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虫ハカセの夏、虫屋の夏。

作者: 大島美雨

こんにちは。大島美雨と書いて、「おおしま みあま」と申します。

この度、小説に挑戦しようかと思い立ったので、サラッと書いてみました。目にとどまった方には是非とも読んでいってください。

「本日の最高気温は37度ぐらいになるでしょう。今日は天気も良く……」テレビから流れてくるお天気情報をかき消すかのように、クマゼミが合唱していた。

 去年はこんなにうるさかったけな?そう思い出しながら少年は荷物を詰めていた。三角紙の代わりとなるパケに安い肩掛けの虫カゴ、お気に入りの図鑑を、まだお店の匂いが取れてないリュックサックに丁寧に詰めていた。今日は何を採ろうか?そんなことで頭がいっぱいだ。

中学に上がるまでは標本なんか作ったことなんてなかったが、昆虫が大好きで、小さい頃から周りに『虫ハカセ』と呼ばれていたぐらいだ。そんなオレも本格的な昆虫採集デビューをし、標本にした昆虫も数が増え、彩っていた。

玄関を出ると強い日差しが目を刺激する。思わず竹の虫取り網を握ってない手でキャップを深く被って目を隠す。「今日は日差しが強いって、言ってたっけな?」そんなことを思い出しながら、はやる気持ちを抑えつつも、足早にいつもの採取スポットに向かった。

汗を流し、重い足取りで山を目指しつつも、数少ない自販機を見つけては飲み物を買って飲み、そこら辺の草原に飛んでいるシジミやタテハ、アゲハを取って道草を食っていた。

そんなことをしているうちに採集スポットのある山にたどりついた。どうやらこの辺はオレが、いや、親が生まれる以上前から有名な採集スポットらしく、昆虫採集をする人が度々来るらしいが、まだ見たことが無い。

そんなことを思い出しながらふと足元を見てみると、黒くて大きい虫が山道を横切っていた。

見た瞬間に分かった。コイツはマイマイカブリだ。

カタツムリ、つまり、マイマイを食べるために殻を頭に被るからマイマイカブリ、そう言われている。そして、コイツには毒がある。その毒液は目に入ったら失明することがある。愛用している図鑑にそう書いてあるから確かだ。

お得意の昆虫の知識で、自分で自分にそう解説した。

だからコイツには絶対に触ったり、見ようともしなかった。

そこでふと顔を上げてみると、チラチラと紫色に輝く虫が飛んでいるのが見えた。急いで走り、その虫を竹の網の中に納めて手を突っ込み、取り出して早々叫んだ。「ムラサキツバメ!?やった!ゼフィルスだ!初めてゲットした!」

声にならない声を上げるや否や興奮した熱が冷めることはなかった。

「今日は何かいいことがありそうだ」そう心の中で鼻歌を歌いながら、最も虫が集まる展望台へと足を伸ばしていった―。

ここの展望台からの眺めはとても素晴らしい。疲れが一気に吹っ飛ぶ。

早速、台の上に背負っていたリュックを肩から下ろし、柵の近くまで寄り、網を片手にチョウチョが飛来してくるのを待つ。

汗が滴り落ち、皮膚が焼けそうになる中、黒いアゲハが目の前を横切った。

しかし、炎天下の中だったせいか、反応に遅れてしまい取り逃がしてしまった。

だが、大丈夫。アゲハチョウの仲間は蝶道と言う道を作っているから、また同じ道に来る。これも愛用している図鑑に書いてあったから確かだ。

そして数分後、再び黒いアゲハが姿を現した。が、今度は空振りをしてしまい逃してしまった。「これは長期戦になりそうだ……」ボソッと独り言をつぶやいてみる。

粘って待つこと数十分、黒いアゲハがまた飛んできた。竹でできた柄が今にもパキッと音を立てて割れそうなぐらい力を込め、精一杯に網を振った。

三度目の正直、白い網の中で黒いのがパサパサと暴れていた。

手を突っ込んで取り出してみると、緑色の鱗粉……間違いない、コイツはカラスアゲハだ!

そう思いながら大きめのパケに入れるために、リュックの置いてある台に向かおうと後ろを振り返ってみると、いつの間にかそこに立っている一人の若い男がコッチを見てニコニコ微笑んでいた。

キモいと怖いの感情が入り混じる中、黒いアゲハをパケに入れていると、「昆虫採集ですか?」

そう男が声を掛けてきたので、「そ、そうです……」と学校や家に居る時に出す、明るくはっちゃけた声とは裏腹に、露骨にもビビッてしまっているダサい声で返事をしてしまった。

そこで勇気を振り絞り、男に質問してみる。

「っあ、あなたは、観光し、しに来たんです、か……?」

「自分も昆虫採集です」

男は笑顔でそう返した。

しかし、男の手には網が無い。本当に昆虫採集しに来たのか?ますます怪しくなってきた。

再度質問してみる。

「あのお……あ、網はどこに……?」

「あぁ!網ですか?網ならリュックの中に……」

男はそう言うと、リュックの中からそれぞれに分かれている小さな網と、金属でできている柄を取り出し、それらをくっつけると、実は小さく折り畳まれていた網を勢いよくバッと広げた。その瞬間、僕はビクンッと少し驚いてしまった。

「これが私の使っている網です!」

男は自信満々にそう答えた。それもそうだ。なんせ、網がデカい。

そして男は次にこう話しかけてきた。

「採った昆虫、少しだけでもいいので見せていただくことはできますか?」

もちろんオレは自信満々に「いいですよ!どうぞ!」と答えた。

男が真っ先に目に付けた虫は、先ほど取った黒いアゲハだ。

そして男が口にしたのは、「これ、何だと思う?」だった。

「バカにするな!」オレは心の中でそう言った。ソイツは図鑑で見た、カラスアゲハだ!

「え?カラスアゲハですよね?」

少年は少し煽り口調で男に返した。

すると、男は少しニヤけながら

「違うんだな~それが~」と言ったのだ。

オレは混乱した。そんなはずは無い……この色のアゲハと言ったら……。

「ミヤマカラスアゲハ……聞いたことない?」

聞いたことない……って言ったらウソになる。図鑑で目にしたことがある名前だ。ただ目にしたことがあるだけで、詳しい見分け方は知らない。その上に、名前に“ミヤマ(深山)”と付くぐらいだから、こんな標高の低いちっぽけな山にいるワケが無いと、完全に思い込んでいた。

続けて男は両種についての違いを教えてくれた。とても分かりやい解説でつくづく感心するばかりだった。

話を聞いている中、ふと、僕の頭の中でよぎったのは、今まで採集してきた虫ももしかして……

そう考えていると、続けて彼が「他の昆虫も見せてくれないか?」と言ってきたので、

「ムラサキツバメにクロシジミ、ルーミスシジミ、シルビアシジミにシータテハなら今手元に……」

「何ッ!?クロシジミにルーミスとシルビアにシータテハだって!?」

男は興奮気味に食いついてきた。

反応が全然違う。ますます不安に駆られる。

ビビりながらもチョウの入っているパケを渡す。

すると、男は見るや否や肩を落としてこう言った。

「あ~これは、ヤマトシジミのメス、擦れたムラサキシジミ、ヤマトシジミのオス、キタテハの夏型だね……けどまぁ、どれも悪いチョウじゃないから、自信持て!ね?」

そう言われたので、「ムラサキツバメは初めて取ったゼフィルスなので……!」と答えた瞬間、「ソイツはゼフィルスじゃないよ。確かにミドリシジミの仲間だけど、ゼフィルスじゃないんだよね」

男はそう淡々と話した。

このときの少年は既に『虫ハカセ』としてのプライドが一気に崩れていた。

ついでに男は、ズボンのポケットからスマホを取り出し、自分で作ったという標本の画像を見せてくれた。

僕が一段と興味があるチョウやクワガタムシ、カブトムシはもちろん、薄汚くてとても触りたくないガ、黄色と黒のしましま模様を持つ人を殺すほど危険なハチ、臭いカメムシ、目を失明させるマイマイカブリやオサムシ、草食のバッタやキリギリスにコオロギ、肉食で獰猛なカマキリ、その他に見たことも無い大小様々の虫が箱いっぱいに入っていた。

しかも、どの虫も丁寧に形が整っている。英語みたいのがラベルに記してある。色んな太さの昆虫針が使い分けられている。

この際、男が虫に指をさして何か喋っていたが、覚えていない―。

気が付くともう、夕方になっていた。結局、あの後に覚えていたのは、自分の無知さと男が高校生であること、そして、あの美しい昆虫標本だけであった。

その丸くなった後ろ姿をあざけ笑うかのようにヒグラシが合唱していた。

無事に家に帰りつくと、仕事を終えていたお父さんが家のソファーに座ってテレビを見ていた。

僕の帰りに気が付く。

「おう!どうだった『虫ハカセ』!またいい虫は取れたか?」

「うん……まぁ、ね」

「元気ないじゃないか!日に当たりすぎたか?」

「そうかもしれないね……」

あからさまにあっけなさそうな返事をすると、そそくさと自分の部屋に入って、汗を吸ったからか重くなったリュックを下ろして一息つく。

そして、自分の作った歪で、ただの虫ピンが刺さっている死骸の入った標本を眺めては、何とも言えない溜息をついた。

それと同時に少年は、『あの男を超す存在になってやる』と心の中で強く願っていた。

応援するかのように、窓の傍にある木に止まった一匹のアブラゼミが力強く鳴いていた。

今回は、今は絶滅危惧種?になりつつある「虫採り少年」のお話を書かせていただきました。皆さんは昆虫採集をしたことがありますでしょうか?私はやったことありましたね~このお話は、つい最近の虫採り少年を見て、書いたものとなります。最近の採集道具は凄いですね~網が折りたためるなんて…

話が脱線してしまいましたが、この話を読んで、昔のことを思い出したり、虫採りに興味が湧いたりしましたら、大変嬉しい限りでございます!(皆様の反応と作者自身の気分次第で、連載も考えております!)


ではでは。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 虫好きどうし、探りを入れながら会話する様子が面白かったです。 [気になる点] 私もあまり詳しくはありませんがゼフィルスはシジミチョウの一部を指す言葉でしたね。最初に出てきたところで紹介が欲…
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