クレイドル攻略 その1 (Re)
「さて、大体必要な情報は集まったが……。」
俺はその場にいる面々の顔を見回す。
ここにはセシル、メルナ、アンナとティーナ、そしてジョンが揃っている。
セシルとメルナは、今回のクレイドル攻略においての戦略を考えるために必要不可欠な存在だ。
この二人の知恵がなければ、どんな計画もとん挫するに違いない。それくらい俺は彼女たちの能力を買っている。
アンナとティーナは、集めてきた情報の精査と追加、それに加え、今後の戦略に応じて動いてもらう必要が有るので、一緒に立案に立ちあってもらう。
ジョンも似たようなもので、こちらは、実際に戦力を動かす際の要となるため、立案から立ち会ってもらった方が話が早い。
後、彼の経験は、俺達の気付かない点を補ってくれるのに非常に重要だと思うのだ。
扱いはぞんざいではあるが、彼の力は認めているのだよ。
その証拠に、彼の元には、今回の事が片付いたらメイド隊の一人シュンレイが嫁ぐことになっている。
俺の知らないところで、仲良くなっていたらしいので、最近はシュンレイを頻繁に呼ぶようにしている。
ジョンに悪いと思いながら乱れる姿は中々そそられるものがあり、事が終わった後に涙を浮かべながら睨みつけられるのにも、最近は快感を覚えるようになってきている。
ウン、クレイドルを落としたら、メイド隊を増員しよう。後、ジョンの部下も増強だな。手柄を立てた奴にはメイド隊の子と仲良くできる権利をあげようと言えばよく働いてくれるだろう。
……っと、今は会議に集中だ。お楽しみは後で考えよう。
「それで、レオン君。そろそろ具体的な話を聞かせてもらえる?」
「そうだな、まずはこちらも資料だ。」
俺はメルナの声に応えて、資料を皆に回す。
「これはここ一ヶ月のクレイドルの経済状況だ。」
「酷い……。」
「……そうだな。折角セシルが抑えていたのに、すべてが無駄にされているな。」
俺は1年前の資料と見比べながら状況を説明し、青ざめた表情で資料を見つめるセシルの肩を軽くたたいて慰める。
一年前はちょうどクレイドルの経済が傾き始めた頃だ。それから3か月後には異常な速度で経済が悪くなっている。しかし、その辺りから悪いながらも安定が見え始め、月ごとに少しずつ回復の兆しが見えていたのだが、丁度2か月前を境に、またもや経済曲線が急降下している。
2か月前と言えば、セシルを保護したころだ。……無関係とはいえないだろう。
「悪いうわさが漏れないように情報封鎖しているけど、周りの国が煽っているからな。商人たちは、手前の国のゼクスで止まり、引き返している。……当然ゼクスは潤うよなぁ?」
「ゼクスが裏で糸を引いている……と?」
「正確にはゼクスも、だな。困っている時、誰が一番得をするか?って考えれば、おのずと裏が見えてくるもんさ。」
「……あの時は、そこまで気づくことが出来ませんでした。」
あの時気付いていれば……と、悔しさで唇をかむセシル。
「いや、セシルの頑張りがあったおかげで、ゼクスの線が浮かんできたんだ。他もそう。お前が頑張ったことは無駄じゃない。」
俺はセシルを慰めながらその頭を優しくなでてやる。
「それより、ここから反撃する為にはセシルの力が必要なんだ。出来るな?」
「私は何をすればいいのでしょう?」
「簡単な事さ。街の代表として、今一度クレイドルを再建するんだ。」
「でも、私は国家反逆罪の罪を着せられて……。」
「いいじゃないか、国家反逆罪。」
「えっ?」
「クレイドルは立て直す。だけど、エリカ共和国の為じゃない。セシルは独自勢力として、クレイドルを立て直すんだよ。」
「えっとそれって……。」
「分かりやすく言えば独立だな。クレイドルから、この南西の未開拓地を、新たな国として興す。」
俺は地図に印をつける。他国に比べればはるかに小さな領地ではあるが、未開拓地や、魔族の領土とされる土地の位置関係から鑑みれば非常に重要な場所だといえる。
「そんな事をエリカ共和国が黙って見てると思う?」
「思わないな。だけど、国力の下がったエリカ共和国なら戦いようはある。そもそも、エリカ共和国の財源の半分以上はクレイドルからもたらされるものだったわけだしな。」
そもそも、エリカ共和国の繁栄はクレイドルという町があってのモノ。それを失ったエリカ共和国はただの辺境の小国でしかなくなんの価値もない。
ぶっちゃけて言えば、「何の旨味のない国」に成り下がるのだ。
「でも、連邦の他の国が黙ってないのでは?」
セシルが疑問を口にする。
「そちらの方は、今後の工作次第だ。」
俺はアンナ達に視線を向ける。お前達の仕事だからよく聞いておくように、と視線で促しながら話を続ける。
「連邦と言っても一枚岩じゃない。ゼクスのように、目先の利益のために、裏でコソコソ動く国もあれば、真っ当に、魔族の備えとしての役割を期待して支援をしている国もある。だけど、7割の国は完全に中立……と言えば聞こえがいいが、要は様子見をしているっていうのが現状だ。エリカ共和国が潰れるのであれば、自国の利益を確保するために動き出すだろうし、持ちこたえるのであれば今まで通り利用させてもらう。だから、内乱が起きてすぐに動く国は少ない。その間にこっちは防備を固めればいいってわけだ。」
事を起こして最初の数か月が勝負だとみている。
クレイドルを支配下に収めれば、当然エリカ共和国か、この隙に利を得ようとする近隣諸国が攻め入ってくることは間違いない。何と言っても向うには「反乱鎮圧及びその増援」という大義名分があるのだから。
仮想敵となるのは、エリカ共和国は当然として、クレイドルと国境が接しているゼクス、オーキス辺りだろう。
連合して攻めてこられるとやや厄介ではあるが、連合するとなれば、互いの意志の統一や戦後の利益配分などの取り決めがあるため、攻め入ってくるまでの時間が非常にかかる。その分準備に時間が取れるので、却って都合がよかったりもする。
とにかく、最低でも一戦は避けられないだろうが、そこで勝利すれば、相手もそうおいそれとは手を出せなくなる。と言うか、手を出せなくなるような勝ち方をする必要が有る。
そうして得た時間で、クレイドル内部の掃除をして、セシルを頂点とした支配体制を確固としたものにする。
俺の中では、ここまでを半年以内……できれば3か月で終わらせる計算になっている。
その後は、力を蓄えながら、エリカ共和国本国に対し、様々な工作をして国力を削ぎ落し、1年以内に宣戦布告、その後半年以内でケリをつけるという計算が出来ている。
宣戦布告してから半年以内でケリをつけないと、そこからの巻き返しには時間がかかることになり、メルナとの賭けに負けてしまうので、これは絶対必須条件なのだ。
そうでなくても、エリカ共和国は1日でも早く落とす必要がある。エリカ共和国さえ落としてしまえば、勝確なのだから。
「どうして?」
俺の説明にセシルが疑問を投げかけてくる。
「エリカ共和国さえ落としてしまえば、明確な敵がいなくなるからさ。」
「でも、ゼクスやオーキスが……。」
俺の言葉を信じられないというようにセシルが訊ねてくる。
「ゼクスとオーキス、そしてクレイドルの位置関係だよ。」
俺はセシルに地図を見せながら説明をする。
「もし、ゼクスがクレイドルに侵攻しようとするだろ?」
「うん。」
「しかし、そうなったら、オーキスがゼクスに攻め込むから、ゼクスは動けない。クレイドルとオーキスを同時に相手取っても勝てるだけの兵力と財力がない限りな。そして逆も然り、さ。」
俺がそう言うとセシルは不思議そうに首をかしげる。
「なんで?一緒に攻めてくるんじゃないの?」
「それこそ価値観と利益の問題だ。エリカ共和国が存在しているならまだしも、クレイドルが一国家として独立した場合、二国で攻め落としても、その後の利がないんだよ。かといって、他の国がやすやすと攻めるのを指を咥えてみてるわけにはいかない。とすれば、クレイドルに攻め込んでいる間に、相手の本国に攻め入る方が余程利益があるってことだ。ゼクスもオーキスもそれが分かっているから、エリカ共和国が無くなった後は下手に攻め込んでこれない。それどころか、両国から、「仲良くしましょ」という使者がやってくるはずだ。」
俺の説明に、納得したように頷くセシル。
話が途切れたのを見計らってメルナさんが声をかけてくる。
「それはいいけど、最初にクレイドルを落とす戦力はどうするの?一個大隊とは言わないけど、一個中隊ぐらいの人数は最低限必要になるわ。」
この世界における軍隊の単位は、大きい方から、師団、連隊、大隊、中隊、小隊、分団と別れている。
小隊の人数が国によって違うが大体8人前後。それより少ないと分団として扱われることになる。
そして小隊が5つ集まると中隊になり、その人数は40から50人程度。
中隊が5つ集まれば大隊となり、5つの大隊で一個連隊。
連隊が5つ集まれば一個師団となる。
一個師団の数が大体5千程度であり、小国だと一個師団を揃えるのが限界だったりもする。それだけ軍隊というのは消費をするのだ。
クレイドルの街はその性質上、それなりの軍備の必要が有り、各国の支援もあったため、一個師団に匹敵する戦力が常在していて、必要に応じてさらに一個師団がすぐに援軍に回ることが出来ていた。加えて言えば、時間をかければ更なる援軍も期待できる……つまり普通であればここを攻略するなど狂気の沙汰である。
しかし、現状に至っては、各国の支援がなくなり、エリカ共和国の首都の防備もあるため、クレイドルに割ける軍費は乏しく、一個大隊を維持するのが精一杯という状況である。
それでも200人を超える兵士を前にして、ジョン一人でクレイドルを襲うというのは自殺行為以外の何物でもないのだと、メルナは言っているのだ。
「おいおい、誰もジョンのオッサンを一人で特攻させるなんて言ってないだろ?むしろオッサン一人で戦わせるという発想が出てくる方が驚きだわ。」
「あ、えーと……、アハハ……。」
メルナがジョンを見た後、気まずそうに笑ってごまかす。
「じゃぁ、紹介しようか?」
俺はティーナに合図を送ると、ティーナは部屋を出ていく。
そしてしばらくすると一人の男を連れて戻ってくる。
「紹介しよう。新しいお友達のシルバー君だ。みんな仲良くするように。」
俺は冗談めかしながら、その部屋に入ってきた男を紹介するのだった。
◇
「シルバーだ。よろしく頼む。」
不承不承、といった感じで、ボソリと一言で挨拶を済ませるシルバー。
だが、メルナを始め、その場にいる者たちは、誰もがシルバーを見たまま黙って固まっている。
「おいおい、早速シカトか?無視も立派なイジメだぞ?」
「イジメ、ダメ。絶対!」
俺の言葉に続くように、後から入ってきたアリスがそういう。
アリスののほほんとした姿が、一種の緩衝材となったのか、その場に張り詰めていた空気が緩み、メルナが口を開く。
「イジメとかじゃないのよ。ただ驚いただけで。………メルナよ。よろしくお願いするわ。」
メルナが口火を開くと、他の面々も次々とシルバーと挨拶を交わす。
「ねぇレオン君。疑うわけじゃないけど、本当に彼ら…獣人が力を貸してくれるの?」
「あぁ、シルバーを代表として獣人族の精鋭50人が今度の作戦に加わってくれる。」
「………ねぇ、レオン君。」
俺の答えを聞いて、メルナの声のトーンが1段下がる。
「あなた何やったの?獣人達は私達人間を嫌っているはずよ?なのに、急に味方と言われて、ハイそうですかって納得できると思う?」
「そうは言われてもなぁ………。」
シルバーを始めとする、獣人達の参加には色々と複雑な事情があるのだが……。
それをどう説明するかと悩んでいるとアリスが口を開く。
「レオンさんは、獣人の皆さんを助けたです。獣人の皆さんはその御礼として力を貸してくれるですよ。」
アリスがメルナにニコニコとしながらそう答える。
最近のアリスは、無条件に俺を善人にしたがる。
でも今回は都合がいいのでそれに乗っかっておこうと思ったのだが、「そんな訳無いでしょう?」と、メルナが無言で睨んでくるので、仕方がなく俺は事の顛末を話すことにした。
◇ ◇ ◇
事の起こりは、数日前に、いつものようにアリスと家庭菜園?の収穫の手伝いに行った時の事だった。
教会の裏にある家庭菜園?は俺の想像をはるかに超えて、樹海の奥地まで広がっていた。
「なぁ、俺の記憶が確かなら,この前はもっと狭かったような……。」
「へ?そうですか?」
……先日はまだ、畑の端が見えた。しかし今は果てが見えない……いや、見えはするのだが、かなり遠くにあるような……。
「1ヘクタールはあるんじゃないか?」
「へっくたる?」
「……いや、気にするな。」
俺はアリスに言いながら、自分自身にも言い聞かせる。
ウン、異世界なら何でもありだ、気にするようなことじゃない。
「私はあっちを見てくるです。レオンさんはこの辺りをお願いします。」
そう言って駆け出していくアリスを見送った後、俺は、背後に小さなニンジンを庇う二足ニンジンを容赦なく無く引っこ抜き、ダイレクトアタックを仕掛けてくるフライングキャベツを叩き落として籠に詰めていく。
「キャァッ!」
収穫作業を続けていると、遠くの方でアリスの悲鳴が上がる。
俺は籠を放り出すと、慌ててアリスのいる方へ駆けだしていった。
目の前には、小さな男の子と女の子を背中に庇う様にしている少女と、その少女の前に立つ、鍛え抜かれた身体つきの男がいた。
俺はその光景に、一瞬動きを止める。男にも、男が庇う少女たちにも、頭から獣の耳が、そしてお尻にはフサフサの尻尾があったからだ。
「獣人……。」
ケモミミだ。リアルケモミミ娘が降臨なされた……。俺は感激のあまりその場に膝まつきそうになったが、足元に倒れているアリスの姿を見て一瞬にして気持ちを切り替える。
「貴様っ!」
俺は男に向かって駆け出していく。
「チィッ!仲間がいやがったかっ!」
男は俺に向き直り、手にしたこん棒を振り回そうとするが……。
「甘いんだよっ!『アースバインド』っ!」
俺は、男の足元に魔力を放つと、地面から蔦が伸びてきて男の下半身を絡めとり動けなくする。
更には、近くにいた収穫前の野菜たちが、アリスを庇うように、その周りに集まってくる。
「なんだっ!」
不意の事に驚いた男は、つい視線を俺から離し、現状を見極めようとする……それが狙いだとも知らずに。
その一瞬の隙を突いて俺は気配を消し、素早く男の背後へと回り込む。
そして……。
「チェックメイトだ。」
俺は背後から男の首に、手にしていた鎌をあてがう。
男は、自らの敗北を認めると、手にしたこん棒を捨てて両手をあげる。
「……俺はどうなってもいい。だがその子らは見逃してやってくれないか?」
「あぁん?何調子のいい事言ってるんだ?大体アリスを襲っておいて、返り討ちになったからって命乞いかぁ?」
「待てっ!先に襲ってきたのはそっちだろうがっ!俺は襲われそうになっていたレリーシャ達を助けようと……。」
狼の耳をはやした獣人の男の話によれば、最近傷だらけで帰ってくる子どもたちの姿を見て不審に思っていたという。
それで、今日、子供たちが何をしているのかを、レリーシャという少し年長の少女……今、子供たちを庇っているネコミミの娘、が後をそっとつけてきたのだという。
そのレリーシャを心配した目の前の男……クロウがさらに遅れて後をつけてくると、丁度アリスが子供たちの手を引っ張ってどこかに連れて行こうとしたところを目撃し、これは奴隷商の一味に違いないと、その場でアリスを殴り倒したのだという。
「アホか。アリスが人を……特にこんな子供を襲うわけがないだろ?」
そんな事より……と俺はクロウに殺意を向ける。
「アリスを殴った落とし前を付けてもらわないとな。」
俺はクロウに鎌を突き付ける。
「クッ……獣人を甘く見るなよ。たとえこの命が尽きようともレリーシャ達だけは逃がして見せるっ!」
クロウの体を覆うオーラが一段と厚みをおびたかのように感じる。
「やめてくださいっ!私達が悪いんです。謝罪いたしますから。何でもしますので、クロウを傷つけないでっ!」
一触即発の状況で、それまで黙って怯えていたレリーシャが間に割って入る。
「全部……私達が悪いのです……。」
「「お姉ちゃん……。」」
幼い獣人達が、怯えながらもレリーシャに寄り添う。
「実は……。」
俺が鎌をいったん収めると、レリーシャは、何故こんな事になったかということを話し始めた。
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元々、獣人は人族に嫌われていた。
獣の一部が表面化していて気持ち悪いだとか、獣と変わらないだとかと言って忌避されたり、また、人族を凌駕する力に怯えた者達が、やられる前にやれとばかりに迫害したりなど、理由は様々だ。
獣人たちにしても、一方的に謂れのない迫害を受けて黙っているわけにもいかず、また、まともにぶつかれば身体能力に勝る獣人たちの方に利があり、そのことがまた獣人に対しての排斥運動につながるという悪循環を生んでいた。
勿論、そんな人族はごく一部であり、獣人達に対して友好的な人々も多くいたのだが、国によっては獣人の奴隷を推奨しているところもあり、多くの獣人達が犠牲になったため、獣人側としても、人族に隔意を抱いていた。
だから多くの獣人は、人族の街から離れた隠れ里に少数単位で別れて住むようになったのだという。
レリーシャ達が住む集落もその隠れ里の一つだった。
クレイドルの街の近くではあるが、未開地という事もあり、人があまり奥地にまで入ってこないので、貧しいながらも細々と生活してきたのだが、最近になって、樹海が騒がしくなり、獣人達でも手に負えない魔獣が出没し始めたという。
その影響もあって、村では食糧難の危機に落ちいるのだが、周りは未開地で、唯一開けているのは人族の住む町だけというこの場所では、飢えていくのをただ黙ってみているだけしかなかったという。
そんな折、子供たちが傷だらけで帰ってくるという事件が起きる。
子どもたちを問い詰めても何も言わず、転んでけがしたと言い張るばかり。
ただ、朝方はお腹を空かせていた筈なのに、帰ってきたときにはそんな様子を見せない。
これはおかしい、と里の皆が不審に思うのは当然だった。
そして、レリーシャが後をつけて知った事実……。
「つまり、そこのガキどもは、うちの畑の野菜を盗んでいたというわけだな。」
俺がそういうと、レリーシャはコクンと頷き、子供たちは、ばつが悪そうに視線を逸らす。
「で、その現場をアリスに見つかったと。どうせアリスの事だから、落ち着いた場所に連れて行って、傷を癒し、食事を与えようと思ったんだろ?その途中で、こいつに殴られたってわけだな……。」
「その通りです……。この娘……エマが腕をやられているのを見て、アリスさんは治癒魔法を使ってくださったんです。そして事情を離して謝罪しようとしたら……。」
「ちょっと待て、たかが野菜を盗むのに、何でそんな大怪我するんだ?」
俺はその言葉を聞いてクロウを蹴り倒す。
「アリスが丹精込めて栽培している野菜を、たかが、何ていうなよ。それより……。」
俺は子供たちの目線にあわせてしゃがみ込み、二人に声をかける。
「お前たち、武器も持たずにアレと戦ったのか?無茶するなぁ。」
「う、うん……。流石にダイコンには勝てないけど、ニンジンなら、何とか……。」
「いや、ニンジンでもかなりのモンだろ?お前らすげえなぁ。」
最初怯えていた子供たちだが、俺が褒めてやると、自分たちがいかに勇敢に人参と戦ったかを誇らしげに話し始める。
俺はある程度話を聞いてやったところで、釘をさしておく。
「頑張ったんだな。しかしな、お前らがやったことは泥棒だ。それは理解しているか?」
「う……うん……。」
「そして、お前らの浅はかな行動の結果、アリスは殴られたんだ。アリスは殴られるようなことをしたと思うか?」
俺がそう訊ねると子供たちは、ブンブンと首を横に振る。
それを見たクロウが気まずげに視線を逸らす。
「今回の事については、後は大人同士で話を付けるから気にするな。ただ、後でアリスに謝るんだぞ。それから、いくらお腹が空いていても、泥棒はダメだ。俺たちはこの畑の向こう側に教会に住んでいるから、腹が減ったらそこまで来い。仕事してもらう代わりに飯を食わせてやる。」
「あんちゃん、本当かっ!」
「あぁ、ウソは言わないぞ。でも今日の所はあいつと一緒に帰りな。」
俺は子供たちにアリスが集めた籠一杯の野菜を持たせ、クロウの呪縛を解いて帰らせることにする。
「その……なんだ。悪かったな。話を聞いている限りこちらに落ち度があったみたいだ。そうとも知らず……。なのにお前さんは許してくれて……。」
「ちょっと待て、誰が許すと言った?」
「えっ、でも今……。」
「あんな小さな子供たちに罪科を負わせるわけにはいかないだろ?子供が飢えるのは大人の責任だ。だから大人に責任はとってもらう。」
「マジか……。」
「当たり前だろ?とりあえず、お前は先に帰って里の者たちに通達しておけ。俺はアリスが目覚めたら取り立てに行くからな。」
「先にって……、おい、レリーシャは?」
「悪いが、この娘にはもう少し詳しい話を聞く必要もあるし、道案内も必要だから残ってもらう。」
「そんな……人質を取るのか……なら俺が。」
「うるさいっ、人質は女子供と相場が決まってるんだよっ!これ以上俺の機嫌が悪くならないうちに、さっさと行けよっ!」
俺はそう言って、半ば無理矢理クロウを追い返す。
後にはレリーシャだけが残される。
「さて、子供たちもいなくなったことだし、色々と話を聞かせてもらおうか?責任も問ってもらわないといけないしな?」
俺はニヤリと笑うと、彼女が逃げられないように、その手を後ろ手で縛り上げるのだった。
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。




