upperclassman
貴重な食料をボクに分けてくれた野生児くんに、心からの礼を述べる。
「ありがとう。とっても美味しかったよ」
たった数粒のちいさな果実。もちろんそれっぽっちじゃぜんぜんお腹なんて膨れない。でもそんなちいさな果実が、ボクにまた生きる勇気を与えてくれた。
(ああ…なんだか気分がよくなった気がする。やっぱり糖分がないと、頭が回らないんだな…)
知識として知ってはいた。けど普段はまったく意識しなかったことに改めて感動を覚える。
「あう、あう…」
「え、もしかしてついていけばいいの?」
と、ここで野生児くんはボクから離れていきつつ、振り返って左手を自身の身に引き寄せるそぶりをみせる。どうやらついてこいと言っているらしい。そこで野生児くんの後をついていきながら、いろいろと訊ねてみた。
「ねぇキミ、どこに住んでるの?ひとり?お父さんやお母さんは?」
すると野生児くんはムスッとした顔でボクに振り返り、おもいきり太腿をぶってきた。
「あうッ!」
「イタッ!なにするんだよ、エッ、エッ…!?」
そしてボクの手首を掴み、下に下にと引っ張っぱる。
「あ、もうわかったよ!ごめんて、もうわかったからぶたないで!」
けっこうな力でまた太腿を叩かれる。どうもボクが立ったままの無警戒な状態でついてきたことが、気に入らなかったようだ。
「あう!」
「うん、ゴメン。もう静かについていくから許して」
年下の子相手に情けないけど、ココでは野生児くんの方が先輩だ。
だからきっとボクのまだ知らない危険についても、よく知っているのだろう。そう思って周囲に生えている草に隠れるくらい姿勢を低くすると、ようやく納得してくれたのか先へと進み始めてくれた。
……。
そうして移動した先は胸の高さほどもあった草地から、低木がまばらにぽつぽつとしか生えていないサバンナみたいな地形の場所。こうなると周囲に身を隠せる物陰がなくなるので、ボクもようやく普通に立って歩くことを許された。
「あう。あうおう…」
「え、なに?ここで止まればいいの?」
なにも見当たらない場所。でも手で制されたので歩みを止める。すると野生児くんはボクは止まったのを確認して、ひとりで先へと進みだした。
「いったいこんな場所になんの用があるんだ…?あっ!」
と、野生児くんの向かっていった先にある小さく盛り上がった地面に、急に何匹もの動物が姿を現した。
「動物?え、でも後足で立ってる…。まるでミーアキャットみたいだ…」
うん、なにかの動物番組で観た程度だけど、そんな感じの動物。大きさや顔立ちも、かなりミーアキャットに近い。
そんな動物に野生児くんが近づいていくと、何匹かいたなかから2匹が応対するように前へと出てくる。そしてなにを話してるのかは解らないけど、明らかに交渉しているように見えた。
「え?あの子って、もしかしてあの動物たちと話ができるの!?」
―質問に回答します。データベースに該当するデータが存在しないか、アクセス権限がありません。ですが現在視界に映っている存在は、動物よりも知性の高い獣人種である可能性があります。
「獣人種?人間以外にもそういった知的生物がいるってこと?」
―質問に回答します。一定の知的水準に達した生命体が、人と呼称されるよう設定されています。
「そうなんだ…。あ、アレ。もしかして器、お碗…なのかな?」
脳改造さんと話している間に、野生児くんは何かをミーアキャットに渡した。するとそれを確認したミーアキャットが頷き、もう一方のミーアキャットが近くにあった穴に潜ると器のようなモノをだいじそうに持って出てきた。
それをミーアキャットから受け取った野生児くんは、お碗に口をつけ喉を鳴らすようにして飲み始めた。
「あ、やっぱりあの子!交渉して飲み物を手に入れたんだ!」
スゴイ!言葉も碌に喋れないような子なのに、どうしてそんなことが出来るんだろう。
そうしてしばらくすると野生児くんが器を手に、ボクの所へもきてくれた。
「あう」
「ボクにもくれるの?ありがとう!あ…」
器は、なにかの種子の殻のよう。そしてその器の底には、一口分にも満たないような水が残っていた。
「ああ、でも恵んでもらってて文句も言えないか…。ありがとう、いただきます」
(あ、おいし…)
器の水に口をつけると、ほんのりとした甘さとスッとするような香りを感じる。水にライチの果汁をしぼったような味というのが、近いだろうか…。
「あう!」
「あ、器は返さないといけないのね。はい、わかりましたセンパイ」
いつまでも味の余韻に浸っていたら、飲み終わったなら早く器をよこせと野生児センパイに怒られた。
うん、身体はちいさくて年下だけど、ボクよりココのことをたくさん知っている。ならボクはこの野生児センパイを見倣って、ここでの生き方を身に付けよう。