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14:解

福井は、『堺の所に行く』と言い残し去っていった。

残された4人は顔を見合わせる。



「取り敢えず…俺の家に行く?鷹耶の家よりは近いし」

「…そやな。レイとカイリも…」




振り返ったが、既に2人の姿は無かった。

取り敢えずは追うことを諦めて、2人は歩きだす。

そのまま和樹の部屋に辿り着くまでは、ほぼ無言だった。



何度と無く訪れている筈の場所なのに、鷹耶は妙に緊張を覚えた。

和樹に促されるまま、ソファへと腰掛ける。

長い沈黙を経て、漸く鷹耶が口を開いた。



「スマン…巻き込んで…」

「……」

「無茶やった。反省してる…」



深々と頭を垂れる鷹耶を和樹はそっと引き寄せた。



「…心臓千切れるかと思った…」

「和樹…」

「ほんまに良かった…お前が居なくならんで…」



和樹の暖かさが鷹耶の身体を包む。

幼い頃に感じた安心感が、頑なだった心を癒していく。



「全部…思い出したんや…この傷、俺の所為やって事も…」

「俺も…思い出した…」

「嫌いに…ならんで?都合が良い事言うてるって自分でもわかってる…でも、」

「ならんよ…」




鷹耶の後頭部を撫でていた和樹の指が止まる。

鷹耶は自分より高い位置にある和樹の顔を真っ直ぐ見上げた。

視線が絡まる。今なら素直になれる気がした。





「なれる訳、無いねん…」

「鷹、耶…」

「俺…和樹の事好きみたいや。多分…ずっと前から。」





思ったより、すんなりと言葉は溢れた。


それに、驚いて目を見開いている和樹を見るのは存外気分が良かった。

押さえきれず溢れた感情が、鷹耶を笑顔にする。





「何っちゅう顔してんねん。」

「や…めっちゃびっくりして…お前、俺の事からかってない?」

「冗談でこんな恥ずい事言えるか!」



声を荒げた事に気まずさを感じ、鷹耶は直ぐに和樹から視線を外した。

その横顔は耳まで赤い。




「…ってゆうか、お前こそどうやねん。その…俺の事…」




口に出しそうになった台詞を思わず飲み込んだ。




「鷹耶…?」

「ぁ…いや、何でも無いわ…」



どう思ってんの?。

流石にその問い掛けは恥ずかしすぎる。


そもそも男同士なのだから、お互い好きだと知った所でどう発展していけば良いかなんて解らない。


そんな戸惑いに気付いたのか、和樹はそっと鷹耶を抱き締めた。






「鷹耶の…」

「…ぇ…?」

「鷹耶の…真っ直ぐで嘘吐かん瞳が好き。多分…初めて会うた時から。」




和樹の指が鷹耶の頬を滑る。




「俺は鷹耶に一目惚れしてたんやと思う…」

「クサい事言うなや…ッ。恥ずかしすぎる…」

「でも嘘ちゃうから。俺が鷹耶の事好きなのは…」

「わかったからッ!もーそれ以上やめて…動悸しすぎて心臓壊れる…」



決して嫌な訳ではない。

でも、これ以上は恥ずかしすぎて耐えられなかった。

愛しげに細められた和樹の目がさらに鼓動を早くする。


耐えきれず鷹耶が目を逸らそうとした瞬間。

柔らかいものが唇に触れた。

鷹耶は抗わず、瞼をゆっくり下ろす。



やっと気持ちが通じ合えたのだ。

鷹耶の心は温かいもので満たされていた。




名残惜しげに、ゆっくりと離れていく唇。

数秒の出来事の筈なのに。

とても長い時間そうしてたかのような錯覚を起こす。

嬉しい、と思う気持ちと同時に沸き上がったのは、ある1つの気掛かり。




「…なぁ、和樹…俺やっぱり…」

「解っとるよ…お前が何言いたいかくらい。」

「じゃあ…」

「行くか、」




和樹が立ち上がる。

わかってくれた事が嬉しくて、鷹耶は笑顔を浮かばせた。










「人間が理解し合うのは難しいことばかりだな…」

「でも、ヒトも悪いものばっかりじゃないよ?」

「あぁ…そうだな…」



カイリの手がレイの手を握り込む。

体温の通わないそれに心が凪いでいくのを感じた。

レイがぽつり、と不安を漏らした。




「これから…どうしようか?」

「……」




行く宛ても帰る宛ても無い。

堕天使に与えられる残酷な現実。

それを誤魔化すようにカイリはレイを抱き締めた。




「大丈夫…独りじゃない」

「…そう…だね」

「一緒に生きよう…」




-何処までも。

そう囁いたカイリの声は震えていて。

レイは目を閉じてそれに気付かないふりをした。







「レイっ!」

「…ぁ、」




息を切らせながら走ってくる2つの影。

それを認識した瞬間、レイは目を見開いた。




「勝手に、居らんく、なるなんて、許さへん…ッぞ!」

「鷹耶…」

「俺の事…守護したい、って言うてたやんか…!だったらっ!最後まで守護せぇや!!」




鷹耶のその台詞に、レイとカイリ、和樹までもが唖然とする。

一呼吸置いて、和樹が堪らず笑いだした。





「はははは!お前ッ、どんだけ俺様やねん!」

「…ッ!」




爆笑された事に、顔を真っ赤にする鷹耶。

そんな鷹耶を見て和樹は更に笑った。





「兎に角ッ!お前らはずっと俺らの傍に居ればええねん!」

「行く宛…無いんやろ?俺も鷹耶も独り暮らしやし、一人くらいなら増えても大丈夫やからさ。」

「そや。レイは今まで通り俺の家住んだらええねん。」

「で、カイリは俺のとこや。何時でもレイに会えるし問題無いやろ?」





二人にとって、これ以上無い申し出。

しかし、レイは唇を噛みしめ俯いた。

カイリも戸惑いを浮かばせた瞳で鷹耶達を見詰める。





「でも、俺には鷹耶を護る力が無い…何も返せない…!」

「…俺達は既に天使でも人でもない。何も出来ない俺達はお前達の重荷にしかならない…」

「ごちゃごちゃ煩いねん!誰が、いつ、見返り欲しい言うたんや!?」

「そんなん要らんねん…俺はまだ良く分からんけど、鷹耶がお前らを必要としてる。だから、俺らの傍に居って?」




鷹耶と和樹の瞳は真っ直ぐ、自分達へと向かっている。

肯定以外の返事は許してくれなさそうだ。




「…鷹耶って本当に…お人好しだよね…」

「何やねん今更…俺の事なら何でも判るんやろ?」

「うん…ありがとう…」




鷹耶に肩を引き寄せられ、レイはこの上なく嬉しそうに笑う。

漸く、本当の自由を手に入れた気がした。




「帰るか、」

「今日は和樹ん家で、焼肉やな!」

「…マジで…?」

「何やねん、折角の良い雰囲気に水差す気かぁ?」




2LDKの広さがあるとはいえ、焼肉なんてすれば部屋に匂いが篭ることは間違いない。

悪戯っ子のように笑う鷹耶に、和樹は諦めたかのように両手をあげた。




「わかった、俺も男や…」

「さすが和樹!じゃ行こか、レイ、カイリ!」



ぐいぐいとレイを引っ張って行く鷹耶。

その後ろ姿を見つめていると、横に並んだカイリが口を開いた。




「良いのか?」

「しゃあないよ…惚れた弱味や。買ったばっかりの服に匂いが付くくらい…」

「そっちじゃない、俺達を匿う事をだ。人ではないんだぞ?」




和樹は顔をカイリへと向けた。

カイリは相変わらず無表情ではあるが、その瞳には戸惑いが滲み出ている。

いきなり異世界に堕ちてきたのだから無理もない。

どんな言葉を並べた所で、その不安を取り除くことは出来ないだろう。


じゃあどうすれば良いのか、何て今の和樹には解らなかった。

ただ1つ、わかっているとすれば…





「俺も鷹耶も、天使じゃないアンタらしか知らん。その天使じゃないアンタらが必要やねん。それだけで、十分な理由ちゃう?それに…」





和樹がゆっくり進めていた足を止めた。

そして真っ直ぐカイリを見詰める。





「アンタらは鷹耶を護ってくれたやんか。」

「あれは…レイの為に…」

「でも結果は一緒や。鷹耶を、死なせんでくれてありがとう。」






『人は汚いものだ…』

『争い、殺し合い、無益を生む…』

『お前は違う。第0番天使に近い存在…崇高なものだ』

『あの堕ちたクズとは違う』





今までカイリが言われてきた言葉が頭を巡る。

果たして、その言葉達は正しいものだったのだろうか?

その疑問は未だ解けない。


ただ思ったのだ。

レイを護りたいと。


その行動は天使達からすれば、気が触れたとしか思われないものだ。

しかし、目の前にいるこの男はその行動に感謝していると言う。



ならば、その言葉の方を信じたいとカイリは思った。






「ありがとう…」

「おぅ。」

「お前達の言葉は優しい。お前達の傍は、暖かい…此処に居れば何か答えが見つかりそうな気がする。」





何より此処に居れば、きっとありのままに笑うレイを見ていられる。

そんな気がした。





「答えが見つかるまで、お前達の傍に居ても良いか…?」

「良いって言うたやろ?今更聞かんでえぇよ。」





和樹が笑う。

釣られるように、カイリも口元を綻ばせた。


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