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第10話 耶咫の風格

「空青様はご存じないのだな?」

「はい、空青様からの指示は耶咫様の実力を測ること、撰霊には敵対しない事の2点でした。」


 迫力ある金剛の言葉に風牙は内心で冷や汗をかきながら返答していた。隣で小さくなっている風香は金剛を見る事もできずに震えていた。


「わかった。お前達の処遇は私が決める。異論は無いな?」

「はい、ですが風香には寛大な処置をいただけますよう…」


 風牙はそう言うと深々と頭を下げた。


「こ、金剛様。私は…、私のせいなのです。あの…。」


 風香の言葉を金剛は遮った。


「ああ、わかっている。」

「爺さん、僕も翡翠も無事だしさ。そんなに事を荒立てなくても…」

「翡翠、翡翠はどう思っている?」


 金剛の問いに翡翠は少し考えたが。


「私も耶咫が怖かった。これは人の本能に訴えかけるもの。二人が空青様を思っての行動というのも納得できます。今後、耶咫に敵対しないでくれるなら、私は特に処分は必要ないかと…」


 ふん、と金剛は鼻を鳴らした。そして険しい顔で風牙と風香を睨みつけた。これに風香は恐怖し、思わずかたく目を閉じてしまった。


「よし、お前達。これから鍋を食べて行け!美味そうな山鳥が取れたんじゃ。良いな?」

「それは…どういう…?」

「ああ、今日はもう遅いから泊まって行け。酒は好きか?」

「ええ…。」

「耶咫、酒の準備も頼む。」

「わかったよ、爺さん。」

「耶咫、私も手伝うね。」


 事の成り行きに風牙も風香も呆気に取られていた。


「あの…、金剛様?」

「何じゃ、鍋は嫌いか?」

「い、いや。そう言う事ではなく…」

「ふふふ、撰霊と侍人がああ言ってるんだ。私がどうこう言う事はあるまい?」

「に、兄さん。私も手伝ってきます。」


 風香は金剛に一礼すると台所に消えて行った撰霊と侍人を追って行った。


「それで?空青様はどうでるおつもりだ?」


 金剛の問いは風牙にとって歯痒いものだった。


「はい…。空青様に精霊の王になる意思はございません。この精霊戦にあっては『気に入った撰霊の味方をする』とだけ…。」

「ふむ、まあ風牙にとっては歯痒いだろうな。」


 金剛は顎に手を当てると考え込んでいた。


(空青様は楽天的で大らかな性格だが…。あれでいて一途に想いこむ所がある。うまく耶咫の味方になってほしいものだが…)


 この金剛の思考は【土】としてはあまり好ましいものではない。【土】はは判ふ人としての役割を担った一族である。侍人以外が特定の撰霊に味方をしてはならないのだ。しかし、


(耶咫は孫みたいなものだからな…)


 この金剛の言い訳は幼い頃から耶咫を見守ってきたからこそ、なのだが、


(まあ、【土】としては許されないな…)


「金剛様、我々は耶咫様の霊力、そして為人を空青様へありのままに報告するつもりです。」

「それは私の預かり知るところではないな…。もっとも空青様が耶咫に良い印象を持ってもらえると心強いがな…」


 金剛の声から風牙は金剛の耶咫への想いを察していた。そして風牙は金剛の言葉には答えずに黙って俯いたのだった。


「まあ、今日はこのくらいだな。鍋ができるのをゆるりと待つ事にしようぞ。」



 

 

「やあ、白。山鳥を捌いてくれてありがとう。」

「どうじゃ?主よ。美味そうだろ?」


 ブンブンと尻尾を振る少女に風香は警戒心を持った。


「魔物の類か?霊力が荒れている…」


 不審な風香の様子に翡翠が気づいた。


「ああ、こいつは牙狼の白。まあ、耶咫のペットみたいなものよ…」

「ふん!小娘が!お前なぞ耶咫に歯牙にもかけてもらえぬくせに。嫉妬とは醜きものよ。」

「何ですって!」


 耶咫はこの様子にそっとため息をついた。


「ほらほら、喧嘩しないで。翡翠と風香は野菜を切ってくれるかな。白は僕と山鳥のツミレを作るよ。今日はツミレ汁だ。」


(な、なんと!牙狼か…。耶咫様は随分と手懐けたものよ…)


 風香の常識では牙狼など、人に懐く魔物ではないのだ。


(まあ、警戒するに越した事はないか…)


 風香は密かに思っていたのだが、白の耶咫に対する態度を見ているうちに白に一人で警戒しているのがバカバカしくなってきた。

 耶咫は山鳥の肉を叩いてツミレを作り始めていた。白は山鳥の骨を炊き、スープを作る。翡翠と風香は野菜を切った。忌部村の新鮮な野菜である。


「はあ、耶咫。良い匂いだね。」

「うん、スープができるまで内臓肉を焼いて食べようよ。」


 翡翠は山鳥のハツやレバを串に刺すと炭火で焼いた。


「ほう、これはなかなかに美味そうじゃな!」

「そうでしょ。白も飲む?」


 先ほどまで言い合いをしていたのを忘れたかのように翡翠と白は山鳥の肝を炙った串焼きでお酒を飲み始めた。


「ほら、風香も。」

「ああ、ありがとう。」


 先ほどまで命のやり取りをしていたとは思えないほどに弛緩した雰囲気に風香は面食らっていたのだ。


「ほらほら、食べてみて。」


 ちょっとだけ塩を強めにした山鳥の肝は炭火に炙られて香ばしく、お酒によくあった。


「翡翠は…翡翠は私の事を怒ってないの?」

「まあ、腹が立たないか?と言われるとちょっとだけむかついているけど…。私が逆の立場なら耶咫のために同じ事をしたと思うから…」

「そうか…」

「何じゃ?辛気臭いのお。ほれ。」


 白が注いだ酒をぐいと飲み干して風香は笑った。


「そうか…。立場か…。でも耶咫様も翡翠も悪くない…。」

「え?何て?」

「いや、何でもないよ…。」


 そんな二人の様子を耶咫は黙って見ていた。今後の自分の進むべき道を思いながら。


お読みいただきありがとうございます!これからもよろしくお願いします。

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