聖女様の人助け……鬼畜条件付き。(Re)
「あの、村へ行かれるなら、私も着いて行ってはダメですか?」
俺がアリスを伴って出かけようとすると、ミアが声をかけてくる。
まぁ、ずっと教会周りだけじゃ飽きも来るだろうから気持ちはわかるのだが。
「まぁ、邪魔しないならいいぞ……って、お前も来るのか?」
ミアだけじゃなくセレスも一緒なのを見て、思わず声をかける。
「ダメ……ですか?」
「……いや、いい。アリスだけじゃ、人手が足りないからな。」
俺はそう言いながら、すたすたと足早に教会を出て、馬車の用意をする。
「ところで、何しに行かれるのでしょうか?」
馬車に揺られること数分、今まで景色を見ていたミアが聞いてくる。
「人助けかな?」
「ですです。」
俺がそういうとアリスが嬉しそうに言う。
「人助け……ですか?」
セレスが怪訝そうに聞き返す。
「まぁ、簡単にえば、戦争の余波によってケガや病人が増えた村に、アリスを連れて行って助けてやろうッて訳だ。」
クヴァール王国とハルファス神聖国の戦を発端とする争いの影響が、この辺境にまで及んできていて、この近隣でも、隣国の兵に襲われたという話は耳にするようになってきた。
今から向かう村は、そこまで酷くはないが、働き手の要である男手が徴兵で取られてしまったため、残された女子供や老人で生活をしなければならなくなった。
働き手の中心がいなければ、畑仕事ならともかく、狩猟などは無理が出てくる。
無理がたたれば、当然、怪我人も多くなるし、体調を崩すものも出てくる。
そこで、治癒魔法が使える、シスターアリスの出番と言うわけだった。
「えっと……やっぱり、レオンさんっていい人……ってこと?」
ミアが不思議そうな顔で俺を見上げてくるが、俺は良い人なんかじゃないぞ。
「っと、ちょっとストップ。」
俺はあるものを見つけて馬車を止める。
「どうしたの?」
ミアが聞いてくるが、俺は「いいからいいから」とミアを押しとどめ、ついでにセレスと向かい合うようにさせて、その腕同士を縛り上げて馬車の中に放置しておく。
これでこの二人の自由はかなり制限されることになった。
後はアリスに二人の面倒を任せ、俺は馬車を降りて、目的の場所へ向かう。
「こんなところで何してるのかな?お嬢ちゃん。」
「へっ、あっ、……誰?」
年の頃は12~3歳くらい。金髪のくるくる巻き毛が愛らしい女の子。間違ってもこんな森の中にいるのは似合わない娘だ。
少女は、突然の俺の出現に驚いた声をあげる。
「お嬢ちゃん、この辺りは危険だから近寄っちゃダメって、お母さんに言われなかった?」
「えっ、あっ……、その……。」
何かを感じたのか、ジリジリと後退る少女。キミのその感覚は正しい……けど、遅い。
「あっ、……やっ!」
逃げようとする少女の腕を捕らえ、手にしたロープで両腕を縛り、手近な木の枝へと吊るす。
彼女の足はかろうじて地面についているギリギリの高さに調整してあるので、その場から動くこともままならなくなる。
「この森にはねぇ、危険なケダモノが出るって聞いたことない?」
俺はそう言いながら彼女の背後に回り、後ろから彼女の衣服の中へと手を入れる。
「あっ、イヤっ……。」
未発達の膨らみを揉みしだき、その先を指で転がすと、少女は、おそらく初めてだろう刺激を与えられ身を捩る。
「ここで何をしていたか言ってごらん?」
俺はコリコリと弄りながら耳元で囁く。
「んっ……、あっ……、お、お母さんが……、薬草を……、ァンっ……。」
「お母さんが病気なんだ?」
「ぁんっ……。そう、薬草持って……帰らないと……ぁん、そこダメェ……。」
湿り気を帯びた下腹部に手を伸ばすと、少女はジタバタと暴れ出すが、手は縛られて動かせず、足元は少し動けば地を離れてしまうため力が入らず、結局身を捩る以外できることはなかった。
「ダメ、そこは触っちゃダメェ。」
「お母さんが今の君を見たら、どう思うかな?言いつけを護らなかった娘さんがこんな目に遭ってるって知ったら……。」
「いやっ、お母さんには言わないでっ……。ぁん、そこダメなのぉ……。」
いい具合に昂った少女を頂こうと、その衣服に手をかけ、そして……。
ガンっ!
背後から思いっきり殴られる。
「レオンさん、メッ!なのですっ!」
そこにいたのはアリスだった。手には自分の頭より大きなハンマーを抱えていた。おそらくあれで殴られたのだろうが……いや、普通死ぬよ?
「魔物に襲われないように保護してただけだ。」
俺はぐったりとしている少女のいましめをほどき、アリスに見張られながら、馬車に戻り、席に寝かせる。その様子をジト目で見る少女たちにそう説明をするが、彼女たちの冷ややかな目はそのままだった。
「魔物には襲われなかったけど、ケダモノには襲われていたわね。」
ミアがそういうが、彼女は自分の立場が分かっているのだろうか?
俺はまだ猛っているのを我慢していたというのに……。
しかも、俺を侮蔑の眼で見てくる少女は、もう一人の少女と共に縛られているわけで……。
俺は黙って、彼女の衣類に手をかける……。
「レオンさん、メッ、なのです。女の子にはもっと優しくするのですよ。」
アリスがハンマーをチラつかせながら言う。
……はい、ゴメンナサイ。
「大体レオンさんは……。」
アリスは先ほどの少女を膝枕したまま俺にお説教を始める。
そのお説教は1時間近くも続いた。
まぁ……俺がお説教を受けている間に、ミアとセレス、そして目が覚めた少女が三人連れ立って水浴びが出来たのだから良しとしよう……。
◇
「ほら、これをお母さんに持って行ってやりな。」
俺は村に着くと、森で見つけた少女にポーションを渡してやる。
俺のスキル「ポーション精製」で創ったものだ。
このスキルで生成したポーションは、濃縮ポーションであり、100倍に薄めてやれば、ノーマルポーション、10倍に薄めればハイポーションと同等の品質になる。
スキルレベルが上がれば、メガポーションなども精製できるのだろうが、今のところSPを使う以外のレベルアップ方法が分からない為、レベルをあげていない。
大体の事はハイポーションで事足りるというのもある。
少女に与えたのはノーマルポーション。1本でもそれなりの効果が見込めるだろうが完治はしない。
ポーションがもっと欲しければ、森に来て連絡しろと、連絡方法を告げてある。
少女は、ポーションを大事そうに抱えながら、家路を急ぐのだった。
「さて、どこから手を付けるか。」
「端から回っていきましょう。」
アリスがそう言って、目についた家を指さす。
「そうだな、取り敢えず行ってみるか。」
俺はアリスと共にその家へ向かうのだった。
◇
「ありがたや、ありがたや……。」
老婆がアリスの手を握り何度も何度も頭を下げてお礼を言う。
この老婆は、体調が思わしくなかったところに、不慮の事故に見舞われ、足が動かなくなっていた。
一緒に暮らしていた孫娘が、老婆の面倒を見、畑仕事をしながら家の中の事をやる……そんなギリギリの状況が続いていたのだ。
せめて自分がいなければ、と老婆は歯がゆい思いをしながら孫娘の世話を受ける日々。日に日にやせ衰え、疲れをにじませる孫娘を見て、いっその事……と思っていた矢先に、旅のシスターによって、以前の元気を取り戻せたのだ。
いくら感謝してもしきれないだろう。
「ところで、ご老人。治療の報酬なんだが……。」
涙しながら抱き合っている老婆と孫娘に声をかける。
場に水を差す様で悪いが、こういう事はしっかりしておかないといけない。
「あ、あぁ、そうじゃな。しかし、報酬と言っても御覧の通り何もないありさまでのぅ……。」
「いや、ちゃんとあるじゃないか、それも特上のが。」
俺はそう言って孫娘の肩に手を置く。
「うちに来て数日働いてくれればいい。おばあちゃんの為にそれくらいは出来るだろ?」
俺がそう囁くと、孫娘は緊張で体を強張らせたまま、少しの逡巡の後、コクリと小さく頷く。
俺の言う「働く」の意味をちゃんと理解しているようで何よりだ。
「こんな年端もいかない娘を連れていくのかえ。お主らは悪魔じゃ。外道じゃっ!」
「なら、治療費払うか?あの状況だと金貨1枚でも安いくらいだろ?」
俺がそういうと老婆は黙り込む。
ミアが何かを言い出しそうだったので、俺は孫娘とミアを引っ張るようにして、そのまま足早に家を出る。
アリスが、凄く複雑な表情のまま、老婆に一礼してから後をついて来た。
「さて、次はどの家に行こうか?」
「あの……レオンさん……。……いえ、何でもないです。」
アリスが何かを言いたげに見上げてくるが、そのまま言葉を引っ込める。
「よし、次はあの家だな。」
だから俺はアリスの葛藤には気づかない振りをして、次の目標を狙い定めるのだった。
◇
「いやぁ、思ったより稼げたな。」
俺は両腕で抱えた食材の入った箱と、後に続く娘たちを見ながら、隣を歩くアリスにそう告げる。
「そうですね。でも、アリスは自分の未熟さを思い知らされた気分ですぅ。」
しょんぼりと呟くアリス。
「……仕方がないさ。全部を救うなんて、女神様でも無理だろ?それとも自分なら出来るなんて烏滸がましい事思ってるんじゃないだろうな?」
「そんな事を思ってナイですよぉ…でも……。」
アリスはチラッと、後に続く娘たちを見る。
「……アリスは未熟者です。」
そう言って涙を溢すアリス。
俺はそれを見なかったことにして馬車へと戻るのだった。
馬車では、鬼のような形相のミアが待ち構えていた。
交渉の時ぎゃぁぎゃぁ煩かったので、セレスとともに、先に馬車に戻らせ、報酬の女の子の面倒を見させていたのだ。
待っている間、ミアに色々言われたのだろう、女の子たちは困ったような顔をしていた。
「文句があるなら中で聞く。まずはこの子たちを乗せてやってくれ。」
俺は連れてきた少女たちを先に馬車に乗せると、自分は御者台に乗ろうとするが、ミアに捕まる。
「中で話してくれるんでしょ?」
そう言われてしまっては、逃げることも出来ず、御者をセレスに任せて、俺は後ろへ乗り込んだ。
「……で、何が聞きたいんだ?」
馬車が走り始めたところで、俺はミアにそう聞いてみる。
「決まってるじゃない、この娘たちの事よ。何であんな人さらいみたいな真似が出来るのよっ!」
「人さらいって言うのは聞き捨てならないな。これは純然たる対価だ。シスターの治療を受けて、以前より元気になったんだ。対価を払うのは当然だろ?しかも相場に比べるとはるかに格安だ。何の文句がある?」
「大アリよっ!何で女の子を対価にするわけ?他に食料でも何でもあるでしょ!」
ミアの言葉に、連れてこられた女の子たちが、シュンと俯いてしまう。
払えるなら、この娘たちはここにいやしないのだ。
現に、対価を食材で払ってもらったところもある。
娘を渡すわけにはいかないと、その場で全員が身ぐるみ剥いで家の中のモノをすべて渡してきたところだってある。
……もっとも、そんなの貰っても嬉しくもなんともないし、何もなくなれば数日後に餓死するのは分かっているので、娘さんを説得させてもらったけどな。
ここにいる7人の少女たちの家は、怪我や病を治してもらったことに対する相応の礼が出来なかった、それだけ困窮していた。ただそれだけの事だった。
「でも、だからって……。」
状況を説明されると、ミアも分が悪い事を悟ったのか、声に張りが無くなる。
「娘さん達を連れてくる必要はない……ミアはそう言いたいのか?」
俺がそういうと、ミアはコクコクと思いっきり首を上下させる。
「じゃぁ、逆に聞くが、ミアならどうする?この娘たちの家の人たちは、みな放っておけば明日には命がなかったもしれないという重度の患者たちばかりだったが?」
「払えないって言うのに、無理に取り立てることないじゃない。」
「じゃぁ、見殺しにすればよかったか?」
「そんなこと言ってない。ただ、払えないって言う人から無理に対価を取り上げるのは……。」
「成程、ミアは払えるところから払ってもらえばいいというのだな?」
「そ、そうよ。払えない人から無理矢理って言うのは間違ってるわよ。」
「成程なぁ。そうすると、皆が皆「払えない」って言ってくるぜ?それを承知で、アリスに無料奉仕させるってか?アリスの治癒だってタダじゃないんだ。無理すれば体調を崩すどころか、酷ければ命だって危うくなる。ミアは、アリスに命を削って無料奉仕しろって言うのか?」
「それは……。」
「昔な、ミアと同じことを考えているバカがいたんだよ。」
押し黙るミアに対し、俺はチラッと横で俯いているアリスに視線を送ってから話を続ける。
「そのバカは、自分が治癒魔法を使えるからって、他人を癒して回っていたんだ。困っている時はお互い様だと言って、対価も取らずにな。」
「素敵な事じゃない。それのどこがダメだって言うの?」
「癒してやった相手は、貧しいながらも、ちゃんと食事がとれて、清潔な衣服も来て、時にはちょっとした贅沢を楽しむことも出来た。それも全部、そのバカが癒したおかげで負担が少なかったからだ。だけど、対価を貰わなかったそのバカの生活はどうだったと思う?食事は1日1食、しかもそこらに生えている雑草を煮込んだだけのスープだ。替えの衣装もない。いつも同じシスター服を着てるだけ。下着だって履き古した2着を毎日洗って交互に履き替えているんだぞ?天気が悪く乾かないときは、シスター服の姿はノーパンだ。年頃の女の子がそんな生活を送っている。それでいいと思うのか?」
「あ、あの、そこまでバラすことないですぅ……。」
アリスが、瞳に涙を浮かべながら俺の袖を引っ張っている。
だけど、俺はやめる気はない。
「癒してもらっている方だって、それくらいは気づいている筈だ。だけど誰も何も言わない。誰かが言いだせば、対価を払わなくてはいけないからだ。決して裕福ではなく、その日暮らしがやっとの生活だ。癒しに対する報酬なんて払う余裕なんてないだろう。だったら癒しを受けなければいい。そのバカだって、魔力を無駄使いしなくて済むんだからな。だけど村人たちはちょっとしたことでも癒しを頼む。誰だって、怪我したら痛いし、健康であれば働くのにも余裕が出来るからな。村人たちにとっては、何も要求せず、ただ癒しをくれるシスターは、まさしく「聖女様」ってわけだ。」
俺の言葉に、一同は黙り込んでしまう。
「そのバカは、毎日限界まで癒しの力を使った。村人たちはそれが当たり前だと思うようになっていたからだ。何もなければそれでいい。バカの魔力はそれなりに豊富だったからな、一晩寝ればそこそこ回復してしまう。だけど、魔力を使い切ったところで何かが起きたら?」
起こりえる可能性が非常に低いIF。
だけど、そのときそれは起きてしまった。
魔獣の暴走による被害。
何人もの村人が犠牲になった。
シスターが万全の調子であれば、被害はもっと軽く済んだかもしれない。
しかし、シスターの魔力は枯渇寸前で、重傷者の一人の命を繋ぎ止めるのが精いっぱいだった。
その魔物が去って残されたのは、10人以上に上る死者と30人以上いた重傷者、そして、シスターに対する怨嗟の言葉だった。
「……シスターは半ば逃げるようにその村を去り、遠く離れた辺境の片隅で、たった2着のパンツを履き替えながら過ごす日々を送っている、何が悪かったのだろう?と後悔しながらな。…………これを聞いても、ミアはさっきと同じことが言えるか?」
俺が問い詰めると、ミアは黙り込む。
「どうして……どうしてレオンさんが知ってるです?」
代わりにアリスが泣きながら詰め寄ってくる。
「そんなもん、調べたからに決まってるだろ?」
「レオンさんは酷い人ですよ……。」
項垂れ、顔を隠すようにしがみついてくるアリスを抱きかかえ、俺はさらに話を続ける。
「それに対価を取るのは村人の為でもある。」
「どういうこと?」
「タダより高いものはないという事だ。バカが助けていた村人たちだって、ほんの少しでも対価を払っていれば、ちょっとした怪我や体調不良ぐらいでバカを頼ろうとしなかっただろう。そうであったなら、魔力枯渇など起きず、余裕をもって緊急時に対処できたはずだ。だからその村人はいわば自業自得。旅のシスターが気に病む事なんて全くないんだよ。」
俺は腕の中で泣きじゃくるアリスの頭を優しく撫でながらミアに言う。
「それに今回のことだって、アリスが無償で治療し続け、後になってから「借りを返して」とか言ったらどうなる?それが無茶な話しだったら?そんなことにならない為にもしっかりと対かは払うべきなんだよ。」
俺はそれから教会に付くまでの間に、ミアにコンコンと、どれだけ、タダ、というものが怖いかを話して聞かせるのであった。
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