復讐のとき。そして……。 (Re)
村に戻るため、森の中に入った俺は、新しく得た気配探知のスキルを発動させる。
俺の感覚が鋭くなったように感じ、周りの気配が感じ取れるようになる。
「って、情報量多すぎだろ!」
感じる気配は、「大きい」「小さい」「強い」「弱い」といったように感じ、距離と相手のサイズによってかわってくる。
また、自分の知っている相手であれば、その気配で特定できる。コレは人だけでなく、動物や魔物にも当てはまり、例えば、狩ったことのあるラビットホーンであれば、他の個体も「ラビットホーンの気配」という感じで理解する。
後は、その気配の大きさで大体の距離が掴めるのだが……。
この森は、ここ最近よく通っていた場所なので、生息する動植物や魔物のテリトリーなどはバッチリ記憶済であり、安全なスペースも把握している。
何故そんなことが出来たのかって?
この森は、村にとって貴重な資源の宝庫なので、あまり深く分け入らない場所限定ではあるが、薬草や果実の採集や、ウサギやイノシシなどの動物を狩ったりするのだ。
そして、採集作業は狩りとは違い、危険も少ない単純作業なので、主に年端もいかない女子供の仕事になっている。
つまりだ、年頃の女の子を攫うには絶好の機会であり、他の目の届かない、襲うポイントを丹念にチェックするのは当たり前の話だろ?
そして、襲われていたことを隠すためのアリバイとして、女の子には帰りがけに採集したものを持たせることにしている。
その為に、普段から採集作業をしていれば、どこで何が採れるか、どれくらいの時間がかかるか、どのような動物が出てくるかなどは、自然と身につくというもんだ。
それらの知識により、この森は意外と資源が豊富で、動物や魔物も数多く生息していることがわかっていたのだが、その結果として、気配探知を発動させると、その数の多さが仇となって帰ってくることになった、と言うわけだ。
「っと、ここだ。」
俺は気配探知で得る情報が多すぎたので、真っすぐ村に行くのをやめて、方針を変更することにした。
そして目指した場所がここである。
目の前には、小屋と呼ぶのもおこがましいような小さな建物が、木々の陰に隠れるようにして建っている。
普段は人が入り込まず、入り組んだ場所にあることもあり、存在を知っている者以外は、まず気付かないだろう。
俺は、その小屋の周りに張り巡らされてる罠を慎重に回避しながら、小屋の前まで行きドアを開ける。
中に入り、粗末なベッドに腰掛けたところで、「ふぅ」と大きく息を吐き、緊張を解く。
ここは俺が作った秘密の隠れ家だ。
元からあった洞穴を利用しているので、入口のそれっぽい小屋のイメージより、意外と中は広い。
何故こんな隠れ家を作ったかというと、当然攫った女の子とエッチするためだ。
プレイ動画なんかでは、女の子の口を塞ぎ、拘束したり脅したりしながらその場でヤッちゃうのがあるけど、この森でそんな事をしていれば、他人の目に付きやすく、更には女の子のあげる声が魔物などを呼び寄せるかもしれない。
そのスリルがまたイイ!という性癖の方もおられるかも知れないが、俺はゴメンだ。
大体、効率よく能力を伸ばすためにも、女の子には、誰のせいでこんな目に遭っているのかを、心に深く刻む必要がある。
「こんな奴に、初めてを奪われた」「コイツに酷い目に遭わされている」「こいつのせいで私の人生無茶苦茶だ」などと、俺を憎ませながらじっくりとプレイすることで、目に見えて能力が上がる。
この辺りの結論を出すまでに、様々な試行錯誤を繰り返したもんだ。
例えば、「嫌だけど仕方がない」とある程度納得している女の子の場合。
村の中で、ちょっと軽い女の子にある勝負を仕掛けた。
「俺が負けたら、この高価なアクセサリーをあげたうえ、1日何でも言う事を聞く。その代わり、俺が勝ったらヤらせろ」という直球な条件に頷いた彼女。
当然俺が勝ち、その娘を抱いた。彼女は最初嫌がる素振りを見せたものの、真っ当な勝負に負けたのだからと、素直に応じた。まぁ、俺の悩んでいる特性のせいで、大抵の場合、罵声を浴びせられるか、満足するまで絡まれるか?ということになるのだけど。
それから、その娘と同等レベルの女の子を探し、問答無用で勝負を挑んで負かし、嫌がる彼女を強制的にプレイした。……まぁ、やっぱり辿り着く前に果てるてしまうので、玩具を使ったプレイしかできなかったのだけど。
その結果、最初の女の子の場合、その娘の能力の中で一番高かった項目が1上がっただけだが、嫌がる娘の場合は、全部の項目が1上がり、しかも一番高かった項目は3も上がった。
これで、ヘイトが高いほど上がりやすいという事は証明されたわけだが、それ以外にも「相手を認識してない場合は?」という事で、女の子を後ろからいきなり襲い、視界を奪ったうえで無理やりプレイ、そのまま放置して立ち去る、という事もしてみた。
結果、それなりに上がるものの、相手が俺だと認識している場合に比べて上がり率は低かったのも確かだ。
つまり……
嫌だけど納得≪無理やりプレイ(相手が分からない)<無理やりプレイ(俺と認識)
という公式が成り立つわけだな。
そして、一度で終らず、時間をかけてじっくりとプレイ……つまり手間暇と時間をかけるほど上昇率が高くなるという結論に達した時には、ここは立派なプレイ部屋に化していた。
終わった後の女の子を綺麗にするためのお風呂だって備え付けてあるんだぞ。
っと、なんだか前置きが長くなってしまったが、俺がここに来た目的は、落ち着いて気配探知を使うため、だ。
歩きながらでは情報を整理できないから、ここで腰を据えて気配を探り、その情報をもとに落ち着いて最善の計画を立てようというつもりだ。
なんて言ったって、当初は、気配から魔物の位置を割り出し、それをつって村まで引き入れようと考えていたのだから。
思った以上に気配が多すぎたので、ここでじっくりと探そうと思ったのだが、落ち着いて考えると、そんなことしたらマーニャやサーラにも危険が及ぶ。そもそも、村に連れていくまでの障害が大きすぎるという事に気づいた。
うん、落ち着くって大事な事だよね。
結局、気配の振り分けと情報の整理が終わる頃には、俺も大分冷静さを取り戻し、まずは気配を遮断して村に入った後、グレッグの奴が一人になったところでボコボコに殴ることに決める。もし、グレッグに付き合っている女がいれば、目の前でその女をプレイしてやるところまで込みで、だ。
その後はまぁ、村にはいられないだろうから、逃げ出すことになるけど、当面はここを拠点にすれば生きていくことはできる。そして、その後についても一応考えてはある。
そろそろ、村を出るべきだと思っていたからな。
取りあえず大きめの街に行って、この辺りの地理について調べながらレベル上げ(強制プレイ)をするつもりだ。
ゆくゆくはどこかの安全そうな村を乗っ取って、ハーレムを作って暮らす、それが俺の夢だ。
その為にも、落とし前だけはつけておかないとな。
俺は、気配探知で得た情報をもとに村を目指すのだった。
◇
「おかしい。」
村に近づいたところで俺は再び気配探知を発動する。
グレッグの居場所を特定するためだったが、何故か村に気配がない。
全くない訳じゃないのだが数が少なく弱弱しい。
思わず村に向かう速度が上がる。
村の入り口が見えてきたところで、俺はグレッグの気配を掴む。
俺は気配遮断の能力を発動すると、グレッグを探して村の中へ飛び込んだ。
「……。」
目の前に広がる光景は、一言で言えば「焼野原」だった。
あちこちの家から火が立ち上り、逃げ遅れたのか、家の前で倒れている人々。
目の前で、「うぅ」と小さな呻き声をあげ、パタッと力なく倒れる男。
衣服が剥ぎ取られ、無残な姿でいき倒れている少女。
顔の判別がつかないほど殴られ血塗れになっている老人。
胸に庇った子供毎、槍で貫かれ、息絶えている母親、など、見ているだけで胸糞の悪くなるような光景が広がっている。
そのまま周りを見回していると、端の方でガタガタ震えている数人の集団の姿が見えた。
中心にいるのはグレッグだ。周りの奴ら程醜態をさらしてはいないが、その顔は青ざめ、手足は小刻みに震えている。
「グレェッグゥぅぅー。」
俺はグレッグに向けて駆け出し、その顔を一発殴りつける。
「これはどうした、何があった、お前らがやったのかっ!」
グレッグを殴り倒した後、手近な奴の胸ぐらを掴んで矢継ぎ早に質問をぶつける。
「ち、違うっ、俺達じゃないっ。俺達が来た時にはすでに……。」
俺はそいつを殴り飛ばし、他の奴らを締め上げて、同じことを聞く。
その結果、わかったことは、この村は近くの盗賊の襲撃を受けたって事だった。
グレッグたちは、俺を襲撃した時、俺が谷底に落ちたことに気づかなかったらしい。
急に消えたと思ったという。
だから、丸一日かけて探したものの、見つけられなかったので帰る事にした。
だけど、村の近くまで来た時おかしい感じがしたので、取り巻きの一人が、先行して様子を見に行くと、盗賊に村が襲われている最中だったという。
その取り巻きは、すぐグレッグに伝えれば、そのまま無謀にも突っ込んでいくと思ったのか、それとも、単に怖くなっただけなのか、そのまま逃げだしたらしい。
らしいというのは、いつまでたっても戻ってこないことに焦れたグレッグが、皆で村に向かう事に決め、村に着くまで、そして今に至るまで姿を現さなかったからだ。
村に着いた時にグレッグたちが見た光景は、俺の見た光景と大差なかったという。
「くそっ!」
俺はグレッグたちを蹴り飛ばして宿屋に向かう。あそこには、マーニャとサーラがいる筈だった。
グレッグたちの話からすると、俺がグレッグたちに襲われてから既に三日が過ぎている。その間に村が襲われた……だとすると、マーニャは?サーラは?
「マーニャっ!サーラっ!」
壊れかけている扉を蹴飛ばし中に飛び込む。
カウンターの前には血塗れになって倒れている男女の姿。すでにこと切れているのは見てわかる。
倒れ方やその位置から見て、誰かを庇って斬られたように見える。
「マーニャはっ!サーラはっ!」
俺は近くの瓦礫を手あたり次第かき分け、二人の姿を探す。
「……。」
「っ!」
何か声が聞こえた気がしたのでそちらの方を探す。
「マーニャっ!」
俺は慌てて駆け寄り、彼女の上にかかっている瓦礫をのけて抱き起す。
「マーニャ、しっかりしろっ!」
「……れ、レオン……ちゃ……ん。」
「あぁ、俺だ、わかるか?」
マーニャの、俺に対する呼び方が小さい頃のものに代わっていることに気づかない。
「お、お姉……ちゃ……んが……私……を庇っ……て……。」
「もういい、しゃべるな。」
しかしマーニャは力なく首を横に振る。
「くっ、薬草すらないのかっ!」
崖から落ちた時に、俺のバックはどこかに行ってしまった。
亜空間収納のスキルを得たから、まぁいいかと思っていたが、当然のことながらしゅうぬには何も入っていない。
ポーション精製のスキルを使おうにも、まだそこまでの魔力が回復していないから生成することが出来ない。
こんな事なら、隠れ家に置いてある適当なバックに薬草でもなんでも詰めてくるんだった。
だけど、あの時はグレッグをボコボコにしてすぐ戻るつもりだったから、身軽な方がいいと思ったし、その判断に間違いはないと思う。間違っているとすれば亜空間収納の存在を忘れていた事だけ……とは言っても、まさか村がこのような事になっているとは誰にも想像も出来ないだろう。
それでも、と俺は思う。
薬草を持ってきていれば……、ポーションを全部使わず少しでも残しておけば……、と。
その間にも、マーニャはぽつぽつと語り続ける。
この村で起きたこと、あの時あったこと、小さい頃俺と遊んだ思い出、姉との思い出などなど……。
時系列もバラバラで、思いだしたことを、ただ口にしているだけ……口を閉じたら、もう一度目を閉じたら、それが最期だと分かっているかのようにしゃべり続けている。
「……もぅ、ホン……ト……最悪……っ……たよ。な……で……の……初め……レオンちゃん……。レ……イジワル……し。」
いつしか、マーニャの言葉は俺への恨みつらみに代わっていた。
当然だろう。
好きでもない男に好き放題に弄ばれ、更には姉を堕とす道具に使われ、挙句の果てには盗賊に襲われ命を落とす……その最期を看取るのが、顔も見たくないほど嫌っている俺なのだから。
マーニャは俺に向かって両手を伸ばす。まるで最後の力を振り絞るかのように……。
……俺の首を絞めたいのか?
まぁ、それがマーニャの望みなら……。一緒に逝きたいというなら……。
俺はその腕を取って、俺の首にあててやる。
しかし、マーニャの手は、俺の首を絞めずそのまま首の後ろに回される。
「レオ……ン……ちゃ……ん……好き……だった……よ……だから……最期……ぐら……い……優し……く……して……よ……。」
マーニャはそういうと少し顎を上げ、唇を突き出し目を瞑る。
俺は、望まれるまま、優しくマーニャに口づけをする。
マーニャの瞳の端から一粒の涙が零れ落ちる。
マーニャの優しく、暖かな唇は、弾力はそのままに、段々と温かさを失っていく……。
どれくらいそうしていただろうか?マーニャの身体から熱が失われて、ようやく俺はマーニャから離れる。
マーニャを抱きかかえ、近くで倒れているおじさんとおばさんのところまで移動し、間へ横たえる。
それから、水の魔法を使って、三人の身体に着いた血を流し綺麗にした後、互いの手を繋ぐようにする。
「親子一緒の方がいいもんな。」
俺は近くの瓦礫を退け、周りを綺麗にすると、調理場に合った油を全部ぶちまける。
それから……と火を熾す道具を探すが見当たらない。
この世界の殆どの人は生活魔法で火を熾せるから、ライターみたいな火をつける便利な道具は必要ないのだ。
そこで自分が火属性の魔法を得た事を思い出す。普段使わないから得ていることを忘れるのだ。
俺は苦笑しながら亡骸に向かって小さなファイアーボールを放つ。
仲良く寝ている三人。三人一緒で喜んでいる様にも見える……。いや、喜んでいるように見えたかった。
俺は一言「ゴメンな」と呟く。
炎はは周りに撒いた油に引火し、ゴォッと激しく燃え盛って三人の遺体をあっという間に飲み込んだ。
俺はもう一度、「ゴメン」と呟くと、火が渦巻く宿屋を後にする。
外に出れば、生き延びた村人たちが怪我人の手当てをしたり、遺体を中央広場に運んだりしている。
その中にはグレッグとその取り巻きの姿もあった。
この世界では、殺された遺体を放置しておくとアンデットとなって甦ると言われている。
だから、遺体はアンデットになる前に荼毘に臥す必要がある。
マーニャたちも、本来であればあの山に一緒くたに纏められていたはずだ。
俺は広場に積み上げられた遺体を見てそう思う。
俺のやったことはただの自己満足にすぎない。
それでも、まとめて物のように処理されるよりはマシだった……と思いたい。
俺はグチャグチャな思考を抱えたまま、逃げるようにして村を飛び出すのだった。
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