~異世界に南国リゾートがないなら創っちゃおう~
中から怪しげな老婆が出てきた。
腰は曲がりきり、顔には隙間無く深い皺が刻まれていて、痩せた様子から干からびたトカゲを連想させた。
「どうぞ、お入り下さいませ。あなたが求める旅行プランを必ず提示しますよ…」
うまく断る言葉が咄嗟に思い付かず、袖を引かれるまま店内に入った。
強い匂いのお香、緩やかな弦楽器のBGM、柔らかく身を包むソファーなどに気を取られていると、麦茶らしきものが入ったコップが出された。
礼儀として一口飲むと、それは麦茶ではなく、薬草を抽出したような不思議な味がした。
「大分お疲れのようですね。貴方に合う旅行先は、雪国の温泉郷か南国のリゾート地でしょうかね」
一言も話してないにも関わらず、言い当てられて驚いたところ、
「失礼しました。南国のリゾート地がお望みですね。これまでにご旅行で不満がありましたか?」
2択を瞬時に見抜かれた事に驚きながらも、質問に答えることにした。
「そうですね、高いプランにすると高級ホテルの生活感が薄くてイマイチなことがあるのと、安いと逆に不衛生で旅行が台無しになってしまって中々自分に合うのがないのが不満ですかね」
老婆は一言も聞き漏らさないような構えで眼を見開き、口を真横に引いてハァ、フゥ、ホォと不気味な相槌を打っていた。獲物を舌舐めずりしているように見えるのは俺の思い過ごしだろうか。
「そんな工藤様にピッタリの旅行地が御座います!まだ無名ですが、オルガという常夏のリゾート地で、ゴミ一つ無い白い砂浜、透明な海、赤い珊瑚礁があなたを待ってます!」
あれ、ちょっと待て、今俺の名字を言わなかったか?名乗ってないのに。
「口コミでこのオルガの魅力を伝えるべく、今キャンペーン価格、50%オフでご提供!」
「あの…」
「不安になるのも分かります!でもキャンペーンはあと2ヶ月です。今なら無料で最高級クルージングが体験出来ます!」
疲労困憊の状態でマシンガン営業トークを喰らい、意識が朦朧としてきた。
「異世界でリゾートライフを送りましょう!」
「異世界…」
「おや、ビックリ!まだ意識があるのですね!ビースト・トライブ、デミヒューマノ・トライブとの闘争、共生を楽しみましょう!」
視界が暗転するなか、右手がごそごそと動かされる感覚があった。
「ご捺印ありがとうございます!それでは転生の儀を始めます!転生者の生存率は30%と高くない世界ですが、御達者で!」