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真名神代伝  作者: ブーカン
第二章 千年路の果て
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鉱山窟の集落と崇敬される未名 2

 一刻以上、ふたりは山道を歩き続けた。

 次第にスギの木もまばらになり、路肩の傾斜は急になっていき、岩肌も散見されるようになっていく中、クミは心配になってきていた。


「……これ、ホントに村なんかあるの? どんどん山深くなってない?」

「……しばらく通ってないみたいだけど、この道はちゃんとヒトが歩いてた道だわ。心配しなくても、きっと『サガンカ』に着けるよ」


 彼女より年上と自称するクミだが、山歩きに関しては美名の方に経験が多い。

 彼女がそう言うのであれば、小さなクミはぜぇぜぇと息を切らしながらついて行くしかなかった。

 だが、少しして、美名の言葉は現実となった。

 まだ山道の途中であったが、ふたりは低木の奥、峰筋のさらに向こうの遠目に、ヒトが数人、動いているような影を見たのだ。

 だが――。


「はあ……。すごい『村』ね……」


 道が続く先、右手前方に、ほとんど一枚の壁のような岩肌が現れる。ほとんど切り立つようにしてたつ、断崖絶壁。

 いくらか見えるヒトの姿は、その岩肌にくっつくようにして移動をしている様子だ。どうやら、崖際に道が作られているようである。人々は、転落防止の柵も何もない道を、足取りも重くなく歩いているのだ。

 遠景にその様子を見ているだけで、クミは目眩めまいがしそうだった。


「鉱山跡かしら。スゴい『穴』の数だね……」


 そして、その道沿い、いくつもの穴口が岩肌に開いている。その大きさ、間隔、つづら折りになった道に沿っての多階層な構造から、それが人工的なものであることは明白である。

 「村」というには原始的で、「洞穴暮らし」というには文明的。

 この景色が、「サガンカ」の集落であった。


「こんにち……。あ、こんばんはかな?」


 異様なれど、人里。

 はやるようにして道を進んだ美名たちは、土道つちみちと岩肌の境目、くびれるようにして一段細くなった箇所を過ぎてすぐ、近くにいた女性に声をかけた。

 村の造りは異様ではあるが、女性の着物はよく見られる麻物あさものである。

 石組みの室外円形かまどに屈みこむにしていたような相手は、どうやら夕飯の支度で、火起こしにかかるところだったらしい。

 顔を向けて、銀髪の少女を見上げてきた。


「……んん? 見かけない顔だねぇ」

「……こんばんは」

「こんばんは!」

「はいはい、こんばんはぁ。旅のヒトかな?」

「はい。北に向かって、旅をしております」


 女は立ち上がると、前掛けの灰汚れを手で払った。

 そうして、美名とクミとに目をくれる。特に彼女は、クミの姿容すがたかたちを物珍しそうに眺めていた。


「……この子、南方の、『ネコ』っていう喋るアヤカムなんです。愛玩あいがんとして連れて歩いてるんですよ。可愛いですよね?」

「よろしくニャン!」


(……そろそろ、もう、いいんじゃない? この語尾……)


 この美名の紹介と、クミの赤面の挨拶とは、旅の間、見知らぬヒトに自己紹介する際の美名たちの習慣となっていた。

 もちろん、「客人まろうど云々(うんぬん)を危惧しての案だが、クミが必要性に疑問を感じているとおり、これまでは大して意味を為していない。

 訝しがられるのは最初だけで、「客人かもしれないから魔名教に届けた方が」や、「その客人を寄越せ」など、言われたためしがない。会うヒト会うヒト、二言三言交わしてるうちに、ふつうに会話するようになるのだ。


(これ、最初に追い回されてたのって、私の喋り方とかがマズかったのかも……?)


「旅ったってねえ……。こんな時間だよ?」

 

 女性は腰に手を当て、伸びをするように空を見上げる。

 現在地の標高は高い。

 見下ろすような山々と、点景のようなどこかの村景色、視線の下の、少しの雲。

 それらすべてを照らし出す、夕暮れ。

 山深い地は、夜を迎えようとしている。


「……それで、お伺いしたいのですが、こちらの村に宿はございますでしょうか。宿賃ならあります」

「……村ぁ?」


 口を開けて目をしばたたかせると、女は鷹揚おうように笑いだした。


「このサガンカはご覧の通り、『村』って言うには小さすぎるモンよ?」


 住人自身もそう思っていたらしい。


「……宿はねえ、あることにはあるんだけど、ここを訪れるヒトなんかいないもんだから『一穴いっけつ』しかなくて、しかも今日は、先客があるんだよ……」

「そうですか……」


 しおれた可憐な少女に同情を起こしたのか、女も表情を曇らせると、「ちょっと待ってて」と言ってすぐそばの洞穴の中に入っていった。


「……この道にむしろを引いて寝るのは、私絶対エヌジーよ……」

「そんなことしないよ。私、寝ぼけて真っ逆さまに落っこちちゃうわ。まぁ、もしものときは、アヤカムが来なさそうなところを教えてもらって、そこに寝網ねあみを張ろうよ」


 「寝網」とは、木と木の間にかけてちゅうに吊るす形の寝具である。中央にいくほど幅広の網状になっており、就寝時にはその網にくるまるようにするのだ。森林での野宿における寝具としては、もっとも普及している。

 絶対安全とは決して言えないが、山間に棲むアヤカムの危害をけるには、宙で寝る方がよい。寝心地がよくない、慣れないうちや不注意で落ちてしまうなどの欠点はあるが、アヤカムに寝込みを襲われるよりは断然ましなのである。

 ただし、美名としてはどうやら逆のようで、寝入っているうちにアヤカムが襲ってこようが目を覚ましてすぐに対処してしまうにも関わらず、朝を迎えた三回のうち、一回は寝ぼけて「寝網」から落ちてしまう「寝相の悪さ」。

 それでも「寝網」の使用を続けるのは、クミが訊いたところによると、「先生と一緒に旅をしていた頃からの習慣だから」らしい。銀髪の少女は変なトコロが頑固である、と彼女の友人はすでに知っていた。

 さて、そんなふうに今夜の宿を心配しているふたりのところに、先ほどの女が戻って来た。

 しかも、男を連れている。

 少し背丈の低い、筋骨隆々とした体。その男が、美名とクミとを、無言のまま交互に見遣る。女との気が置けない様子から、どうやらふたりは夫婦のようである。


「……ン~。いいんじゃないか? 狭いといえば狭いが、このふたりなら大丈夫だろう」


 「そうかね」と相槌を打った女性は、美名たちに顔を向けた。


「アンタたち、サガンカの『児童じどうくつ』っていって、子どもたち用の『穴室あなむろ』があるんだけど、そこに空きがあるんだ。小さくて狭いんだけど、そこでよかったら泊まっていくかい?」


 美名と小さなクミは、お互いに顔を見合わせてから、「お願いします」と快活な返事を揃えた。

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