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~異世界に南国リゾートないなら、創っちゃおう~
痺れる右手を懸命に動かし、パソコンをシャットダウンした。
デザイン性など欠片もない、画一的なオフィス時計を見上げると午後11時を過ぎていた。
バックに手早く荷物を放り込み、足早にエレベーターに向かう。
首、背中、腰は夕方から激痛でアラートを鳴らし続けている。
デスマーチを終え、身体の痛み、寝不足などの問題を棚上げし、牛丼屋へ向かった。
俺にとっての一択メニュー、ネギ玉牛丼を掻き食らった後、一年の最高の楽しみについて夢想を始めた。
28歳、一年中仕事に追われる俺にとっての唯一の趣味は海外旅行だ。
一年で唯一の閑散期である2月に強制的に取得させられる5日間の有給を使い、南半球のリゾート地でゆっくりと過ごす。
この唯一の娯楽の為に、爪に火を灯すような倹約生活を続け、ブラックな職場のあらゆるストレスに耐えてきた。
深夜の住宅街を歩いていると、一軒だけ煌々と電灯をつけた店が目に入った。
半年前に居酒屋が潰れたテナントに新しい店が開いたようだ。
「ITJ旅行代理店」という店舗看板が見えた。
立ち止まったこちらに気付き、中から人が出ようとする様が見えた。