berry
ボクは泣いた。
丸くなって。ひざを抱えて。
泣いてる場合じゃない。そう思って我慢しようとしたけど…、できなかった。
ありえないような事ばかりが起きて、理解を超えた事態にずっとパニックを起こしてた。でもそれが落ち着いてくると今度はどうしたらいいのかサッパリわからない状況に、不安と焦りばかりを覚えて怖くなった。
脳改造さんがいうには、このままだとボクはもうすぐ死んでしまうらしい。
「うぅ…、ヤダ。死にたくないよ…おかあさん。お母さんも死んじゃう前は、こんな風に怖かったの…グズッ…」
去年の暮れに病気で亡くなってしまった母の顔が瞼に浮かび、また涙が出てくる。
「なんで…なんで水分がないのに涙は出てくるんだよう…。うぅ、父さん。急にいなくなって心配してるだろうな。お母さんが亡くなって父さんも落ち込んでたから…、ボクまでいなくなったら父さんがひとりになっちゃう…」
そうしてボクは、いつまでもグズグズと泣いていた。
…。
すると、不意にボクの頭のうえになにかがとまる。
軽く、小さいモノのようだったので鳥かと思った。小学生だった時、仲の良い友達にペットのインコを見せてもらったことがあった。とても人に慣れたインコで、初めて会ったボクの肩や頭にもとまってくれたのが嬉しかった。
その時と似た感触を、頭に感じたんだ。
でも、目を開けて顔をあげると目の前にはあの原始人みたいな恰好をした野生児がいて、なぜかボクの頭に手をのせていた。
「あうあう」
(え…?)
なんと言ったのかは解らない。けど、「おまえだいじょうぶか?」と、心配されてるのだなと察した。
(え、あ!ボク…こんな、こんな小さい子に心配されてるのッ!?)
そうだ。ボクよりも小さな子がこんな場所でも逞しく生きてるのに、身体も大きくて歳も上なボクの方が膝を抱えてベソをかいている。
その事実を理解すると、ショックと恥ずかしさで顔が熱くなった。
と同時にボクのワイシャツを盗んで今も着ている野生児くんが、やさしい面も持っている子なのだと知れてちょっぴり嬉しかった。
「おうおう?」
「あ、いや。お腹が痛いわけじゃないんだ…」
野生児くんがボクのお腹を指差してなにかを問う様子をみせる。
それを丸くなって泣いていたのを、腹が痛いのかと訊かれた気がしたので違うと答えた。ああ…でも、すこし胃は痛くなってきてるかも。きっと空腹とストレスで胃酸が濃くなってるんだろうな。
すると着ているワイシャツの胸ポケットを覗きこんだ野生児くんが、ポケットからなにかを取り出し渡してくる。
「え、コレをボクに…?くれるの?」
「あうあう」
渡されたのは数粒のちいさな実。つぶつぶした感じの、ベリーみたいな実だ。
「ありがとう。お腹が空いてたからとっても嬉しいよ」
すこし匂いを嗅いでみると、ちょっと土埃っぽいけど瑞々しい果実の香り。それに低血糖な状態に陥ってる今のボクには、甘いモノはなによりありがたい。
「いただきます。脳細胞さん、検査よろしくね…」
脳細胞さんに毒の検査を頼みつつ、舌のうえにのせしばらく回答を待つ。
―チチチ…。身体に深刻なダメージを与えるレベルの毒物は、検出されませんでした。この果実は食用することが可能です。
(ホッ…よかった)
それを聞き、安心して舌の上で転がしていた果実を噛みつぶす。
「んぅ~ッ…酸っぱい!でも…、甘みもあって美味しいよ!」
「あうあう!」
口のなかに広がっていく果実の酸味と甘み。でもそれはボクの心にも沁み渡るようで、心にも元気が湧いてくる味だった。