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真名神代伝  作者: ブーカン
第二章 千年路の果て
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仄めく灯りと小さな影たち

 ――宵闇よいやみ

 それよりも暗い、ポッカリと開いた洞穴の入り口がある。

 内では蝋燭ろうそくが灯されているのであろう。心許なくも、洞穴内部の岩肌を、揺らぐ光がテラテラと照らし出していた。

 その洞穴に立ち入っていった影が三つ。

 ひとつは他のふたつよりも上背うわぜいがあるが、いずれも子どもの背丈ほどのようであった。


「……バレてないか?」

 

 内部にいた男――年は二十頃と思われる、痩せこけて眼窩がんかがくぼんだ男が、先頭の者に訊ねた。

 痩せ男は洞穴内の岩、一段高いところに腰掛けている。


「……ああ。たぶん、大丈夫です。いつも通り、『児童じどうくつ』に見回りが来たら、ごまかすようには頼んできてる」


 「よし」と頷くと、その男は入ってきた者たちに着席を促した。

 指し示されたのは、簡易なむしろである。そこに座れば、洞穴の地べたの湿気しけりで穿き物が濡れてしまいそうなほどに薄い。

 それでも構わず、影たちは――小さなふたつの影は、キャッキャとはしゃぐようにして座り込んだ。


「ねえ、今日はどの神様を『ヒナン』するの?」

「……『神様』じゃないだろう?」

「そうだった! 『じゃしん』だった!」


 小さな影がふたつ、クスクスと笑い合う。

 ほのかな明かりに照らされたその影たちはやはり、年の頃は七、八歳程度と思われる男女のであった。

 彼らを先導してきたもうひとつの影も、子どもたちの後ろに座り込む。

 こちらは十三、四歳程度の見た目。逆立つほどに短髪の少年で、彼がこの密会の主催と思われる痩せ男と交わす目線には、どこか剣呑けんのんとした雰囲気が漂う。


「……今日は、『動力どうりき』と『識者しきしゃ』という『邪神じゃしん』を『非難』する」


 痩せ男は、洞穴内に静かに響く声音で、密会の主旨を始める様子だった。


「わあ、ふたつも!」

「ウチのお父さんも私も、動力だよ!」

「そうか。それは残念だったなぁ。ミルザの魔名は、『()()()()()』だ……」

「そっかぁ……」


 ミルザと呼ばれた女児は、少し気落ちした様子である。


「……でも大丈夫だ。心から主神しゅしん様に仕えることで、ミルザの魂はきっと救われる」

「ホント?!」

「ああ……」


 そう言うと、痩せ男は短髪の少年に目をくれる。

 相手はゆっくりと立ち上がると、洞穴の入り口の方に向かって行った。どうやら彼は、見張り役のようである。


「……『地動ちどう討伐とうばつ』という話は、ふたりは知ってるかな?」

「しらなぁい」

「僕は知ってる! あのね、『動力の神様』が……」


 痩せ男がキッと睨みつけたのにビクリとして、男児は言葉を切った。

 その睨みが何を意味するか悟ると、男児は「じゃしん」と小さくつぶやく。

 それで痩せ男がニッコリ顔に戻ってくれたことに、男児は小さく安堵の息を吐いた。


「……サタナ、いいんだ。続けてごらん」

「うん……。『動力のじゃしん』が山を作って、『混沌こんとん』をやっつけたお話……」

「そうだ。よく覚えてるな、サタナ。でも、それは間違いだ」

「まちがい……?」


 微笑のまま、痩せ男が頷く。


「『動力の邪神』は、山を作る前、主神様がおっしゃられた『私の御剣みつるぎで混沌を払う』という言葉を、無視しているんだ」

「……ムシ?」

「ムシはいけない! 悪いコトだよ!」

「ああ、その通り。無視はしてはいけない。悪いコトだ。それで、主神様の言葉を聞かず、勝手に山を作って、勝手に『混沌』をやっつけた気でいる。主神様のけんのほうが、早くやっつけられたのに……」

「動力……、悪いヤツだね」

「そう、ミルザの言う通りだ。全て、主神様に委ねればいいのに、勝手に出しゃばって、自分の手柄だ、って得意になってるのが『動力』だ」

「『じゃしん』だね」

「『邪神』だ。『動力の大神』は、主神様に逆らう、悪い奴だ……」

「私……、動力の魔名……、イヤになってきた……」


 痩せ男は立ち上がると、ふたりに歩み寄って屈み込む。

 そうして、女児の頭を撫でてやった。


「ミルザ。その魔名は恥だ。ミルザは死ぬまで、その魔名を恥に思って、心から主神様に仕えるんだ。そうしないと罰が下る。いいね?」

「うん……」

「僕ももう、『他奮たふん』の魔名なんか、ひびかせないよ。毎週の祈りの時間も、『主神様、ごめんなさい』って、祈るようにしてる」


 痩せ男は、傍らの男児にも笑顔をくれてやる。


「いいぞ、サタナ。それでいい。その気持ちは、きっと主神様に届いてる」

「……うん!」

「よし。それじゃあ、『識者しきしゃの邪神』の話もしよう。『神言録かみごとろく』という教えの中で――」


 *


 男女のを送り届けて戻って来た短髪の少年に、痩せ男はチラリと目線をくれ、「お疲れ」と言ってやった。


「……そろそろ、大人のヒトたちにも広めていきたいですね」

「そうだな。ちゃんとした真実を伝えるのが、主神様の御意向だから。魔名教――邪教じゃきょうあらためるのが、俺たちの使命だ……」


 落ちくぼんだ眼の中、密やかに燃え上がるような色を灯し、痩せ男は呟いた。

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