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短編小説どもの眠り場

花開くような、慈しみ

作者: 那須茄子

 巡り巡る季節のなか。

 

 私とあなたは木陰で休んでいる。

 久しぶりのあなたとの、ゆっくりした時間。

 存分に甘えさせて貰おうではないか。


『なでなでしてよ』と。あなたにねだってみたりする。


「甘えん坊さんだな」


 そんな事を言いながらも、あなたは撫でてくれる。

 柔らかな手で、「愛してる」の優しい言葉も忘れずに、目一杯注いでくれた。私だけの色と愛を丁寧に。


 ふと、撫でる手が止まった。

 不思議に思ってあなたを見上げる。

 目が合う。


『どうしたの?』


「あ、いや。随分と黒の似合う女の子になったなって。感慨深いものだよ、本当。

まったく困っちゃうぐらい僕好みだよ」


..うぅー。あなたという人は....


『性癖で出ちゃってるんじゃない?』


「ギリ、セーフでしょ」


 ふっふっふっ。あなたは穏やかな笑顔で笑い出す。

 とてもバカらしくなって、私もつられて笑う。


 あぁ、堪らなく大好きだ。

 この時間が、あなたが。

 愛をずっと知ることが出来る。ずっとあなたと一緒なら絶対に。



──そんな時だった。それまで心地良かった風は、急にざらつき荒くなる。


 季節の変わり目。

 私の気分は一気に悪くなる。怖くなってくる。

 

 嫌だ嫌だ。

 次の季節なんかいらない。

 私は今のままが良いのに。


 どうしようもなく。無性にあなたの胸に飛び込みたくなった。


『..置いてきぼりにしないよね?』


 思わず口から漏れた。弱音は吐かないつもりだったんだけどな..。


「大丈夫」


 あなたは強く抱き締めてくれた。

 つくづくずるい人。私はあなたの胸の中にすがり、一涙を静かに落とす。


「安心してよ。置いてきぼりなんかしないさ。

ただ、次の季節には君は連れていけないだけだから。ここでちょっと、待っていて欲しいんだ。

絶対に、次の季節には迎えに来るから、約束。君の花言葉に誓う。決して滅びることのない愛、に。」


 それは魔法の言葉のように、私の中に溶け込んでいく。


『決して滅びることのない愛、かぁ。ふふ。ありがと、もう私大丈夫みたい』



 結局、最後まで駄々を捏ねちゃった。

 格好悪いけど、仕方ない。


 始めから、木陰で休もうなんて言ったのは、ただの口実だったもの。あなたも承知の上でしょ。


 私はあなたに向き直って、ごつんとおでこをぶつけ。


『いいこと。絶対、絶対、ぜーんったい! 私以外の奴らに目移りなんかするなよ!』


 ふぅ、言ってやった。これで本当の最後の我が儘。


「あーなるほど。それが僕と離れたくなかった、一番の理由なんだ」


『うるさいなぁー』


「照れ屋だね」


『そ、そうですよー! だって、だって、あなたが』


 一息置いて、あなたの口元へそっと。


『愛してるから』


 触れた唇にそう、私とあなたはなぞった。







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