大好きだった幼なじみを1260万で買って惚れさせようとしたら完璧メイドになっちゃったんだが
僕、時透 直人は十二歳の時に1260万円で彼女を買った。
彼女というのは僕の隣の家に住む幼じみの花平舞のことだ。
まずは、僕の生い立ちより彼女の生い立ちを話したほうがいいだろう。
彼女は都心から少し離れたとある小さな町で生まれ育った。
僕には彼女が幸せそうに見えた。
『はやく、はやく~』
明るい母親と優しい父親と共に楽しそうに走っていく後ろ姿。
彼女たちは僕が持っていないモノを持っていた。
だが、その幸せもあっというまに崩れていった。
「飛び込み自殺」
彼女の父は、出勤する際に乗り込むはずだった電車に飛び込み命をおとした。
その際に、ダイヤの遅延行為の慰謝料として鉄道会社から1260万円を支払うように要求された。
しかし、中小企業に勤めていた父と専業主婦だった彼女の母には貯金という貯金がなかったため、あまりにも支払える額ではなかった。
だが、僕なら払える。
「時透」、これは僕の父が会長を勤めている大手企業だ。僕は、父に「常識を学べ」と言われて、庶民の町で育った。
必要最低限の生活費しか支給されていないため本来なら払えるわけはないが、僕には父から何かあったときに使っていいと言われていた金があった。
それを、使えば彼女を救うことが出来る。
だが、僕が金をポンと渡しても、相手はなんの真似だと戸惑い、怪しむだろう。
故に、僕はこうした。
『取引をしよう。君たちの慰謝料を僕が代わりに支払う。だから、舞をくれ。』
思い返せば、あれが全ての間違いだったのかもしれない。5年たった今でも、僕は舞を金で買ってしまったことを後悔している。
なぜなら、僕と彼女の時間はあの瞬間に止まってしまったのだから。
「ご主人様、朝食のお時間です。」
無機質な声でそう告げてくる舞。
なぜだ。どうしてこうなった。
あの当時、気になっていた女の子にカッコいい姿を見せれば惚れてくれるんじゃないかと思っていた。
だが、世の中そんなに甘くなかった。彼女は僕の彼女ではなく、僕の完璧なメイドになってしまった。
「あぁ、今行くよ。」
日課となった朝の読書を止めてリビングへと向かう。今の彼女は大きく変わってしまったが容姿はあの当時の面影もしっかりとあり、かわいい。てか、めちゃくちゃかわいい。
だから、僕は彼女の前ではひたすらカッコつけている。正直言ってまだ惚れている。だから、惚れさせたい。
舞は「私に出来ることはなんでもします」と言って、家事全般をすることを自ら引き受けてくれていた。
「今日の、朝食もおいしいよ。」
「お褒めにいただき恐縮です。」
うん。会話終了。
彼女は僕の家で寝泊まりするようになってから全く会話をしてくれなくなった。昔は『なおくん!なおくん!』なんて、言ってくれていたのに…
これは、僕のコミュニケーション能力のせいなのか?いや、断じて違う。た、たぶん。
「今日はテストの日なので少し早めに参られますか?」
「あぁ、そうするよ。」
僕はいつも、テストの日は学校に一番乗りに登校する。その理由は、勉強するためのじゃない。精神統一するためだ。これが、案外馬鹿にできないモノなのだ。
僕は、テストですべての教科100点を取らなければならない。なぜなら、舞にカッコ悪いところを見せられないからだ。
だが、これがかなり大変で昨日も2時間しか寝ていない。
「っ!」
「ご主人様!大丈夫ですか?」
そんなことを、考えていると眠気のせいか少しふらついてしまった。
いかん!カッコ悪いところは見せられない!
冷静さを取り戻すと、ふわりとした良い匂いがした。
ときどき、思うことだ。なぜ、同じ柔軟剤を使っているはずなのに彼女の匂いは良い匂いなのかと。
甘くて優しい花のような匂いが、僕を包みこんでいた。
「すまない。少し、足を絡ませてしまったようだ。」
「大丈夫ですか!お怪我は!?」
本気で僕を心配してくれる舞、ときどき覗かせる昔の愛らしい彼女が懐かしい。
「あぁ、大丈夫だよ。さて、学校に行こうか。」
学校の校門に着くと、いつもとは異なる時間に来たため僕を初めて見た子たちがキャーキャー盛り上がってしまった。
まぁ、仕方ない。僕の家系は美男美女が多く、僕も例外ではなく美形なのだ。
僕は、彼女たちに軽く手を振ってやった。
「きゃー、手を振ってくれたわ!」
「時透く~ん!付き合って~」
おいおい、モテモテじゃないか。
ここは、もう少し…と思った僕が馬鹿でした。
「でも、あの2人って付き合ってるんでしょ?」
「ちっ」
静寂――
え?もしかして、今の舞?
周りの子達を見ると、異様な雰囲気に身を縮こませてしまった。
てか、ブルブル体を震わせている。
え?なんで?
不思議に思い、後ろを振り返る。
すると、鬼の形相で彼女たちを睨み付ける舞がいた。
「ま、舞?」
「っ!、失礼しました。」
深々と頭を下げる舞。
「いや、頭を上げてくれ。謝ることじゃないから。」
多分、舞が怒った理由は「僕と付き合っている」なんて言われたからだろう。ならば、舞に非はないはずだ。
頭を上げた舞。うん、いつもの、舞だ。だけど、ちょっと凹んだな…
しょげていると、校門から賑やかな男子グループが来た。
「おい!あれ、花平ちゃんだよな!?」
「やっば、かわいすぎでしょ!」
あいつらの、盛り上がりの理由は舞か…
はぁ…殺すぞ?
僕は彼らに近づいて行った。
「な、なんだよ。」
「お、おい。あいつ…」
なにか言っているが、知らん。
「君たち少しお話をしないかい?」
そして、僕は彼たちに罪の深さを知ってもらった。
話の通じる人たちで良かったよ。
テストと無事に終わった。あの、内容ならおそらくすべて満点だろう。
その時、前から複数の影が現れたことに気がついた。
「おいおい、これが時透かぁ?女を連れ回して良いご身分だなぁ。」
7、8人の男たちが、僕と舞を囲むようにして立っている。
「はぁ、やれやれ。どうしたものかな。」
ほんとに、どうしよう。彼らは、不良集団だろう。てことは、僕に絡んできた理由は…
「兄貴…、あの女が例の…」
「ん?おぉ、ほんとだ!美人だなぁ、」
舞に指を指すチンピラ。
こいつら、殺すぞ。
舞は、美人だ。故に、こういったやつらに絡まれることは何度かあった。
その度にボコボコにしてきたのだが、数が多い…。
どうしたものか。
「けっけっけ、かわいいな舞ちゃん。僕たちと遊ぼうぜぇ」
チンピラのリーダーがぐいっと前に近づいてきた。どちらにせよ、舞にはカッコ悪いところは見せられないな。
僕は、一気にチンピラのリーダーに近づきドロップキックをかました。
完璧。仮面ライダー1号を参考に練習した甲斐があったものだ。
「て、てまぇ。やりやがったな!」
お、雑魚がなんか言ってる。だが、無駄だ。
素人の動きじゃ、掠りもしないだろう。僕は空手、ボクシング合気道などの技を舞のためにもなるだろうと極めているんだ。
そして、バッタバッタとチンピラをなぎ倒していった。
「くっ、だったら」
すると、チンピラの1人が舞に近づいていった。
まずい!舞に手を出されたら!
僕は慌てて舞を助けに行く。
だが、どうやら必要なかったらしい。
「この女が―――ぐへっ」
チンピラが吹っ飛んでいく。それは、鮮やかなボレーシュートのように。
「えっ?」
イマノマイガヤッタノ?
衝撃。舞がこんなにも強いだなんて知りもしなかった。
「でしゃばった真似をすみませんでした。」
「あ、いや、驚いただけだ。別に責めてないよ。てか、あれは…」
「はい。ご主人様の体に何かあればお守りするのが私の役目ですから、特訓しました。しかし、先程はご主人様がどこか楽しんでおられるご様子だったので手出しをしないほうが良いかと愚考いたしました。」
「ほっ、ほえー」
特訓してたんだ。えらいなー。
じゃないわ、まずい。舞を守れてる、くぅー。って思ってたことバレてんの!?
「あぁ、ありがと。そして、無事で良かった。」
そうして、僕はポンポンと舞の頭を撫でた。よし、これで楽しんでたことを流そう。
そう、考えていると。
「わ、わた…わたじ…」
舞が突然泣き出した。
え?そんな嫌だった?ナデポン。まだ、レベルが足らなかったのだろうか…
そう思っているとどうやら違ったらしい。僕の胸に飛び付き泣いていた。おそらく、さっきのチンピラが怖かったのだろう。
僕は泣いている舞を背中に、家に帰った。
その日の夜。舞が僕の部屋を訪ねに来た。
「ご主人様、コーヒーをお持ちしました。」
「ん?あぁ、ありがと。」
そわそわしている舞。どこか様子が変だ。なにかあるのだろうか。
「あの!ご主人様にお話がありまして!」
「はいっ!」
反射的に「はいっ!」といってしまった。舞が、大声出すなんて珍しい。
てか、恥ずかしい。
「ど、どうしたんだ?」
できるだけ平然を装う。カッコよく!スマートに!
「あの…今日はありがとうございました。」
ん?あぁ、チンピラの件だろうか。
「なにいってるんだ。舞を助けるのは当たり前のことじゃないか。」
「当たり前…それは、なぜ当たり前なのですか?」
「え?そんなの好きだからに…」
やべぇ!寝不足+テストがあったから頭が回らなかった。
ど、どうしよう。どう、機転をきかせれば…
「ご、ごしゅじんざまぁ」
え?泣いてるの?そんなに、嫌だった?さすがに凹む。
「いや、そのさっきは…不快な思いをさせてしまってすまない。」
終わりだ。舞を惚れさせ計画が…
「ふかいじゃ、ありまぜん…う、うれじいです」
「ゑ?」
うれじい?嬉しいってことだよな?うれ爺じゃないよな?てか、誰だよその爺。
僕が困惑していると続けて舞がこう言った。
「私…ご主人様のことが好きでした…でも、ご主人様は、私に冷たくして…。私、好かれてないと思って…」
なんてことだ。僕のカッコつけが舞に冷たいと思われていたとは。
「舞…ちがうんだ。僕はお前に好かれたくて…」
情けない。彼女を泣かせてしまってその言い訳をするなんて…
「え…?」
困惑している舞。
僕はそんな舞に抱きついた。
「僕は…舞に惚れて…いや、舞が好きなんだ。だから、カッコつけていたんだ。それが、舞に冷たいと感じさせていたことを知らなかった…。ごめん」
心からの謝罪。舞が勇気を出してくれなければ僕はこのことに気が付かなかった。
「いえ、私も…その、ご主人様に好かれたくてクールを装っていたので…」
「え?そうなの?」
―なんでそんなこと―という言葉が脳をよぎったが同じことをしていた自分が言えることじゃないな…
頬を赤く染めてチラチラとこちらを見てくる舞。
正直、僕は舞に性的な感情を持ってはいなかった。そういうことをしたいんじゃなくて、守ってやりたい、大切にしてあげたい。
だから、いつかはあるだろうがそれはもう少し後だろう。と、こころの中で思っていた。しかし、いつもは白いその肌を真っ赤にし、少し潤んだ瞳でチラリと覗きこんでくる舞が美しく、愛おしい。
覚悟を決めたかのようにギュッと手を握ってきた。そして、目を瞑った。
あぁ、そうか。
僕は、舞の唇に僕の唇を重ねてこう思った。
時間は止まってなどいなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
お正月にやっと休みができたので寝正月もなと思い書かせていただきました!
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