10:答
「堺さんの家?知らないっすよー」
「誰か知ってる奴おらんのか?」
「さぁ。相方の福井さんなら知ってんちゃいます?」
色んな後輩に聞いても手応えはない。
相方の福井に聞けば良いと言われるのだが。
正直鷹耶は福井が苦手だった。
風貌は鷹耶より年上の癖に幼い。
男なのにどちらかと言えば女性的な感じで。
天然なのかキャラ作りなのか、口を開けば不可思議な事ばかり。
何を考えているのか全く読めないのだ。
「福井さんに訊くのが嫌やからお前に訊いたんやんけ!」
「んな事言われても…知らんもんは知らないっすもん。」
そう言われてしまっては鷹耶も引き下がるしかない。
諦めて後輩達の楽屋を後にした。
「鷹耶…」
「やっぱり、福井さんに訊くしか無いみたいやな…」
「大丈夫?」
「大丈夫や。和樹見付けるって決めたもんな。」
鷹耶は心配げに見詰めるレイに笑みを返すと、そのまま歩き出した。
意を決して向かったのは、堺の相方である福井が居る楽屋。
深呼吸をして、立ち塞がるドアをノックしようとした時…
「何か用?」
「!っ、福井さ…」
「立ち話もなんやし、入ったら?その人?も。」
鷹耶とレイの背中を福井が押す。
中に入ると、目についたのは大きな熊の縫いぐるみ。
25歳の男の楽屋には似つかわしくないそれに暫し鷹耶は目を奪われた。
「可愛いやろ?ファンの子がくれてん」
「…はぁ」
「俺、可愛いもん好きやから。」
熊の縫いぐるみを抱き締め、福井が笑う。
どう反応して良いのか分からず、鷹耶は苦笑った。
「鷹耶さ、俺の事苦手やろ?」
「…っ」
「隠さんでええよ。鷹耶、俺を見るときめっちゃ嫌そうな顔してるし」
挑戦的にも見えるその表情。
鷹耶はぐっと腹に力を入れた。
「そーっすね…俺、福井さんは苦手や…」
「なんでかな?俺、鷹耶に何かした?」
「アンタは可愛い子ぶってるけど、何かが違う。腹に据えてるモンが読めへん…」
「へぇ…」
「アンタはその何食わない顔で、簡単に残酷な事が出来るような気がする…だから俺はアンタが苦手や」
鷹耶の述べた理由。
それに福井は満足げに笑った。
「堺より見る目あるやん。」
「…」
「鷹耶が俺のとこに来たんは、和樹の事やろ?」
「!何か知ってるんすか?」
「そりゃ、ね。相方の動向位は把握しとるよ。」
福井の手から縫いぐるみが落ちる。
支えを失った熊は床にだらしなく横たわった。
「堺は和樹を監禁してる…いや、軟禁かな?」
「場所は…」
「知ってる。でも簡単には教えられんなぁ…」
福井が一歩進む。
床に横たわる熊の腹に、その踵が沈んだ。
「福井…さ…」
「俺の言うことを一個聞いてくれたら…教えたるわ」
「言うこと…?」
「そやなぁ…、この会社のビルの5階から飛び降りてみてや。生きてたら、和樹の居場所教えたる。」
無茶苦茶な条件だ。
鷹耶は奥歯を噛みしめ、福井を睨み付けた。
何時もなら可愛らしい笑顔も、今の鷹耶には憎たらしくとしか映らない。
福井は鷹耶が出来ないだろう条件を吹っ掛けて、楽しんでいるに過ぎないのだから。
「俺ね、やっぱり相方の恋路を邪魔したくないねん。」
「和樹の気持ちはどうなんねん!」
「でもさ…和樹も堺を選んだやん」
「違う…!」
――大好きやねん…鷹耶の事…犬一匹に嫉妬するくらい…
蘇る言葉と記憶。
痛みだした頭を鷹耶は押さえた。
(頭…割れそう…でもその先が…答えの筈や…)
痛みを抑え、鷹耶は声を絞り出した。
「違う…」
「?」
「和樹が、好きなんは俺だけや…!後にも先にもそれは絶対変わらん!」
張り上げた声に福井が顔をしかめた。
不快感を顕にしたその表情も、今の鷹耶には気にならない。
ただ真っ直ぐその目を見据えた。
「えらい…自信満々やね…なんで鷹耶にそれがわかんの?」
「解るから…アイツの事なら何でも…」
「綺麗事言うなや…それが解ってないから今揉めてんやろ…?」
福井の言うことも最もだ。
しかし揺らいではいけない。
鷹耶は気を落ち着けるようにもう一度深呼吸した。
「わかった…」
「何が…?」
「此処でどんだけ問答してもアンタは和樹の居場所教えてくれるつもり無いんやろ…?」
その後ろ姿にレイはぞくり、とするものを感じた。
一瞬にして鷹耶の身体から全ての迷いが消え失せたのだ。
まるで凪いだ海のような空気は逆にレイを不安にさせる。
「やったるわ…アンタの望み通り…」
「…!」
「紙とペン貸して下さいよ、必要ないと思うけど一応準備はしといたる」
不敵に笑うと鷹耶は白い紙に乱暴な字で『い書』と書きなぐった。




