していた。


「砂寿姉!!」

「翡翠!」


 村の入口で翡翠を待っていたのは【土】の首、土門の名代を務める砂寿だった。砂寿は25歳。翡翠とは実の姉妹のように育った間柄である。聡明で美しい女性。

 砂寿は子供みたいに一生懸命に駆けてくる翡翠をその腕に抱きしめていた。


「翡翠!久しぶりだね。元気そうで良かった。」


 砂寿は翡翠を力一杯に抱きしめた後、その身体を繁々と点検しながら呟くように言った。


「もう。砂寿姉、私はもう子供じゃないんだから。」

「うん。でも本当に元気そうでよかった。」


 砂寿の言葉には心底ホッとした様子があった。


「で、そちらがあなたの撰霊様ね?変なのが混じっているけど?」

「ああ、うん。耶咫って言うの。あと、あの変なのは牙狼の白。」

「変なのとはなんじゃ!変なのとは!」


 白はガウガウと騒ぐが砂寿の強さを本能的に感じたのだろう。すぐにおとなしくなった。


「耶咫様。私は【土】の首、土門が名代、砂寿と申します。」


 砂寿は耶咫を見据えるときれいな礼をした。その動きは実に洗練されており、耶咫をして気を引き締めさせた。


「僕は耶咫。撰霊に選ばれ、【土】の里を目指しています。」


 砂寿は頷くと翡翠に向き合った。


「翡翠。あなたには悪いけど少し試させてもらう。」

「え?砂寿姉?どう言う…こと?」


 砂寿は一振りの刀を腰から外すと耶咫へと放った。


「砂寿殿!何をされるか!!」


 途端に砂寿の後ろに控えていた痩せぎすな男が喚きだした。


「耶咫。あれが石場だよ。」


 翡翠はちょっとだけ不安気に耶咫へと囁いた。


「砂寿殿!あの刀は土門様から預かった宝玉を練った刀身だ。見よ!あの波紋の美しさを!暗闇に光る星のように瞬きよる!振れば光が散り、霊力が震えるのだ!そもそも…。」

「石場、黙れ!そもそも貴様は何が言いたい?」


 刀について語り出した石場に呆れながら砂寿は石場を一喝した。


「あの刀は撰霊のために打った一振り。あのような得体の知れない霊力を纏ったミジンコのような霊数の小僧に渡す物では…。」

「黙れ!これは土門様の名代として私が成さなければならぬ事。」


 耶咫の隣で石場を睨みつけながら拳を握り締めていた翡翠がハッとしたように砂寿を見た。


「砂寿姉!」


 砂寿は翡翠の問いかけには答えずに一振りの刀を抜くと耶咫に向けて突きつけた。


「【闇】の撰霊よ。あなたの力を試させてもらう。」


 耶咫は少しだけ思案したが。


「それが必要な事ならば。」


 砂寿から受け取った刀を抜いた。その刀身は黒く輝き、霊力を放って星のように輝いた。


(石場が語るだけの事はある…。)


 翡翠は耶咫の持つ刀の美しさに感嘆していた。


「では参る!」


 砂寿は精霊を呼び出すと刀にその力を宿らせた。


(す、すごい霊数だ。爺さんよりも霊数は上だ。)


 金剛の霊数は約2,400。砂寿はそれよりも400ほど多い。しかも!


(は、速い!)


 砂寿の動きは耶咫が感嘆するほどに速く、鋭かった。下段の構えから突き出される太刀筋に耶咫はたまらずに数歩後ろに下がった。その動きを砂寿は見逃さない。防戦に廻った耶咫に向けて刀を水平に振るう。霊力がその刀身から放たれて耶咫を襲う。


「くっ!」


 耶咫はその霊力の刃を身体を反らせてかわしたが。


「次が来る!」


 砂寿は水平に振るった刀の勢いをそのままに身体を一回転させると二撃目を放つ。再び霊力の刃が耶咫を襲った。


「耶咫!」


 思わず翡翠が耶咫の名を叫ぶ。しかし、砂寿の放った霊力の刃は耶咫には届かない。精霊が!地面から現れた【土】の精霊が耶咫の前に壁のように立ち塞がって霊力の刃を霧散させたのだ。


「な、何と!」


 砂寿はその光景に驚き、耶咫から間合いを取った。


「私の霊力をかき消した…だと。」


【土】の精霊は次から次へと現れては耶咫の周りへ集まって来る。そして、耶咫の持つ刀へと宿ったのだ。


「耶咫…」


 翡翠はその光景に驚嘆した。

 その霊数は如何程なのか?翡翠も砂寿もその力を見極める事ができなかった。耶咫は霊力の宿った刀を地へと向けた。


「少しだけだよ。」


 耶咫は精霊に語りかけるとその力を解放した。


「ま、まさか!」


 耶咫の放った霊力は地面に深い穴を穿った。その力は絶大であった。


「こ、こんな事が…」


 砂寿は思わず呟くと握っていた刀を腰の鞘へと納めた。


「耶咫様、ご無礼をお許しください。あなたのお力を見極めさせていただきました。」


 砂寿は片膝をつくと耶咫へと頭を下げた。


「砂寿さん。やめてください。先の力は僕の力じゃありません。精霊が自分の意思で僕を守ってくれたのです。」


 その言葉に砂寿は驚きを隠せなかった。


(何と!精霊が自分の意思で動いたというのか!そんな事があるのか??)


 精霊は古来より支配し、使役する物である。その精霊が自分の意思で?ありえない。だが実際に砂寿はそのあり得ない光景を目にしたのだ。


「耶咫…。耶咫の刀が…」


 そおっと耶咫の隣に並んだ翡翠が耶咫に声をかけた。


「あ、ああ。借り物だったのにな…」


 耶咫が握っていた刀は精霊の力に負けて刀身がぼろぼろに崩れ、崩壊していた。


「あんなに素晴らしい刀だったのに…。見てくれだけだったの…。」


 翡翠の呟きはありえない事だった。そんなはずはない。耶咫が砂寿から受け取った刀は撰霊が持つに相応しい刀だった。


「な、な、なんじゃあ!翡翠!!お前の目は節穴か!あの刀を見てくれだけだと!!馬鹿なのか!そこの小僧と同様にお前も人外境に陥ったのか!!」


 石場がすごい勢いで翡翠を怒鳴りつけた。石場にしてもこの光景が信じられず、翡翠にあたったのだろう。


「石場…。お前…。私の妹に何を言った?死にたいのか?」


 冷酷な、心を心底に冷やかしめる声が砂寿から発せられた。


「ひ、ひー、ひーーい。」

「さ、砂寿姉。私が悪かったから!」


 翡翠の言葉に砂寿は不満そうだったが、冷たい殺気を放つ事はやめた。砂寿は極度に翡翠に対してシスコンなのだ。


「石場。見ての通りだ。お前が用意した刀は【闇】の撰霊に相応しくない。『始まりの時』までに耶咫様に武器を、武天村の総力をもって献上するように。」


 砂寿の言葉に石場は目を白黒させていた。その時、村の入口から一人の老人が進み出てきた。


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