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12:離

「堺さん…?」



ソファーに座り手を組んで俯いたまま微動だにしない堺へ、和樹が恐る恐る近付く。

その表情は硬く、顔色も悪い。

そっと手を伸ばし、和樹はその頬に触れてみた。

堺が緩慢な動作で顔を上げた。




「和、樹…」

「どないしたんですか…?」

「…すまん…」




堺の脳裏に浮かんだのは血塗れになって倒れている鷹耶の姿。


福井がどんな条件を持ち掛けたのか、それは堺の知るところではない。

しかし、福井の行動の原因は自分にあると堺は確信していた。

ずっと福井の視線の意味を考えようとしなかった自分に。





「俺、の所為や…ごめん和樹、ごめん…」

「堺さん…」

「俺は、狡い…」





和樹の澄んだ瞳に胸が締め付けられる。

触れようと手を伸ばしたが、それは叶わなかった。

躊躇いと後悔が入り雑じる手は、和樹まで汚してしまいそうで。


それでも浅ましく、まだ望んでしまう。




「このまま…鷹耶が居なくなれば…って思ってしまった…」

「!」

「存在と一緒に、和樹の頭ン中から…!アイツなんて消えれば良いって…!」




そんな事有るわけないのに。

和樹の中から鷹耶が消える事なんて。

それでも願ってしまう。

なんて浅ましいのだろうか。




「こんな事ばっか考えて…それでもお前に触れたいと思っとる…俺が一番汚い…ッ!」




驚き、見開かれた和樹の瞳。

堺は伏せた視線を緩慢な動作で持ち上げた。

縋るように、その瞳を覗き込んだ。





「…和樹は…鷹耶が好きなん?」

「ッ…!」

「正直に言うて…」




その答えは解りきっていた。

だからこそ、今和樹の口から聞かなければならない気がした。

和樹の唇が小さく震える。






「俺は和樹の瞳が好きや…声が好きや、…お前の全てが好きや」

「堺さん…」

「なぁ、お前は…?」

「俺…は、」





痞る言葉。

それは弱々しいものだった。

しかし、だからこそ…







「俺は…鷹、耶が…好き…」







だからこそ、その言葉は純粋で真っ直ぐ響くのだ。

堺は口元に笑みを浮かべると、和樹の頭をそっと撫でた。




「行けや…」

「ぇ…?」

「本社に。其処に鷹耶が居る筈やから…」




間に合うかは判らない。

でも堺は確かに思った。

和樹に間に合って欲しいと…




「俺は大丈夫…少しの間だけでもお前を独占出来たんやから。」

「堺さん…」

「寂しく無いって言うたら嘘になるけど…まぁ仕方ないやろ?」



堺は和樹の頭を撫でていた手を離すと、その頬を悪戯っ子のような笑顔を浮かべてつねった。



「だって…お前鷹耶の事、好きすぎやもん。」

「!!」




付け入る隙無いくらいや、と言った堺の表情は少し寂しげだった。




「頼むから行ってくれ…最後くらい格好つけさせてや。」




最後くらい笑って、後を引かない様に。

普通の先輩後輩に戻れる様に…


和樹は俯いたままだった顔を上げると、立ち上がった。




「俺は…良かったと思う…堺さんの気持ち知れて…」

「和樹…」

「自分の気持ちもわかったし…過去の事も…思い出せた。だから…」




頭を下げて、ありったけの感謝を込める。

今、鷹耶の元へ向かえる勇気が湧いたのは堺の存在があったからだったから…




「ありがとうございました!」



そして和樹は振り返る事なく、部屋を飛び出した。

そんな和樹の姿に、残された堺は思わず笑ってしまった。




「礼を言うのはこっちやのに…変なヤツやな、ほんまに。」




寂しさは確かにある。

でも、それ以上に和樹には笑っていて欲しかった。

未だ手に残る和樹の感触を消すように、堺は目を閉じた。



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