15:終
不思議な同居生活が始まって、もう3ヶ月が経とうとしていた。
何時も通りの生活に戻り、また慌ただしい毎日が続く。
そんなある日、鷹耶と和樹は雑誌の取材を受けていた。
女子高生向けの雑誌のため質問も恋愛話が多い。
「じゃあ二人は好きな人はいるの?」
「ぇー…まぁ、」
「お前何マジで答えてんねんっ!っていうか、その質問お笑い関係ないやん!」
「まぁまぁ、俺の好きな人は鷹耶しかおらんから妬くなやぁ」
「誰がそんな心配しとんねんっ!」
その場は終始和やかなムードで、取材はあっという間に終わった。
暫く休憩したあと、今度はTV雑誌の取材が始まる。
何故こんなにも取材ばかりが続くかというと…
「最後に…じゃあお二人のKing of-Mに向けての抱負をどうぞ。」
King of-M、
年一回、漫才のみの大会。
年数制限はなく、プロアマ問わず。
ただし優勝は一組だけ、というシビアさもある。
間口が広いだけあって、競争率は半端ではない。
しかし、それさえ優勝すれば名実共に日本一になれるのだ。
人気がありながらも今までこの大会には出たことの無い二人が、今回出る事を決めた。
自ずと注目が集まるのも仕方がない。
連日に及ぶ取材も自分達をアピールする良い機会だと、オファーされたものは全て受けるように二人はマネージャーに伝えた。
「そうですね…やるからには一番目指しますよ。それは鷹耶も一緒やと思うんで。」
「当たり前。自分が一番面白いって思わな、こんな商売やってへんし。だから、今年こそ一番とってやります!」
「良いですね、応援してます!じゃあ取材は此処までなんで、ありがとうございました。」
記者が頭を下げる。
二人も頭を下げてから部屋を出た。
「今日はこれで終わりやっけ?」
「うん。」
「折角やから皆で外で飯食わん?」
「せやな。じゃあ連絡するわ」
鷹耶の提案でレイとカイリをそれぞれ呼び出し、4人でレストランに向かった。
外見的に目立つカイリとレイ。
そして知名度の上がってきている鷹耶と和樹。
4人が並んで歩いているだけで注目の的だ。
感じる視線に、レイが居心地悪そうに視線を泳がせる。
それに気付いた鷹耶がレイの背中を叩いた。
「そんだけお前らが魅力的って事や。」
「…ぇ…?」
「胸張ってええ事やねん。何も恥ずかしい事無い。」
笑う鷹耶にレイの不安は消え去っていく。
ふわりと釣られるようにレイが笑うと、鷹耶は勢い良く走り出した。
和樹とカイリも思わず後を追う。
辿り着いたのは駅前の広場。
少し大きめな噴水の前。
「レイとカイリは其処な。」
「鷹耶?」
半ば強引に鷹耶はレイ達を噴水脇のベンチに座らせる。
そして今度は和樹の腕を引いた。
「お前はこっち。」
「何やねん急に…」
「えぇから!」
和樹が立たされたのは噴水の縁。
一段高い位置に立たされ、行き交う人の視線が一気に集まる。
「おい、鷹耶…目立ちすぎちゃう…?」
「目立ってナンボの職業やろが、今更何言うてんねん。」
和樹の横に鷹耶が登る。
人だかりが一気にざわついた。
『ねぇ、あれって…』
『ホンモノ?』
『何かの撮影かなぁ?』
すぅ、と鷹耶が息を吸い込んだ。
「今から漫才するから!暇ある人見てってやぁ!!」
「は…?」
戸惑う和樹に向けられたのは満面の笑み。
「背筋伸ばして、声張らな届かんで。」
「…!」
「アイツら、絶対笑かしたるねん…」
見据える先にはカイリとレイ。
意図を理解した和樹は、鷹耶の肩に手を置いた。
「わかりにくいねん…」
「でも解るやろ?お前は。」
「…当たり前や。…っし、やるか!」
「おぅ!」
「カイリ…」
「何だ?」
「もう…誰も俺達を見てないね…」
「アイツらが、惹き付けたからな…」
視線の先にいるのは、楽しげに漫才を繰り広げる鷹耶と和樹。
自分達の世界とは違う彼らは、こんなにも優しい。
「俺、堕ちてきて良かった…」
「…俺達、だ。」
その言葉に一瞬、レイは目を丸くして驚く。
しかし直ぐに表情を戻すと柔らかい笑みを浮かべた。
「そうだね、カイリも一緒だ」
再び二人に視線を戻す。
終盤に差し掛かった漫才。
鷹耶が右手で和樹の肩を叩いた。
その瞬間、和樹の身体のバランスが崩れる。
揺らいだ身体は水飛沫を上げ、噴水の中へ消えた。
これにはレイもカイリも驚いたが、耐えきれず吹き出した。
「っ、あはははは!」
「クッ、」
「冷たぁ…ったく、ほんまにお前は…」
「みてみ、和樹。アイツら楽しそうやん」
「…せやな、」
笑う観客達の脇。
レイとカイリの笑顔が何より二人にとって嬉しかった。
交わる事の無かった2つの世界が漸く繋がった気がした。
それを確認するように、鷹耶はピースサインを空高く掲げる。
レイがそれを涙で滲む視界に捉えた。
そして同じ様にピースサインを頭の上で掲げる。
通じあった『心』を、4人は確かに感じ取る事が出来た。
自然に零れた笑顔がそれを証明していた。




