城壁の攻防 後編
「敵襲だぁ〜!」
「裏切り者がいるぞ〜!」
「隊長が裏切ったんだ。逃げてもう居ないっ!」
「姫様は?姫様は無事かっ!」
「姫様が逃げ出した!俺達は見捨てられたんだぁ!」
「親衛隊の連中がいねぇ!アイツラが俺達を売ったんだよっ!」
陣のあちこちから火の手が上がり、右往左往する兵士たちの中で様々な声が飛び交う。
暗闇のなか、火の手が上がっているとはいえ、眼の前にいるのが誰かなど、すぐに判断できるものではない。
ただ斬り掛かってきたから、死にたくないから応戦するだけ。
突然の夜襲に火攻め、という中でパニックを起こした兵たちには、誰が何を言っているかなど解らなかった。
確実にわかるのは、このままでは死ぬ、ということだけだ。
そんな中、怒声が飛び交う中、妙に鮮明に聞こえた声、「後ろにある丘まで引くんだ!」という声が聞こえてきたら、それに従ってしまうのは仕方が無い事だろう。
勝っている敵が、退却の指示を出すなんて有り得ないだろうから………。
◇
キィンッ!
金属と金属がぶつかり合う音がする。
しかし対峙する二人の手には、金属の得物の姿は見えない。
「中々やりますわね。」
「お互い様でしょ?」
二人は睨み合ったあと、一呼吸する間もなく同時に動き出す。
レイナ姫の側近であるカリスの手には、どこから出したのか鎖分銅が、レオンのメイド隊序列一位のアンナの手には、同じく鎖の付いた小型の鎌が握られている。
ガキッ!
お互いの鎖が絡み合い、一定の距離を保って睨み合う。
次に動いた時が決着の瞬間だ、二人は本能でそう感じ取るのだった。
◇
「やりますね。」
「こっちのセリフ。それに私は肉体労働に向いてない。」
「向いていないって言いながら、私のナイフを全部防ぐなんて、バカにしてますか?」
「簡単な事。あなたの視線、手の動き、ナイフの形状などから軌道は読める、」
「ホント最悪ですよ。これは割増料金を戴かないとやってられないですっ!」
ティーナはそういうと、ナイフを投げつけるが、軽く躱される。
「何度やっても無駄。」
マイは感情を乗せずにそう言う。
マイとしてはこんなところで時間を取られる暇はないのだが、それを表に出せば隙を突かれると思い、それが無表情となって行動に出ている。
「無駄じゃないですよっ、と。」
ティーナは最後の仕上げとばかりに、魔力を込めたナイフを投げつける。
しかしこれもマイは易々と躱してしまう。
だが、躱されるのもティーナの計算の内だった。
「あなたは、こういう搦め手に慣れていないようですね……ハッっ!!」
先程から避けられ続けていたナイフは、マイを中心にして、すべて地面に突き刺さっている。そして最後のナイフが突き刺さったことで、ひそかに仕掛けておいた魔法陣が完成した。
だから、ティーナは、最後のナイフの魔力を起点にして魔法陣を発動させる。
「えっ、あっ、きゃっぁぁぁぁっ!」
魔力によってその身体の動きを抑制されるマイ。
更に、その魔力が体内を駆け巡りある作用をもたらす。
「我慢しない方がいいですよ?」
ティーナは、少し同情した目つきで、身動きが取れないマイの胸に触れる。
「ひゃんっ!」
「無理しない方がいいわよ。ご主人様の話だと、これ、身体の自由を奪ったうえで、体内の魔力を弄って強制的に発情させる魔法陣らしいから。……ホント鬼畜よねぇ。」
「そ、そんな……。」
「とりあえず楽にしてあげる……ね」
ティーナはそう言ってマイの身体を弄る。
魔法陣に込められていた催淫効果のせいで、昂ぶっていたマイはあっという間に果ててしまい、ガクリと崩れ落ちる。そんなマイをティーナは同情の目で見ながら拘束する。
マイにはそれに抗う術も気力もなかった。
◇
「……ということで、お姫様を御招待いたしましょうか。」
レイナ姫の前に姿を現した俺は、そう勧告をする。
「私が、素直に従うとでも?」
レイナは、スチャっと剣を抜き、正眼に構える。
「従わなくてもいいんだけどね、その場合は彼女達がどうなるか責任は持てないよ?」
俺はそう言って合図を送ると、影から女の子を抱えたティーナとアンナが姿を表す。
「カリスっ!マイっ!………彼女達になにしたのっ!」
「まだ、何もしてないよ。少し眠っていてもらってるだけさ。………なにかするとすればこれからだね。」
俺はティーナが抱えている、マイと呼ばれた少女の衣服を切り裂くと、そのささやかな膨らみが姿を表す。
「くっ……彼女たちに酷いことをしないで。」
悔しそうに表情を歪めながらレイナが言う。
「おいおい、オーキスの姫様の頼み方っていうのは、相手に剣を突きつけて言うのが普通なのかな?」
俺は、レイナ姫にそう声をかけながら、マイと呼ばれた少女の身体を弄る。
「ンッ……。」
意識はなくても、身体は感じているようで、マイの身体がビクッと震える。
その様子を見て、レイナは悔しそうに顔を歪め、その場で剣から手を離し跪く。
「お願いします。彼女達に手を出さないで。」
「………じゃぁ、御招待に応じてくれるかな?」
「…………わかりました。」
俺の問いかけにレイナはコクンと頷く。
「じゃぁ、取り敢えず脱いでもらおうか。」
「なんでそんな事っ!」
「当たり前だろ?他にも武器やアイテムを隠し持ってるかもしれないじゃないか?」
俺の言にレイナは、うっ、と言葉に詰まる。
捕虜の身体検査は当たり前のように行われることだ。
レイナは諦めたように服を1枚づつ脱いでいく。
「下着もだぞ。」
俺がそう言うと、レイナは悔しそうに唇を噛み締め、黙って下着に手をかける。
「こ、これでいいでしょ。」
一糸まとわぬ姿になったレイナが声を震わせながら言う。
俺はその様子をたっぷりと視姦した後、レイナ姫を縛り、担ぎ上げる。
「お楽しみは、城に戻ってからな。」
俺は懐から小さな魔石を取り出すと魔力を流す。
アンナとティーナも同じ様に、魔石に魔力を流す。
一瞬後、俺達は城の地下に作られた特別室へと移動していた。
「あとはいつものようにな。」
俺はアンナ達にそう指示すると、レイナを抱えて別室へと移動するのだった。
◇
…………んっ………ぁ………。
体の奥底に感じる、変な感覚によって、意識が急速に覚醒する。
「アッ………んっ………、な、なにこれ…………。」
意識が覚醒すると、急速に感覚が蘇る。
ジリジリと、焦らすような、それでいて確実に捉えて離さない快楽の波が、マイの体内を巡る。
マイは体を捩って、その感覚から逃れようとするが、首は少し動くものの手足は動かない。
自分の体をよく見ると、あられもない恰好で拘束されていた。
何とか動く範囲で首を回し、周りを見てみると、同じような格好で拘束された、見覚えのある女の子たちが見える。
………やっぱり、みんな捕まっていたんだ。
その事実に、裏切りじゃないことがわかってホッとしている自分がいた。
しかし、マイがまともに思考を巡らせることが出来たのはそこまでだった。
魔道具が与える刺激が強くなり、マイは迫りくる快感に抗うだけで精一杯になるのだった。
◇
「酷い……。みんなを開放してっ!」
親衛隊の女の子達の様子を見たレイナが悲痛な叫び声を上げる。
「なぜ?」
「何故って……。」
俺の問いかけに、レイナは押し黙る。
「いいか?攻め込んできたのはお前等だ。敗けたらどうなるか、わからないとは言わせない。いいか、あの子達がああ言う目にあっているのは、すべてお前のせいなんだよっ!」
俺は、レイナを女の子達の前に引きずり出す。
「……ンッ………アッ……ひ、姫……さ……ま……ァン………。」
「ご無事……ァン……ダメ……。」
「姫、姫様……。ぁっ……アァァ……………。」
「さて、お前らの大好きなお姫様だぞ。」
俺はそう言いながら、レイナの体を弄りだす。
胸を軽く弄っただけで、色っぽい声を上げるレイナ。
「おや、姫様は淫乱ですなぁ。」
「ち、違っ………。」
「何が違うんだ?」
俺は言葉と手を使ってレイナを羞恥に追い込んでいく。
レイナを思う存分嬲った後は、親衛隊の女の子をレイナの前で順番に辱めていく。
自分の判断がいかに甘く、その結果がどうなるのかを、存分に叩き込んでやる。
………その部屋では、一晩中、少女達の悲鳴と矯声が響き渡り、翌朝にはレイナの心はすっかり折れているのだった。
◇ ◇ ◇
そして、現在……。
「はぁー………。」
俺はソファーに身体を沈め、大きなため息をつく。
レイナ姫と親衛隊を捕えて、彼女達を辱め、心を折ってから3日。
毎日のように、敵から見えるように城壁の上で、レイナ姫を辱めているというのに……。
本来であれば、姫のあられない姿、酷い仕打ちを見て、心が折れて逃げ出すと踏んでいたのだが……敵の兵士は誰一人逃げようとせず、また攻める姿勢も見せないので、ある意味膠着状態が続いていた。
「お疲れ様ですね……いい気味ですよ。」
ティーナが、お茶を俺の前に置くと、そのまま横に座り、俺に寄り添って、頬をスリスリしてくる。
「どうした、甘えたか?」
「ムッカァ〜!御主人様が『俺がつかれている時は寄り添って甘えてきて癒やせ!』って契約内容を増やしたんじゃないですかっ!だからイヤイヤやってるのにっ!」
「……そこで、嫌々なんて言ったら、すべて台無しだろうに。それに契約内容が増えたのは自業自得だろ?」
ティーナが夜遅くまで任務があることを理由に、朝のご奉仕を断ってきたから、代わりに追加した契約だ。
勿論、無理やりではなく、ちゃんとした賭けをした結果だ。
しかも、俺としては、別に朝のご奉仕などどうでも良かったから、賭けの内容も、ティーナ自身に決めさせてやったのだ。
なのにアッサリと賭けに負けるあたり、不憫な娘かも知れない。
俺は、ぶん剥れているティーナを抱きしめ、その身体の柔らかさを堪能する。
普段であれば、このまま押し倒すのだが、流石に先程まで城壁の上で、レイナを散々辱めた後なので、そういう気になれない。いわゆる賢者タイムというやつだ。
「うぅ、なんか御主人様が優しくてキモい。」
「キモいって………。」
「じゃぁ、キショいです。あと、その仮面もダサいです。」
俺は、ショックを受けた演技をしてみるがティーナは完全にスルーする。それどころか、仮面にまでダメ出しをされた。
俺は、仮面を放り投げて、もう一度大きなため息をつく。
「大体、レイナ姫を辱めて兵士たちの心が折れるって本当に思ってたんですか?」
ティーナは、俺が悩んでいたことなどお見通しというように、ズバリと切り込んでくる。
「いや、まぁ………。曲がりなりにも慕っていた姫様があんな目に合えばショックが大きくないか?」
「慕っていれば………ですよ。あのケダモノ達を調べてきましたけどね、レイナ姫様が辱められているのを見るのを楽しみにしてますよ。」
「マジか?」
「大マジです。御主人様がやってることは逆効果ですね。……もっとも、先の時に糧食の大半を焼いたから、そろそろ糧食が尽きる頃ですので、この後どう出てくるかはわかりませんけどね。」
「………そうか。ところで、今指揮を取っているのが誰かわかるか?」
俺は少し考えた後、ティーナに質問をぶつける。
「大隊長ですね。ほら、今日も大声で叫んでたヤツですよ。」
「どんなヤツだ?」
「ゲスです。正直、アレと比べたら、御主人様が善人に見えるぐらいに。」
「そうか、俺もまだまだってことか。」
「えぇ、まだまだですね。」
ティーナはそう言って、大隊長のゲスっぷりを話す。
レイナに黙って、近隣の難民の集落を襲い、略奪の限りを尽くした事。
糧食が少なくなってからは、格下の兵士の食事を制限し、その分自分が蓄えていること。
そのせいで脱走する兵士が増えたが、それらを捕らえては、身包み剥いだうえ、拷問にかけたりと慰み者にしている。
他の兵士たちは、それを見てイヤイヤ従っている事などなど……。
「つまり、そいつのせいで、俺の計画が失敗したというわけか?」
「ゲスのせいだけじゃないと思いますが……一つの要因ではありますね。」
「そのゲスのせいで俺の計画が狂ったんだな。だったら話ははやい。」
ティーナの言葉の前半は完全に無視する。
「そもそも、計画自体が………って、あくまで認めないんですね。はぁ……昔の偉い人も言ってましたね。『認めたくないものだな、おのれの若さ故の過ちと言うものを』と。」
………何故そのネタを知っている!
「まぁ、いい。ティーナ行くぞ。」
俺は放りだした仮面を拾い上げ装着すると、いつもの戦闘装備に着替える。
黒を基調にした、革の軽鎧の上から、黒いローブを羽織る。そして、やはり黒いマントを装着すると、完全武装の出来上がりだ。
「どこへ………って聞くまでもないですね。それより、そのローブかマント、私にも頂けませんかねぇ。」
羨ましそうにマントの裾を引っ張るティーナ。
このローブとマントには隠形を強化する効果が付与されている。
俺の隠形レベルで、このローブとマントを使えば、すぐ隣にまで近づいても気づかれることはまずない。
諜報のためにアッチコッチに行かされるティーナにしてみれば、ぜひとも欲しい垂涎の品だろう。
「今回の件が片付いたら、両方ともやるよ。」
「マジっ…………って私死ぬの?」
「なんでそうなる?」
「だって、だって、御主人様が優しいのおかしいよ。私が死ぬ前に少しぐらいは……ってことじゃ?」
……いや、そこまで酷くないだろ?
「……ヤッパなしだな。」
「あ~、ウソです、ゴメンナサイ、御主人様大好きっ!」
「嘘つけっ!」
調子のいいティーナをあしらいながら、俺達は城を出て、敵の陣へ潜り込むのだった。
◇
「レオン君、敵の兵士が降伏を申し出てきてるわよ。」
翌朝、メルナのそんな言葉で俺は叩き起こされる。
「ふわぁ……朝なのです?」
隣で寝ていたアリスが、寝ぼけ眼で起き上がろうとする。
「あ~、いいから寝てろ。」
アリスの頭を優しく撫でて、そのまま寝かしつける。
「ん〜、もう少し寝るのですぅ………。」
アリスが寝息を立て始めるのを確認して、俺はベッドからそっと抜け出す。
昨夜は戻ってくるのが遅かったから、アリスの所に来るのもかなり遅くなった。
しかも、スヤスヤ眠っているアリスを見てムラムラしたから、そのまま襲いかかって、何ラウンドもしてたから、まだ2〜3時間しか寝てないんだよなぁ。
本当は、俺もアリスと一緒に惰眠を貪りたいところなのだが、今回の件は俺がカタをつけるといった手前、サボる訳にも行かない。
さっと身仕度を整え、最後に仮面をつけると、執務室に向かうのだった。
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「レオン君、遅いわよ。」
メルナがそう言いながら報告書を手渡してくれる。
それによれば、降伏してきたのは80人程で、現在裏庭で拘束してあるという。
「思ったより多いな………。」
「冗談でしょ?300人からなる陣営だったのよ。残りの2/3がどうなってるか気になってしょうがないわよ。」
「逃げ出したんだろ?というか、ほとんどが逃げ出すと踏んでたんだがなぁ……。まぁ当事者に聞くのが早いか?ティーナが動向を探っているから、裏付けは明日にでも取れるしな。」
「………レオン君、あなた何やったの?」
メルナがジト目でみてくる。
「ヤダなぁ、メルナさん。そんな目で見るなよ、ゾクゾクするじゃないか。」
「変態……。」
「………最近、否定出来なくなって来てるのが辛いな。」
「……否定しなさいよ。それで、何やったの?」
「大したことじゃないよ。どうやら姫様の後を継いで指揮しているやつが、姫さんのあられもない姿を見たいがために、他の兵士に無理を強いているって聞いたから、ちょっと乗り込んでいってお仕置きをしてきただけだよ。」
「お仕置きねぇ……。どうせろくでもないことだろうけど、具体的には?」
「それ聞いちゃう?」
「一応ね。………聞いておけば今後色々と対処出来そうだし。」
メルナの言葉に、側にいたセシルも頷く。
どうやら、仕事しながらも、俺たちの会話をしっかりと聞いていたらしい。
「本当に大したことはしてないんだって。ただ、裸に剥いて鞭打って半殺し状態で逆さ吊りにして、『ショーは終わりだ。お前らに残された選択は3つ。さっさと逃げ帰るか、降伏して捕虜になるか………そして、戦って無惨に討ち死にするか。結論が遅くなるほど、犠牲者も多くなるだろう。』って文章を書いてきただけだよ。」
「…………はぁ。そんな事されたなら、誰だって逃げるか降伏するわ。普通、そんな事できないはずだけど、レオン君なら今更よね。」
「うん、朝起きたら、指揮官がそんな目にあってたんでしょ?………同情するわね。」
二人が互いに分かりあった表情で頷いているが、結構大変なんだからな。
元々は、安全に相手の元に辿り着き、安全に逃げ出すため手段として獲たスキルだ。これを今のレベルまで上げるのはかなり苦労したんだぞ。
…………まぁ、いいか。ヒーローは孤独なのさ。
「じゃぁ、そろそろ行きましょうか。」
そんな黄昏れている俺を無視して、セシルとメルナが執務室をでていく。
俺はズレた仮面を直しながら、慌てて二人の跡を追いかけるのだった。
◇
「面をあげなさい。」
謁見の間にセシルの声が響く。
ウン、なかなか決まっているね。
セシルの両脇には、ケミスとマイケルが控えていて、少し離れた場所で、メルナと俺が様子を伺っている。
「この度はお目通りかないまして感謝の極み、きょ、恐悦しゅごくにて……。」
男は緊張しているのか、うまく舌が回らないようだった。
「くすっ。無理にとりつくろわなくてももいいですわ。私などは、代表を務めてはいますが、所詮はあの方の使いっ走り。ただの雑用係に過ぎませんのよ?」
セシルはそう言いながら、ちらりと俺を一瞥するので、俺はそっぽを向いて知らん顔をする。
「そ、それでは、普段通りに、話させていただきます。」
男は冷や汗をかきながらそれだけをようやく応える。
「それで?あなた方は降伏し、我が方の捕虜となることでいいのですか?いつも喚いていたお方の姿は見えませんが、逃げ出されたのでしょうか?あなた方も逃げればよろしかったのに。」
セシルがそう言うと、男はぽつりぽつりと話し出す。
自分は中隊を預かる身で、大隊長の下についていた事。
元より自分を始めとして多くの者達は、姫様が捕われた時点で、撤退を申し入れていた事。
……まぁ、普通に考えれば、中隊長のこの男の判断が正しい。元々姫様の我儘との思える独断で行われた侵攻であり、その張本人が捕まったとなれば、その時点で負け戦が決定だ。
しかも、糧食の大半が焼かれ、このままでは数日しか持たない。であれば、今の内に撤退をし、姫様を取り返す交渉へと舞台を移すべきだ。
しかし、大隊長は撤退を拒否し、それでも言い募る部下を切り捨てた。
足りない糧食については付近の集落を襲って略奪……といっても集落などなく、クレイドルから逃げ出した者達が集まっている難民キャンプみたいなモノしかなく、糧食を得ることは叶わなかった。
仕方がなく、1日1食に減らし、その場に居残り続けていたのだが、今朝起きたら、大隊長が酷いことになっていて、中隊長が知らせを聞いて駆けつけた時には、すでに虫の息だったという。
元より、好き勝手に振舞う大隊長が嫌われていた事に加え、糧食の独り占めや、憂さ晴らしに下級兵を嬲っていたこともあり、最初に発見した下級兵たちによって、袋叩きにあったらしい。まぁ、自業自得と言えばそれまでなのだが……。
「大隊長を殺めた下級兵たちは、そのままあるだけの糧食をもって逃亡。残った我々だけが、こうして降伏したという訳です。」
「……なんで逃げなかったの?あなた達も逃げればよかったじゃない。」
「そうですね、色々理由はあります。まず、私達が逃げ帰ったとしても、国に還れば軍法会議にかけられて処刑されることは間違いないでしょう。」
レイナ姫が捕われた時点で、逃げ帰っていれば、大隊長が責任を取らされるだけでよかった。
しかし、すぐに帰参しなかったために起きた被害の大きさ及び、大隊長のしでかした様々な悪行などがすべて生き残った者達へ責任として覆いかぶさってくるという。
「ここで降伏し、姫様の助命を乞えば、少なくとも『姫様を見捨てなかった』という大義名分は立ちますからね。後、親衛隊の方々の安否も気になっています。国の体面もありますから、姫様は何とか助け出されるかもしれませんが、親衛隊の方まで慈悲を差し伸べてくれるとは限りませんので。」
自分たちも捕虜となれば、クレイドルとしても、食い扶持が増えるだけなので、早々に捕虜交換を申し出るに違いない。そうなれば、格の劣る自分たちよりも、親衛隊の面々を優先するしかないはずだ、と自嘲するように言う中隊長。中々、したたかな考え方の持ち主だ。
セシルも同じことを思ったのか、ちらりと俺の方を見てくるので、軽く頷く。
「そうね。あなたには残念なお話だけど、親衛隊の方々は、あのお方によって捕われているの。捕虜交換の話しなんか出ないわ。後、オーキスは、姫の勝手な暴走という事にしてレイナ姫を切り捨てる可能性が高いわよ。そうなるとあなたの言ったとおり、捕虜は邪魔になるから、処分するしかないわね。」
セシルがそう言うと、中隊長はがっくりと項垂れる。
色々考えてたようだが、詰めが甘かったな。だけど、そういう奴は嫌いじゃないぞ。
俺はセシルに視線を送ると、セシルは、心得ている、とばかりに、軽くウィンクを送ってくる。
「えっと、中隊長さん、お名前は?」
「カインだ。」
「カインさん、物は相談なんだけど、アナタ私達の国に仕える気はない?忠誠を誓って働いてくれるなら、それなりにいい待遇を約束するわ。」
セシルの言葉に、茫然とするカイン。まさか任官を持ちかけられるとは思ってもみなかったのだろう。
「それに、先程の話しから予想すると、アナタ、親衛隊の娘の中に気になってる子がいるんでしょ?」
隠しても無駄よ、と言わんばかりに微笑むセシル。
「あなたが国に仕え、それなりの勲功をあげれば、親衛隊の娘を下賜することも可能よ。実際、ウチの近衛隊長のジョンは今回の件が落ち着いたら、あのお方が囲っている女性を下賜されることが決まっているわ。少なくとも、それなりの期間は奴隷にせずに囲うだけにしてもらえるように、あのお方に助言させてもらう事は約束できるわよ?」
「……もし断ったら……どうなる?」
「別に何も変わらないわよ。あのお方は、女の子以外には自由意思を尊重するから、イヤイヤ任官してもらっても困るしね。あなた方は捕虜として拘束の後、使い道が決まらなければ奴隷として売却される。女の子達は、あのお方が飽きたら、部下の誰かに下げ渡されるか奴隷として売られる。これはすでに決まっている事実よ?」
「……少し考えさせてくれないか?皆とも相談したい。」
「……捕虜同士を一か所にまとめるのはよくないんだけどね……。特別に相談する許可を与えるわ。」
「セシル代表。それは……。」
セシルの言葉に、黙っていられなくなったのか、ケミスが口を挟もうとする。
「いいのよ。あのお方の許可は私が取ります。それに、無理やり、強制的に仕えさせても、却って不和の種を残すだけ。ここはじっくり話し合ったうえで、納得してもらって仕えて貰わないと……。裏切りを恐れながら兵士を使うなんて無理でしょ?」
「……確かにその通りですが……。」
セシルの言葉に、納得がいかないながらも引き下がるケミス。
「期限は三日。三日後に答えを聞くわ。それまでゆっくりと考えて頂戴。」
セシルはそう言って、カインを謁見の間から出るように言い渡す。
俺は、下級兵の振りをして、カインを立たせると、そのまま捕虜がたむろしている場所へと連行していった。
◇
「……という訳なんだが。」
カインは皆のもとに戻ると、先程セシルとの間でなされた会話を包み隠さず話す。
「任官かぁ。国のかぁちゃんさえ侮ならなぁ。」
「俺は独りだしな。その話乗ってもいいぜ。」
「待てよ、条件も聞かずに決めてもいいのか?」
「いや、オーキスでの条件より酷いことなんて考えつかないだろ?」
「そんなに酷いのか?」
俺は思わず口を挟む。
「まぁなぁ。兵役は国のお役目だって無理やり兵士にされたからな。ここまで出世しても、養うやつがいたら食っていけないっておかしいよな。」
「それは酷いな。だったらこの国に仕えるべきだろ?」
「それもアリだと思う………ってお前誰だよっ!」
捕虜の兵士達に混じって会話をしていたら、そんなふうに聞かれる。別に気にすること無いだろ?
「いや、誰って……メシを持ってきたんだけど、食うだろ?」
俺は、大きな寸胴鍋をみせる。
香辛料たっぷりの煮込みシチューだ。
蓋を開けたときの暴力的なまでの香辛料の香りが、空腹を刺激する。
「………旨いよなぁ。捕虜に対してこんなメシくれるなんて……。」
「おいおい、これって余りもののクズ野菜のスープだぞ?コレぐらいで泣くなんて……、一体どんなモン食ってたんだよ。」
「虫とか?」
「明らかに毒があるとわかってるキノコとか?」
「そこらの雑草だな。調理方法によっては意外とイケるぜ?」
「お前ら………。ヨシ、沢山食えっ!今肉を用意してやるっ!」
俺は思わず貰い泣きをしそうになり、誤魔化す為に、鍋の中に肉を入れて加熱し始める。
「おい、いいのか?勝手なことしてお前さんが怒られるんじゃないか?」
ゴクリと喉を流しながらも、俺を心配する兵士。
コイツラ、意外といい奴らじゃねぇか。
「大丈夫だ。これくらいの裁量は貰っている。だいたい、この国の偉い人には、こんなことくらいじゃ怒りはしないよ。」
「そうなのか?」
「そうだよ。ちゃんと働けば正当に評価してくれるのさ。……さぁ、肉も煮えたぞ。食えっ!」
「「「オー!」」」
肉入りのシチューに、男たちが群がる。
かなりの量を用意していたのだが、あっという間になくなってしまった。
明日はもう少し用意しようと思いながら、捕虜の兵士たちに混じって情報収集を続けるのだった。
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。




