はじまりの春
3年ぶりぐらいの投稿です。
誹謗中傷、お控えください。
こちらの作品は完全オリジナルになります。
(本作は、過去在学中に学祭にて発表したものになります)
「起立、気をつけ、礼」
号令係りのクラスメイト独特のリズムの挨拶でまた、今日が始まった。
声に従って動く私たちと明らかに違う動きをしているのは、私、_水澤葵_の隣の席の男子生徒_高木堅二君_だ。
高木君の動きはゆらゆら船をこぐ勢いで頭を右へ左へと忙しなく揺らしている。
先生もいつものことだ、というように華麗に無視。
「着席」
この2文字が聞こえた瞬間誰よりも早く席に座って腕を枕にうつぶせになって寝始めた。
寝るのはやっ。
高木君は本当に良く寝る。授業中でも講演会、全校集会でも。とにかく、寝る(2回目)。そのため、ついたあだ名が‘眠り姫’ならぬ‘眠り王子’だし、先生からは目を付けられるわ、授業内容わかんかくてテストが悲惨な点だったりする。けど、休憩時間は周りがうるさくなり、その騒音で目が覚めて教室内なのにクラスメイトたちとサッカーや野球をしたり、ゲームしていたり、話して、笑って……と忙しい。
けだるげな姿も好きだけど私は屈託なく笑って場を明るくしている高木君自身明るいとこが好きだったりする。ほかにも好きなところはあるけど長くなるからまた今度。
「今日は通常授業で委員会も特になし。部活やバイトに励めよ~。」
担任の神楽崎先生の言葉をボーっと高木君見て聞き流す。
私、水澤葵は名が良家のお嬢様のようにみえるがいたって普通の女子高生。特に秀でた部分なんてなにも――
「あるよ。」
くぐもった声。ふっと横を見るとこちらとじっと見つめる高木君。
「え、どこが?というより、起きていたの?」
「ん~。なんかぶつぶつ言っていたから目ぇ覚めちゃって。秀でた部分、あるよ。面倒見の良いとことか、頼まれたら断れないとことか。」
「面倒見がいいのは認めるとして、頼まれたら断れないってそれ性格の話じゃない?」
まぁ、面倒見よくなかったら第一、高木君のお世話係りなんてならないよ…。
「だって先生に頼まれたんでしょ?俺のお世話係。
現に今やってるんだし、結局断れなかったのは事実なんだし、水澤のいいとこだよ?」
言葉がだんだん小さくなっていくとともに高木君の耳も赤くなって不貞寝の体制に入ってしまった。
「あ、ありがとう……」
なんか恥ずかしい。褒められるのは自慢じゃないにしろ、結構ある。けど高木君ほどストレートでほめられたことはないし、そんな風に高木君の目に映っていたことが嬉しかった。
「おーい、顔が真っ赤な初々しいカップルの高木・水澤ペア~。席立て、号令かけっぞ~。」
「「カップルじゃないっっっっ!!! (ですっっっ!!!)」」
『(完璧なハモリ、相変わらず息ぴったりだなぁ)』
神楽崎先生とクラスのみんなから生温かい視線を受けた。みんな、感心しないでよ~!
この空気をどうやって戻せばいいんですかっ、この後の休憩時間にからかわられること間違いなしだよ!
「気をつけ、礼」
一連の動作をして席に着くと女子たちがニヤニヤしながらこっち来た。来ちゃったよ…。
「葵~、相変わらず仲いいね~、高木君と!」
「もう付き合っちゃえば?」
「そーだよ、高木とあんなに話すのミズちゃんだけだよ~?脈アリアリだよね~。」
「たしかに~…。」
少し黙って聞いていると言いたい放題だなぁ。脈あるかないかなんて知らないよ。
「いい加減野次馬発言はやめたら?彼氏がいないからって葵をからかうなんて。嫉妬は見苦しいわよ?」
かぐや! ありがとう~。なかなか思ったこと口に出来ないからちょっと困ってたんだよね。
かぐやの一言は結構ココロにグサッと刺さったみたいで逃げるかのように自分たちの席に戻って行った。
「ありがとね、かぐや。助かったよ。」
「相変わらず、囲まれると上手く口が動かないのね。」
「うん。緊張しちゃって…」
「少しは夏夜乃を見習ったら~?」
「夏夜乃は一言二言多いからやめといたら?」
「かぐや辛辣ぅ!」
ケラケラとお腹を抱えて笑うのは夏夜乃。朱里城夏夜乃。夏夜乃は腰までの長い髪をバレッタで留め、高校生には見えない幼児体型の女の子。
どこかお嬢様を思い浮かばせる口調なのはかぐや。竹野かぐや。竹取物語にあやかってついた名前なんだとか。夏夜乃と正反対で彼女は静かで大人っぽい。が、その反面、はしゃぐ時は壊れたラジカセの如くハイテンションになる。
二人とも私にとって頼りになる大事な親友だ。
「ていうか、なんで私があんなに集中的にからかわれなきゃいけないの?すっごい嫌なんだけど。人の恋路に手ぇ出さないでほしいんだけど。」
「馬に蹴られちまえっ! てか?」
「ほんとだよねぇ」
「このクラスは恋愛よりも趣味の方が大事っていう人が多いもの。その中で一生懸命恋してるどこかの誰かさん見てると応援したくなるんじゃない?あたしも夏夜乃も彼氏はおろか、好きな人すら居ないのよ?そうしたら必然的にからかいの的は葵に集中砲火するでしょうに。プラスでその相手は自分たちと同じクラスのの高木だし。」
「そーだよー。夏夜乃はかぐやとユリユリする予定だからそこはほっといて~。」
「えぇ!? 私だけ蚊帳の外なの!?」
ポイってゴミ箱に捨てられたきぶんだよ!?……あ、なんか目がにじんできた。
「なんで目潤ませてんの、葵」
「潤ませてないよ、にじんできたの。」
「意味一緒だと思う」
半分呆れて笑っているのは硯秀哉。小・中・高と学校が同じでサッカーバカでもある。低いような高いような中性的な声を持っていて周りの子の声よりも高い声が出ると目立つのでそこがコンプレックスなんだとか。私は好きだけどね、落ち着くから。そんな彼には他校の彼女が居るらしい。らしい、だから本当はどうだかわかんないけど。出所は不明。
「高木はそんなに寝てておかしくならないの?」
「ん~あまり。秀哉がサッカー誘って身体動かしてるし、水澤さんが授業の内容かいつまんで時々教えてくれるし」
「流石は堅二のお世話係、そこまでしてるとは思わなかったよ葵。」
「というか人任せすぎ~。堅ちゃんずる~い」
「高木がちょっと道外れてるだけなんだからそこ羨ましがらないの、夏夜乃」
「でも~」
ほら授業始まるから戻るよ、と首根っこつかんで席に戻るかぐやと夏夜乃。
「秀哉、僕ちゃんとしなきゃダメなのかなぁ…」
「そりゃいつかはな~。でも俺は少なくとも今じゃない気がするよ」
そのいつかっていつだろう…。そんなこと言っていたら高校生活終わっちゃいそうな気がするのは私だけ?
「この生活気に入ってるんだけどなぁ。」
ぐて、と机に突っ伏して窓側の特権である日の光を浴びて目を閉じる高木君。
絵になるよねぇ、本当に。どうして日焼けしないんだろう。日を浴びながら寝てるのに。
「ふぁ~あ、よく寝たぁ」
ぐぐっとのびをして笑う高木君。ああもう可愛い。ぶっちゃけこの表情を見たいがために甲斐甲斐しく世話して高木君の隣は私、とイメージをつけさせたのだ。道のりは長かった…。でも、長かったぶん今がとっても幸せ。高木君の寝顔見放題だし…。
「おはよ、高木君。相変わらず気持ちよさそうに寝るね」
「おはよ~。ここ寝心地最高。布団あればいいのに」
「お前もう家帰れ!」
秀哉が頭をはたいてなんだよぅといじける高木君。
「帰っちゃったら水澤さんと話せないじゃん」
「はい!?」
なんか爆弾落とされたよ、顔に熱が集中してきて赤くなっているのを見られたくなくてかぐやのところへ逃げた。
「わ、私、かかかかかぐやのとこ行ってくる!!」
「あ、行っちゃった」
「無自覚は罪だよ~、堅ちゃん」
「なにが?」
「ダメだこりゃ…」
私は高木君に言われたことだけが頭の中をぐるぐる回っていて高木君と夏夜乃の声なんて聞こえなかった。
「か、かかかかぐや、た、たたたたたたぁかぎ君に、」
「そんなどもってたら何が言いたいのかわかんないわよ、いったん水飲んで落着きなさい。ほら、水。」
息もつかずにかぐやの水筒を飲み干す勢いで飲んだ。
「ぷはっ」
「いい飲みっぷり。落ち着いた?」
くすくす笑うかぐやを見ると摂取した水分とともに熱かった身体がすうっと冷えた。
「うん。ありがとう、かぐや。実はね…」
― 出来事説明中 ―
「そっか、葵も女の子だもんねぇ」
「今の説明でどう解釈したらそんなコメントになるの!?」
うんうんと腕を組んでうなずくかぐや。全然意味わかんないんですけど!!!
「そのうち気が付くよ。硯、あとはよろしく。んじゃ、今日は用があるからまた明日。」
「あ、うん。また明日。」
「よろしくってあいつ…はぁー」
ひらひらと手を振り教室を出ていくかぐやを見送ると今日の日誌を書いている夏夜乃を見て、帰る準備をしている秀哉の机に寄り掛かった。ちなみに高木君は言うだけ言って帰っちゃったのか姿が見当たらない。
「秀哉、高木君のあの言葉の意図わかる?」
「知るかんなもん。堅二が葵のことぞっこんとしかわかんねぇよ」
「わかってるじゃん!! え、ちょ、どういうこと!?」
高木君が私のことぞっこんってそんなの…そんなのあるわけない。
「認めようとしない幼馴染にコメントをつけよう。いい加減気づけよ、人の気持ちに。俺のほうが先だったのに……!」
がたっと秀哉が席を立つ音がやけに大きく教室内に響いて思わず目をつぶるとその瞬間、私は秀哉の大きな身体にこれでもかと強く抱きしめられていた。
「秀哉!?」
「ったく。堅二の野郎め、明日晩飯奢らせる…こんな予定じゃなかったつーのに。葵。一度しか言わないから。」
「うん?」
ここまでの前フリがあれば相当鈍感な人じゃないかぎり察しがつく。
「小さな頃からまっすぐな水澤葵が俺は、好きだ。大好きだ。葵の心に俺は居ないことは知っているしお前の恋路を邪魔するつもりは毛頭ない。……けど、俺は葵のことが好きだってことは知っておいてくれ。」
「秀哉…。ごめんね。というか彼女さんいたんじゃなかったっけ?」
気が付いたら教室には誰もいなかった。みんなわざわざ気を聞かせて出て行ったようだった。
秀哉が好意を寄せていてくれたことは全然気づかなかった。秀哉から告白されたら高木君の屈託なく笑う笑顔を思い出して無性に高木君に会いたくなった。
「ああ。知ってる。謝んなよ。彼女とはもう別れた。
行って来い、きっと校門で待ってるよ」
抱きしめられていた腕の中から解放され背中を押され私は走りだした。
だから、秀哉がこのとき泣きそうな顔をしていたことなんて高木君に会いたい気持ちでいっぱいいっぱいだった私には知る由もなかった。
階段を下りるのがこんなにももどかしい。まだ2階。やっと半分。私の教室は4階で景色だけは綺麗だけど教室に行き着くまでが長くて疲れる。また、逆もしかり。
水澤―、と先生方からお声をかけられるけど全部すみませんまたあとで!と返し上履きからローファーに履き替える。
走って、走って、走る。
けだるげに校門によっかかるのは。
「高木君」
「水澤さん」
つむっていた目をゆっくり開く彼。
「秀哉のことはいいの?」
「うん」
「そっか」
「帰ろっか」
「……そうだね。」
テンポよく進む会話の中で、くしゃりと高木君が持つ袋が音を立てた。
少し歩いて高木君は立ち止った。
「高木君?」
「水澤さん、ひまわりの花言葉って知ってる?」
「ひ、ひまわり?…うーん、わかんないや」
「ひまわりの花言葉はあなただけを見つめる・崇拝・愛慕。僕は水澤葵さんが好きです。よければ付き合ってくれませんか」
袋からひまわりを差し出され思わず受け取る。
「ひまわりって太陽に向かってまっすぐ伸びるでしょ?まるで水澤さんみたいだなって思って。」
「そう?」
今まで見たこともない優しげな目。まっすぐ射抜かれて腰砕けそうだし胸もドキドキと高鳴る。
「でも、嬉しい。私も高木君のこと、好きだよ。ありがとう。よろこんで。」
「いいの?」
パァァァァと輝く表情。ああもう可愛い。
「付き合うこと? なら付き合わないでおく?」
「それは嫌だけど…本当に僕でいいの?」
2回も同じことを聞く彼は自分に自信がないのだろうか。
高木君の面倒くさいところで魅力的なところだ。ころころ変わる表情は見ていて飽きない。
「私は高木君がいいな~」
「ならいいけど…」
「そんな気にすることないって。付き合い方なんて人それぞれなんだし、ね」
手をさりげなくつながれて、顔に熱が集まるのを感じた。
はじまりの春、いかがでしたでしょうか?
春夏秋冬と続く予定なのでお付き合いよろしくお願いいたします!