セシル共和国 その2 (Re)
「どういうことですかな?」
ケミスが詰め寄ってくる。
「今のはなんの意味もない茶番だったとでも?」
その声に怒気が孕んでいるのは仕方がないことだろう。
彼は、人が人を支配するのではなく、法の下に皆平等という共和国の理想を、本気で信じ実行しようとしていた人物だからだ。
それ故に、セシルは彼を信頼していた。だからこそ、嘘偽りなく本当の事を答える。
「茶番、ではありませんわ。これで過半数で可決できれば、この後は平和裏に事が進むと言うのは本当のことです。」
共和国の理念に従い、評議会の決議により、独立がなされる。これがセシルにとっては理想の結末だった。
あの時、レオンさんはこういった。
「一人の人間にすべてを委ねるのではなく、自分たちで考えて政治を行う。その共和制の理念は立派だよ。だけどなぁ、現実はどうだ?議員達は自らの権利によって得ることが出来る利益のみを考え、それを守ることに知恵を使う。そこに国民のことなんか考えていない。国民は、選挙という制度を理解はしても、そも本質まで……自らが選んだ人物と一蓮托生だということまで理解していない。結果、評議員が腐敗し、まともな政治が行われない、それを国民は評議員が悪いといい、評議員は、自分を選んだのは国民だという。これは単なる責任の押し付け合いだと俺は思うんだけどな。」
レオンさんは、皮肉めいた笑みを浮かべながら更に続ける。
「評議員同士だってそうだよな。なにか都合が悪くなったら、言い出した奴が悪い、自分は反対した等と言う輩の多いこと。
そうやって、責任を押し付け合うから、重要な案件ほど中々決まらない。だって責任を取るやつがいないからな。」
少なくとも、責任を一手に引き受けているだけ専制君主のほうがマシ………実情は別にしてな、とレオンさんは言った。
もちろん、セシルは自分が思いつく限りの反論をしてみた。だけどそれはすべて理想論であり、現実の腐敗した政治の前では紙屑に等しかった。現に自分の信じる理想は現実に敗れ、こうして国家反逆罪という汚名を被せられているのだから、何の説得力もなかった。
だからレオンさんと賭けをした。独立云々を法案として、そしてレオンさんに恭順することを皆が示せば、今後も立憲君主制で政治を行う。だけど、それが出来なかった場合、立憲政治の形態は残すものの、君主は法の下にあらず、法の上に存在する……いわゆる君主立憲政治?とも言うべき政治形態にする、と。
君主……レオンさんは、法に縛られず、過半数の議決権と議会解散権を持つ。……つまり何があっても最終的には、君主の意見が通る。だけど責任は評議会が負うという、最低な政治形態だ。
簡単に言えば、レオンさんはわがままし放題で、その責任は国民が負う。評議会の役目の殆どは、国民への被害をいかに少なくするか?ということに終始追われることになるだろう。
だから、今回、最初で最後のチャンスに期待をしていた、ということを、セシルは、その場に残った賛同してくれた者たちに包み隠さず話す。
もっとも、それらの会話や賭けの内容が、セシルがレオンに抱かれながらなされていった事には触れないでおく。
「そんなデタラメな………。」
ケミスが呆然と呟く。
だけど、ケミスを含め、みんな知っていたはずだ。そんなデタラメが許されるのが、専制君主だと。だから共和制に夢を見ていたのだと。
「この先………正しき共和制の道は閉ざされるのか?」
マイケルがボソッと呟くが、それに応えるものは誰もおらず、ただセシルだけが、そんな事はない、と軽く首をふるだけだった。
実は、コーザが賛同しなかった理由が「共和制の理念を守るため、専制君主には屈しない」という、まるでケミスが言い出しそうな理由であれば、まだ交渉の余地はあった。
だけど、コーザをはじめ、反対派の拒否理由は、自らの利益を手放したくないからというものだったので、これに関しては全く言い訳ができない。
ただ、最後の最後に、マルクスが人質に取られている家族を犠牲にしてでも、と賛同してくれたことによって、ギリギリではあるが、細い一本の糸が残ったとセシルは見ている。
賛同しなかった議員のうち半分は、マルクスのように人質を取られていたからであって、それさえなければ………という路線で説得は可能では無いのだろうか?
アリスの言を信じれば、レオンさんは根はとても優しく繊細な人………それは、セシルもたまに感じることがあり、そこに賭けてみるだけの余地があるのでは?という藁にも縋る思いで交渉してみるつもりだった。
「それらのことは落ち着いてから考えましょう。私もこの国を任された代表として、できる限り国民の益になる様に努力いたしますから、みなさんも力を貸してください。私は完全共和制への道を諦めてはいません。今は建国の混乱期……どうしても圧倒的な力が必要になります。ですが、形だけでも協和制度は残ったのです。これから時間をかけて共和制度を取り戻していきましょう。」
セシルがそう告げると、その場に残された議員たちは、複雑な表情をしたまま、パチパチと拍手で賛同の意を示す。
それを受けて、セシルは皆に席につくように促す。
この先どうなるかは、様子を見る必要があるが、それに先駆けて決めておくべき重要な案件があるのだ。
「重要な案件?」
セシルがそう呟くと、席についた議員たちが、一様に首を傾げる。
「ええ、とても重要なことです。」
「それは何なんだろうか?」
「この国の新たなる名前です。命名権をあの方より授かっています。」
セシルの言葉に、議員達は一瞬呆ける。
何を言っているんだ?という視線がセシルを突き刺す。
しかし、セシルはそのようなことに一切関知しない。ここが正念場だと心得ている。
「皆、お願いですから、いい国の名前考えてぇー。このままじゃ『セシル共和国』が正式名称になっちゃうのぉー。」
そういって、涙ながらに訴えるセシルの表情は、久しく見たことのない、年頃の娘、そのものだった。
◇
『この国は、本日をもって、クァール連邦より脱退、エリカ共和国から独立し『セ・シール共和国』として、新たなる国家として樹立するものとする。』
そんな布告がなされたのは、Xデーから2日後の事だった。
それに伴い、街の住民には2つの選択肢が与えられた。
すなわち『セ・シール共和国の国民としてこの街に残るか否か?』というものである。
国民として残るのであれば、3日以内に必要な手続きを行うこと。望まないのであれば、同じく3日以内にこの町から出て行くようにと告げられる。
3日経っても、手続きをせずこの街に残留していた場合は、犯罪奴隷としてそれなりの罪に問われることになると聞くと、住民達はこぞって、最寄りの場所へ手続きをしに向かうのだった。
◇
「順調なようだな。」
俺は、疲れた顔でお茶を飲んでいるミアにそう声をかける。
「えぇ、おかげさまで。」
ミアは不機嫌さを隠そうともせずにそう言い放つ。
彼女は、セレスとともにセシルの手伝いをしているため、この数日は死ぬほど忙しいらしい。
とはいっても、ずっとここに帰ってこれないセシルに比べれば、まだマシなようだが。
「はぁ……。セシルも感謝してたわよ。普通はもっと混乱起こすのにって。」
「だろうなぁ……。」
俺はぼんやりと窓の外を見ながらそう答える。
外は手続きを待つ人々の長蛇の列であふれかえっていた。
「しかし、住人はもっと減ると思ってたんだけどなぁ。」
「……アンタが変な一文を付け加えなければもう少し残ったと思うわよ。何なのよ、あの布告文はっ。」
ミアが軽蔑しきった目で俺を見る。
「よくできてただろ?」
俺は胸を張って自慢げに言い切る。
ミアが言っているのは、独立国家として新たな国の方針を打ち出したものを文章化して布告したことである。
その内容は以下の通り。
『・ セ・シール共和国は差別を嫌う。人族だけでなく、エルフ、ドワーフ、獣人といった亜人から、魔族に至るまで、すべて平等に権利と義務を有する。
・ 奴隷にも人権を与える。犯罪奴隷を除いた一般奴隷には人権を認め、雇用条件は明確にする。
・ 国民は政治に参加する権利がある。ただし、納税と国の方針に従う義務があることを忘れずに。
・ 税金は美少女でも可。(王が認めた場合に限る。)また、年頃の少女は王の命があれば登城する義務がある。』
「一つ目はいいわよ。獣人さん達との約束もあるし。そもそも、この国で差別は殆どなかったようだから、それ程忌避感なく受け入れてもらえたわ。「魔族」という部分に対しては少し抵抗があったみたいだけどね。」
「だな。俺としては一番心配していた部分だったから安心したよ。」
元々クレイドルは、魔族の侵攻を食い止めるという目的で作られた街なので、魔族=悪いモノという認識があったのだが、獣人とだってわかりあえるのだから魔族だってきっと分かり合える、というプロパガンダのお陰で、思ったほどの抵抗もなく受け入れられている。
「2つ目も、まぁ……、一部の裕福層からの反発はあったみたいだけど、概ね良好に受け入れているみたいだわ。3つめは少し説明が必要だったけどね。」
「そうなのか?」
「えぇ、『政治に参加する権利』というのがどういうことか理解できない人が多かったみたい。結局は「共和制」というのがあまり理解されていなかったって言う証拠ね。セシルは落ち込んでいたけど、落ち着いたら国民すべてに浸透するように時間をかけて教えるってケミスさんが張り切っていたから、放っておいても大丈夫そうよ。」
「ケミスのおっさんがね……そうだな、任せておけばいいだろ。」
それより……と、ミアが真っすぐ俺の顔を睨みつけてくる。
「あの4つ目は何なのよっ!セシルさんが説明に凄く困ってたわよ。」
「何って言われてもなぁ、国民の美少女は全て俺のモノ。何も間違ってないだろ?」
「間違ってるわよっ!」
「ちなみにセシルはなんて説明していた?」
「……世継ぎがどうとかって言って誤魔化していたわよ。」
「なるほど……こうやって後宮ってモノが出来ていくのか。じゃぁ俺がやったことは間違ってはいなかったな。」
「……ヤリ部屋が広くなっただけ。」
今まで黙って、俺の膝の上でされるがままになっていたマオがボソッと呟く。
「狭い方が良かったか?」
俺がそういうと、マオは黙って首を振る。
「……まぁ、ソレのお陰で、皆が従っているという面もあるんだけどね。」
ミアが困ったように呟く。
Xデーがあったあの日、街の住民は、評議会堂の中で、重要な決議がなされていることは知らなかった。
ただ、街中の物々しい雰囲気に、何かあるのでは?と憶測が飛び交うだけだった。
そして、その予感が正しかったことを知るのは翌日になってからだった。
Xデーの翌日、街の人々は何もなかったはずの街の南西の外れに、一夜にして出来た巨大な城に驚く。そしてその城から、ぐるりと街を囲うように伸びる、巨大な城壁に怖れを感じる。
外敵から街を護るためのものなのだが、それは同時に自分たちを逃がさないようにするための囲いだと思った人々は数多かったという。
そして、更にその翌日、新たなる王を迎えたことを知った人々は、こぞって住人となる手続きを受けることにする。皆の心中は一つ。
一夜にしてあんなものを作るようなお方に逆らってはダメだ……と。
ある意味強迫観念にも似た思いが、街の人々の心を一つにつなげたのだった。
俺としては、単に、女の子たちが増えたし、廃教会では狭くて問題になってきたという事、街に拠点は必要だろうという事、どうせ作るなら、大きい方がいいだろう、後、最近覚えたクリエイト系のスキルを試してみよう、という理由からなのだが、想定外の効果を発揮したらしい。
城壁については、この国が独立したことは、近日中に隣国に知れわたるだろうし、エリカ共和国本国には、今頃早馬が届いている筈だ。
放っておいてくれればいいが、そう言うわけにもいかず、一戦交えることは想定の範囲だから、街を護る防護壁は最優先事項で必要だったというだけの話だ。それなのに……。
「あまりにも急激な変化に、新しい王は魔王ではないか?という噂まで広まっているわよ。」
まぁ、ある意味魔王には違いないけどね、とミアはマオを見ながら呟く。
マオはすでに俺の手によって衣類を剥ぎ取られ、顔を真っ赤にしている。
「はぁ、あんまりやり過ぎないようにね。」
ミアは一言そう言い残すと逃げるようにしてサロンを出て行った。
「……っちぃっ!逃げられたか。せっかくミアと絡ませようと思ったのに。」
「……好きにすれば……んッ、ク……っ……。」
マオの顔は上気しているものの、それ以上の感情は見せないまま、軽く果てる。
様子を見ている限り、感じてないわけではないのだろうが、表に出す表情の変化が乏しいために、よくわからない。
それが面白くなくて、俺は、この数日この娘……マオを連れ歩いている。色々な場所で辱めてやって、反応を見る為だったのだが、結果としてはあまり芳しくなかった。
いや、正確に言えば、マオの隠された能力を開花させることが出来たので、長い目で見れば、早きに渡って才能を発揮できたことを素直に喜ぶべきなのだろうが……。
マオは、表情が乏しいながらも、頭の回転が速く、記憶力もよかった。
さらに言えば、レオンの責めに耐えることが出来るほど忍耐力もあり、ここ数日でいきなり溜まった書類仕事をやらせてみたら、あっという間に片づけてしまうほどだった。
それを見たセシルが、彼女を秘書に欲しがったので、セシルとマオの百合プレイを条件にし、十分堪能させてもらったが、マオの表情の乏しさは相変わらずで、それだけが不満ではあった。
それでもマオの優秀さを発見できたことは喜ばしい事なので、今後は、セシルの秘書としてだけでなく、あらゆる面で働いてもらう事になるだろうが、それももう少し時間をおいてからの事となる。
マオは、例の最終決議の時に賛同しなかった議員の娘だ。
ただ、彼はコーザ達に人質を取られ脅されていたとの事なので、抒情酌量の余地ありという事で経過観察中であり、おかしなことを考えないように、娘であるマオを俺が人質として扱っているという事になっている。
他にもマオのような立場の娘や奥さん連中が多数いるが、殆どが奴隷として売り払われる予定になっていた。
だがマオのような例があるのなら、すぐに売り払わずにしばらく様子を見ることになるだろう。
すぐに防衛戦が始まることだし、兵の指揮を上げるための餌にも使えるかもしれない。
色々問題が山積みになりつつあるが、今当面の問題は、この娘の恥ずかしがるところをどうすればみられるか?という事だ。
俺は新たな玩具を取り出し、無表情で嫌がるマオに使うのだった。
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