cry
頭のなかでバチバチと閃光が走って、痛みとまっ白いのと…。もうなにがなんだか…、どうしてボクがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
すると奥の奥まで突きこまれていた棒が、今度はゆっくりと引き抜かれていくのを感じた。それに鼻の粘膜が引き摺られ、と同時に脳みそを搔きだされるような感覚にも襲われる。
(あが…!うがが…ッ!!)
そうして鼻から金属の棒が引き抜かれた瞬間、おもいっきりくしゃみが出た。
「ぶぇっくしゅッ!!」
くしゃみの勢いでカラダがくの字に曲がる。でも頭を押さえつけられていたせいで下半身だけが跳ね、膝にドンと鈍い痛みが走った。
(エッ…?)
気付いた時には金属の棒を持った宇宙人の肘に膝が当たっていて、左側からボクの頭を押さえつけていた宇宙人の黒い眼にその金属棒が突き刺さっていた。
「ゴェェッ!?」
(あ、刺さってる…。それに…動ける!)
カラダの左手では金属棒を持っていた宇宙人が眼にソレが刺さった宇宙人を助けようとしてしているものの、痛いのか手足をばたつかせて暴れる相手に近づけないでいる。その様子に慌てるようにして、右側からボクの頭を押え込んでいた宇宙人の力が緩んだ。
(コイツゥ!)
そこで腕を持ちあげ、デタラメに振るった。動くようにはなったけど、神経がバカになったみたいに細かな加減が利かなかったから。
それでも右手にいた宇宙人に腕が当たると軽く弾き飛ばし、上体を起き上がらせることができた。すると鏡みたいになった金属に映った顔は、いつのまにか流していた涙と涎でべちゃべちゃ。視界も滲んでいる。喉もひどく痛むのは、きっと声にならない絶叫をあげていたせいだ。
くやしい…。腹立たしい。ちょっと気持ちイイかもなんて思ってしまった自分のバカさ加減も含め、この場にいる全員を殴りつけてやりたいという激情に駆られる。
「このばかぁーッ!」
寝かされていた診察台の上からグリグリしてきた宇宙人を蹴り飛ばすと、台の上に置いてあった器具を掴んで殴りかかった。
でも「ぽきゃ」とか「ぱきゃ」と軽い音がするだけで、ぜんぜん威力がのらない。
(なんで…?あ、きっとココは重力が地上ほどにはないんだ!)
それでも小柄で華奢な宇宙人にはそんな攻撃でも効いたようで、1体はその場にへなへなと崩れ落ちた。
(よし、でもそれなら…!)
重力が少なくても作用反作用なら働くかもと、診察台をしっかりと掴んで回し蹴り。眼に棒の刺さった宇宙人を右手側にいた宇宙人へと蹴り飛ばすと、倒れ込んだ2体の上に襲いかかった。
「ボクになにをした!バカッ!もとに戻せ!地球にかえせよ…ッ!」
そうして宇宙人を殴っていると、突然部屋の壁だったところが開いてなぜか人が入ってきた。
(え、人間!?ボク以外にも捕まったひとが!?)
でもその人は見た目は人間でも、眼や雰囲気がひどく異質に感じられた。
「ぎゃああああ!」
突然全身を走る激痛。霞む視界に、部屋に入ってきた人がボクに何かを向け発射してるのが辛うじて視えた。
(や、やっぱり…、この人は人間じゃないんだ!)
それでもなんとか逃れようと身を翻し、倒れ込みそうになるカラダを支えようと棚に手をついた。すると棚が火花を噴いて爆発。その破片を思い切り浴びてはげしく吹き飛ばされた。
「ぎゃああああ!」
痛い…。痛いことばっかり起きて泣きそうになる。ていうか泣いてる。うぅ、痛いよ…。
手からは煙があがってる。
高電圧の電撃でも浴びせられたみたい…じゃない、浴びせられたんだきっと。
「あぁ…。ヒュ~…、ヒュ~…。」
苦しい。変な風に喉が鳴って、呼吸がうまくできない。でもボクがボロボロになったのと同じように、この部屋からもあちこち火花と煙があがっている。
(どうだ、みたか。偶然だったけど、一矢報いてやったぞ…)
どれくらいのダメージなのか想像もつかない。けど何も言わぬ男の不満そうな表情からそう感じとった。でも男は煙を噴いている部屋の中でも落ち着いた足取りで壁に向かうと、そこにあったパネルを操作し何かを投げつけてきた。
そしてソレが身体にぶつかった瞬間、ボクは青い光に包まれ空から落ちるような感覚を覚えたのだった。