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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪女じゃありません、○女子です

作者: 个叉(かさ)


※思いついてしまったギャグですので、深く考えずにお読みください。

※同性愛嫌悪のある方は読まないことをお勧めします。

※多様性と寛容と包容力を必要とします。



----------------




「なんなんだ、お前は」


職場の玄関で待ち合わせた恋人の片方が、不機嫌をあらわに開口一番そうのたまった。


「え?」

「いつもうつむいてばかり。 前はそんなじゃなかったろう。 少しは笑ったらどうなんだ」


彼女は確かにうつむきながら彼に駆け寄っていた。

待ち合わせに遅れたのだろうか、今も少しうつむいている。


「ごめんなさい。あの」

「反論か?笑いもしないで文句ばかり。お前が嫌なら一緒に帰らなくてもいいんだ」

「そういうわけじゃないけど」

「俺がお前の機嫌を悪くさせてるのか?なら俺はあいつと帰るわ」


といって、奴は 通り過ぎざまに一部始終をみていた俺と帰ることになった。


俺は左舞季荒さぶきあら

営業部でそこそこの可もなく不可もなくな成績の、頭もほどほどの男だ。

背は少し低いから、もしかしたら中級以下かもしれない、言ってて悲しくなる。

俺の隣を歩いている奴に比べれば、皆劣等感に苛まれる筈だ。


奴、空流彬男くうるすぎおは営業部のトップで世間的にはイケメンだ。

引く手あまたらしい羨ましい身分で、女性は苦手だという。

けれど彼女がいなかった年がない、らしい。

そのくせ友情は大切にしてて、嫌みがない。

イケメンで優良物件で、女たらしでもなく、友達思いの理想的な奴だ。



今回付き合っている彼女は、景浦亜梨子かげうらありこ

大人しくて目立たないような子で、胸はないけどそこそこ美人。

実は俺の好みのタイプ、清楚系美人だ。

亜麻色の柔らかい髪質で、ふわふわさらさら揺れるのが堪らない。

指はほっそりと長くて白い。


背が少し高すぎるのが難点だが、空流は背が高いので問題ない。

キスするのに丁度良いくらい。


俺に釣り合わない高嶺の花なだけだ。


そんな彼女には、悪女の噂がたっている。

俺からしたら、彼女は空流に献身的に見えるのだが、会社の裏では空流に不機嫌で八つ当たりしてくるらしく、いつも空流は彼女の扱いに苦労しているらしい。


そこそこ美人だから、社内でやっかまれないように目立たないようにしていると聞いことがある。

アイドルほどかわいくもないのに、少し自意識過剰だなと思ったことがある。

空流の話を聞いていると自意識過剰なのも納得なくらいプライドが高いらしいから、それは真実なんだと思う。


そんな景浦は、会社からずっと俺たちが歩く数歩後をついてきている。

これが家では傍若無人なのだから不思議だ。


それから俺たちは改札を通り、電車に乗り込んだ。

彼女も同じで、俺たちから人一人分空間をあけて立っている。


「いいのかよ。彼女、傷ついてないかな」

「自分の機嫌を自分で取ることが出来ない 子供に付き合わされるんだ。あれは修行だ。別にいつも機嫌がいいなんて思ってないが、いつも機嫌が悪いのは問題外だろ」


確かに、と俺は頷いた。

いつも機嫌悪いとかしんどいよな、いつも機嫌がいい方がいいに決まっている。


俺はいつも機嫌がいいのは無理だけれどな。

俺、結構落ち込みやすい性格しているから、他人に機嫌を要求できるほどの器じゃないし。


けれど、空流はいつもクールだし落ち着いてるからそういうもんなんだろうと理解できる。

次元が違う男が求めるのは同じハイクラスの女性じゃなきゃ、釣り合わないだろう。

選べるなら損したくないもんな。

選んで外れくじとか罰ゲームをやめて、早く見切りをつけた方が賢い。



「ほら、そういってもさ。彼女、仕事頑張ってるんだろ。今日だって急いで切り上げて走ってきてくれたんじゃないのか?」

「女が男社会に勝手に入ってきてるんだから、その辺わきまえて行動するのは当然だろ」

「えー」

「アイツのかたを持つのか、左舞」

「そうじゃないけど」


機嫌を良くしろと言って文句を言うのが筋違いだ、という空流の気持ちも分からなくもない。

よっぼど溜まっていたんだな。

しかし板挟みにされる俺の気持ちも考えてくれ空流。


ちょっと言いすぎな気がするけれど。

後で彼女が豹変したら怖くないのかな、勇者だな空流は。

俺、景浦の顔好きだけど性格きついのは無理。

波風たてたくないんだよなぁ。


「彼女の部署、いま繁忙期なんだろ。あんまりそういうこと言わない方がいいんじゃないか?付き合ってくれなくなるぞ」

「あいつか?あいつといる時間は退屈だ。お前らの方が楽しいし、後ろ向きなあいつは気が滅入る。すぐにばてるしな」


空流は結構鍛えている。

イケメンはボディにも気を使って大変だな、って他人事のように思ったことがある。

そういえば社内のテニス大会でこいつ三位だった気がする。


景浦体力ないんだ。

じゃ、いざとなれば力業で…ってDV反対。

ごめんなさい。


「そりゃあ、女性なんだから男より体力は劣るだろ?そこが庇護欲をそそらないか?」

「甘いな。お前が彼女を作る前に忠告しておく。夫婦になるなら体力が一番だぞ。体力のない女と一緒だとほんとに苦痛だ」


おまえの方が付き合いやすい、みたいなことを彼女の前で言っちゃうモテ男。

いいなあ、多少怖くても、俺も景浦みたいな美人の彼女欲し…


「もう無理!!」


そう叫んでふるふると肩を揺らす景浦に、周囲の視線が集中する。


亜麻色の柔らかな髪が揺れ、うるんだ瞳が空流を捉える。


空流と俺の会話を聞いていた聴衆も少なくなかったようで、あるものは同情を寄せ、あるものは野次馬で、あるものは庇護欲をそそられた。

かくいう俺も、そこそこ美人の彼女と向き合って心臓が跳ねた。


そこそこ美人は、美人なのだ。

美人の悲哀の一端を見た俺は、他の乗客と同じように美人な彼女を見つめていた。





そうして彼女に飲み込まれた左舞の視点と、真実は少し違う。


ほんの少し時を遡ろう。

彼女は-------




「いつもうつむいてばかり。前はそんなじゃなかったろう。少しは笑ったらどうなんだ」


ーーーーー だってあなた、笑うと勘違いしてしまうでしょう。

そのせいでいらないのに貰った釣り竿、捨てると怒るだろうし、扱いに困っているのよ。


別に贈り物が欲しい訳じゃない。

花束とかサイズが解らないものとかじゃなくて、日傘とか手袋とかであれば嬉しいけれど。

そういうのを貰うより、荷物を持ってくれるとか(地面に無造作に置くなら持たない方がましよ)、さりげなくか弱い女扱いしてくれる方が嬉しいかな。


祖父は力自慢でぶっきらぼうで気のきいたことはいえない寡黙な人だったけど、祖母は重たい荷物を持ったり、電球をかえたことがないの。

そういうのに憧れちゃうのは、まだ女子力が死んでない証拠よね。



「反論か?笑いもしないで文句ばかり」


ーーーーー 文句も言ってないんだけどな。話すと怒るから黙ってるだけなのに。

これもダメなのかぁ。

もう空流に言いたくもなくなってきてるのもある。


熟年離婚の気持ち解るわ。

ガス抜きは必要だとは思うんだけど、もう将来この人と一緒にいる気もないから、無駄なエネルギー使いたくない。

そろそろ別れた方が良いのかもと思ってるけど、別れ話切り出すエネルギーも惜しい。

愛想つかしてるなら別れてくれないかなぁ。




「自分の機嫌を自分で取ることが出来ない 子供に付き合わされるんだ。あれは修行だ。別にいつも機嫌がいいなんて思ってないが、いつも機嫌が悪いのは問題外だろ 」


ーーーーー 機嫌が悪いわけじゃないんだけどな。

そもそも機嫌の良し悪しって、他人から見て判断されるものだから、仕方ないんだけど。


逆に機嫌悪いと責められて機嫌が直る人いるのかしら。

何も思ってないのに捲し立てられたら気分が悪くなるの当たり前でしょ。



「あいつか?あいつといる時間は退屈だ。お前らの方が楽しいし、後ろ向きなあいつは気が滅入る。すぐにばてるしな 」


ーーーーー え、急に何。

BLを提供しているの?

不覚にもあなたが魅力的に見えるわ。




「女が男社会に勝手に入ってきてるんだから、その辺わきまえて行動するのは当然だろ 」


ーーーーーちょ、確定するからやめて。

男社会好きすぎるでしょ。

やだ尊い。

そこに気づくとか、空流にエフェクト(輝)がかかってきたわ。

そりゃね、魅力的よ。

男の子同士の友情って、女子の中にはない神聖なものがある感じがしてさ。

女って良くも悪くも徹底して残酷になれるから。



「甘いな。 お前が彼女を作る前に忠告しておく。夫婦になるなら体力が一番だぞ。体力のない女と一緒だとほんとに苦痛だ」


ーーーーーえ、やっぱりBLなのね!

駄目、私、彼氏をそういう目で見ないように努力してきたのに。

もう。


空流の遊びに散々付き合わされた後に食事作れとか後片付けしろとか、要求が過ぎるから体力温存してたのが、まさかこんな風に作用するなんて。

グッジョブ私!





そう。

景浦は腐女子だった。

だから目立たないように行動していた。

決してばれてはいけないのだ。

ばれれば社会性を失ってしまう危険がある。

だから目立たず、騒がず声を潜めていたというのに。

空流はそんな景浦の体裁を揺り動かした。


彼女は腐女子だった。

ゆえに、彼の言葉はご馳走に変換されてしまったのだ。


リアルタイムでフルボイスの彼女の心の声をお送りしよう。





「 もう無理!! 」


あ、まずい。

皆見ちゃってる。

やばい、ずっと隠していたのに。


「またか。どうしてそう感情的なんだ。その度に機嫌を取る俺のことを考えたことはあるのか。そのセリフはそっくりそのまま俺の心だぞ」


空流が呆れたように見てる。

分かるわ。

私も折角我慢して目立たないようにしてたのに。


「違うの」

「何が違う。今更何を言ってもお前が身勝手で感情もコントロールできないことは皆が知っているんだぞ」


あなたのせいで今コントロールできなくなったんですけれどね。

ていうか女って感情的な生き物だから。

今私は推しを作ってしまった状況だから、多少の難はご理解いただきたいわ。


それと皆って誰よ。

どこぞのだれぞ、誰彼構わず私の有りもしない噂をばらまいてたらしいけど、皆って何よ。

世界人口的な規模なの?


「ごめんね」


昔取った杵柄で布教本は作らないでおこうって、ずっと我慢してたけど 。

こう見えて私、そこそこ売れた同人作家だったの。

壁サークルになったこともあるわ。


「謝って済むと思ってるのか」


あら、謝罪が拒否されてしまったわ。

謝って済まないなら謝る必要はなかったかしら。

妄想しただけで今のところ実害はないし、殺人をはじめとした犯罪をおかした訳でもない。

法治国家なら、謝罪って一定程度受け入れられると思っていたけれど。


たまにちょっと仕事が出来ない人をつかまえて(ろくに教育もしないで)、謝っても許さないと仕事辞めさせようとするやからもいるものね。

謝罪に心が籠ってないとか、反省がないとか、怒られても笑っててへこまないのが許せないとか、謝って何でも許されると思ったら大間違いとか言われてしまうのよ。

気を遣わせないよう、無理に笑ってるに決まってるでしょうが。

仕事を教えた方が早いのに。

それでいて他人(わたし)に押し付けといて、私にまで暴言を吐いてくるから、女って怖いのよ。


空流はそういうタイプではないと思っていたけれど、違ったのかしら。

人は見かけに拠らないことはわかっているつもり。

本当に申し訳ないと思っているのだけれど、反省の色がないと思われたのかしら。

それなら仕方ないわ。



「おい、景浦?」


だって鉛筆と消しゴムでBL出来ちゃうのよ。

びっくりするでしょう。

素敵なの。

初めは私も何を言っているのって思ったわ。

宇宙人と交信したかと思ったものよ。

でも理屈を聞いたら分かる。

理由があるの。

その儚い理由を知った時の感動。

身を削りながらひかれ合う二人。

知らずにいたあの頃に戻るなんて無理。


それが男にとって気持ち悪いとか、どういう解釈しているんだとか言われても構わない。

だって私、他の女の子が毛嫌いして気持ち悪いっていう百合もOKなんだもの。


あれ、尊いわよね。

現実の女と違って淡く思慮の浅い感じで無力なのが、かえって庇護欲をそそるわ。

こんな子がいたら率先して守ってあげたいし、私が欲しいわ。

むしろ男に近い感覚を持っているわ。

悲しいかなそういう子にあったこと無いけど。


あ、ちゃんと男の人は好きよ。

ただ、まともな考えしてるのが少なすぎるから(女をトロフィーくらいに見てる?)、性的に見えなくなってるところあるわね。


「景浦、どうした?」


それこそ多様性よ。

なんでもおいしく頂ける方がいいじゃない。

愉しいことはいくらあってもいいの。

嬉しいことが増えるじゃない。


だから多神教の考え方には大賛成だわ。

ミトラ教だろうがサウィンだろうが、いいところ全部もらって取り込んじゃったほうが、いっぱいお祭りがあって楽しいし、遊べるし、深いし、誰とでも仲良くなれそうだし。

私は結構引きこもりがちでなかなか他人と打ち解けられないのだから、考え方くらい世界宗教規模でいいと思うの。


「だから布教するね!」

「は?」


大丈夫、あなたと違って世界規模では布教しないから。

引きこもりだから流布する範囲なんてごく少量、一万部ぐらいよ。

世界人口のほんの一つまみよね。


迷惑?

そんなことないわ、あなた絶対もっと幸せになるわ。

あなたの脳筋に付き合えて 体力もある女子なんてアスリートレベルで、そういう人って遺伝子のためにアスリートと結婚しちゃうから、競争率が半端ないと思うの。

あなたのスポーツレベルはアスリートに程遠いし。


あなたは男友達が大好きだし。

そもそも世の女性が全員結婚しても(基本的に長寿な女性をさっ引く勘定は別として)男の人は余るし、競争率とか考えなくてよくなると思うの。


「なので、末永くお幸せにね」

「ちょっと待て、何が”だから”で”なので”なんだ。お前俺をそっちのけで何か考えてなかったか?」


口角をあげる私に、空流が慌てている。

私、なにかまずいことを話したかしら。

隠遁してた年月が長すぎて、よくわからないわ。


「ううん。何にも。別れるのね。わかってる」

「なんで飛び切り笑顔なんだ。その笑顔が出来るなら俺だって別れない…ってどこに行くんだ!」


別れない?

それは困るわ。

私はあなたを幸せにしたいのだもの。

私といても幸せにはならないから、他の素敵な人と幸せになってほしいわ。


「大丈夫、私邪魔はしないから。じゃあね」

「景浦、何のことだ、まて」


私はマンションの最寄駅で降りたのに、なぜか空流がついてくるわ。

ここはまいてしまいましょう。

私、瞬発的な筋力はないけど持久力あるし、地理的優位はこちらにある。

後片付けのために体力残しとかないともたないとかないから、全力でいくわ。

まず駅員に少し足止めしてもらって、あとは全速力。


……


……






その後、彼と彼女がどうなったのか。


知るのは一万人ほどの人口である、と言いたいところだが。




景浦の同人誌は思いの外ヒットしてしまい、電子配信が好調なことから、商業誌デビューまで果たした。

商業誌化にあたって付けられたサブタイ、「リアル男子のイマドキ恋愛事情(オフィスラブ)ー僕らは筋力カラダで恋をする」から、「筋恋カラコイ」が流行語にノミネートする前代未聞の羞恥プレイに悶える腐女子がいたとか。


そんなこんなで続編は当然のように制作され、続編の帯にあるキャッチーなあおり「女体カラダ好きの彼に男心ココロは傷付いて」は、恋に疲れた現代乙女の心を再び掴んでしまったのか。

出す続編も次々ヒット作になった。



そのヒットが空流に小さな被害を与えたか与え無かったかは、神のみぞ知る。


「ごめんなさいね。あ、でも謝っても意味がないんでした」




ーーー悪女じゃありません、腐女子です

〈おわり〉







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