表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

5:熱

窓から見える空が陰った。

それに不安を覚えて、レイは窓から視線を逸らせた。

しかし、響いてきた声がそうはさせてくれなかった。




「無視するなんて随分だな、レイ…」

「…カイリ…!」

「これで…逃げ仰せたつもりか?」






バサリ、と羽ばたく音が響く。

白い羽根。

漆黒の髪が風を纏って揺れる。

絶望的な気持ちで、レイは空を見上げた。







「どう…して…?」

「羽根が残ってるからな…羽根からは天使の波動が発せられる…それを辿れば直ぐだったよ」

「…そん、な…」







愕然と膝をつくレイの顎をカイリの長い指が持ち上げる。

その表情を満足げに見つめた後、カイリは指を離した。





「捕らえにきたのか…?」

「いいや。そんなつもりは毛頭ないな。」「じゃあどうして…?」






掠れたレイの声が懇願するかのように響く。

カイリの手が翳されると、細長いレイピアが現れた。





「お前の羽根を狩りにきた…」

「な…」

「『堕ちる』とはそういう事だ。お前はもう天使に非ず…」

「カイリ…」

「命までは取らないから安心しろ」





レイの表情に僅かな安堵が混じる。

しかし、それを見てカイリは釘を刺すように冷たく言い放った。





「『堕ちる』という事はそんなに甘くない…」

「…」

「人間は汚いぞ…?俺たち以上にな。」






レイピアの刃がきらり、と光る。

やって来るだろう痛みに、レイはきつく目を閉じた。










「コーヒーでえぇか?」

「すんません…」



備え付けのコーヒーメーカーを立ち上げる。

暫くすると、コポコポという音と共に芳ばしい匂いが部屋に立ち込めた。





「で、どないしたん?鷹耶の事か?」

「え…」

「俺の妹も過呼吸にようなるねんけどな。なるんは大概何かしらショックな事があった時やねん。だからお前も、何かあったんかなって…」





堺の言葉に和樹は眼を伏せる。

まるでそれ以上聞かれる事を拒むかのような態度。

それに堺は妙な苛立ちを感じた。





「俺には言えんか…」

「堺さん…」

「お前は綺麗な顔しとるけど、人形みたいやな。もっと感情的になったらええねん。」






煙草を取り出し、火を灯す。

堺の動作を目で追いながら、和樹も同じように煙草を口にくわえた。

しかし、堺の長い指がそれを奪う。








「もうちょっと落ち着くまで、止めとけ」

「堺さんは、優しいっすね…」

「やろ?」






和樹は笑う堺を見上げた。


堺は和樹より背が高く体格も良い。

下がった目尻が人の良さを表していた。

白い歯を見せ笑うその姿は好青年そのものだ。

兄のような堺に、甘えてしまいたい気持ちに駆られる。

堺なら、この行き場の無い苦しみを救ってくれるような気がした。

思わず延ばした手が、堺の腕を掴む。






「和樹…?」

「俺…鷹耶の事殴ってもうて…俺は、鷹耶じゃないと…あかんのに…」

「……」





和樹の呼吸が徐々に早くなる。

それを感じ取った堺の腕が和樹を引き寄せた。

暖かい手が、背中をあやすように撫でる。

その暖かさが和樹の心を落ち着かせていった。






「…ゆっくりでええから…」

「鷹耶が…大切なだけやのに…全然、上手くいかん…」

「それが、辛いんやな?」






こくり、と和樹が頷く。

堺の目が優しく細められた。






「大丈夫…今は(こじ)れてるかもしれんけど、きっと上手くいくって」

「堺さん…」

「それでも辛いなら、俺にしとき?」






堺が和樹の頬を撫でる。

誘われるかのように、和樹は顔を上げた。

堺の口角が笑みを形どった。







「そんな顔して…」

「え…?」

「めっちゃキスしたなるわ。」





悪戯っぽく笑う堺。

冗談と受け取った和樹は苦笑いを返す。





「俺、男っすよ?」

「…和樹は、綺麗やで…」

「冗談は…」

「冗談ちゃうよ。俺、和樹ならいけるし。」





顎を持ち上げられ、堺の顔が近づいてくる。

和樹はそれをまるで他人事のようにただ見つめていた。

あと数センチで唇が触れ合う距離。

堺が口を開いた。






「避けぇや…ほんまにしてまうで?」

「堺さんは…優しいから…」

「そんな事せぇへん…?」






堺が笑みを引っ込めた。

真剣な眼差しに胸が痛くなる。







「お前、俺を買い被りすぎちゃう?」

「堺、さん…?」

「好きな奴前にして我慢出来る程、俺は出来た人間ちゃうよ?」







顎を掴む手が離れる。

それと同時に堺の手が和樹の後頭部を押さえ、噛み付くように口付けられた。





「!?」







驚きに見開かれた目。

反射的に和樹は腕を突っぱねて、堺を押し退けた。

抗うわけでもなく、堺の手はするりと和樹から離れた。






「何で…」

「まだ言わすか?」







熱を持った目が和樹の動きを止める。

駄目押しのように繰り返され、その事実を認めざるを得なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ