仄めく灯りと小さな影たち
――宵闇。
それよりも暗い、ポッカリと開いた洞穴の入り口がある。
内では蝋燭が灯されているのであろう。心許なくも、洞穴内部の岩肌を、揺らぐ光がテラテラと照らし出していた。
その洞穴に立ち入っていった影が三つ。
ひとつは他のふたつよりも上背があるが、いずれも子どもの背丈ほどのようであった。
「……バレてないか?」
内部にいた男――年は二十頃と思われる、痩せこけて眼窩がくぼんだ男が、先頭の者に訊ねた。
痩せ男は洞穴内の岩、一段高いところに腰掛けている。
「……ああ。たぶん、大丈夫です。いつも通り、『児童窟』に見回りが来たら、ごまかすようには頼んできてる」
「よし」と頷くと、その男は入ってきた者たちに着席を促した。
指し示されたのは、簡易な筵である。そこに座れば、洞穴の地べたの湿気りで穿き物が濡れてしまいそうなほどに薄い。
それでも構わず、影たちは――小さなふたつの影は、キャッキャとはしゃぐようにして座り込んだ。
「ねえ、今日はどの神様を『ヒナン』するの?」
「……『神様』じゃないだろう?」
「そうだった! 『じゃしん』だった!」
小さな影がふたつ、クスクスと笑い合う。
仄かな明かりに照らされたその影たちはやはり、年の頃は七、八歳程度と思われる男女の児であった。
彼らを先導してきたもうひとつの影も、子どもたちの後ろに座り込む。
こちらは十三、四歳程度の見た目。逆立つほどに短髪の少年で、彼がこの密会の主催と思われる痩せ男と交わす目線には、どこか剣呑とした雰囲気が漂う。
「……今日は、『動力』と『識者』という『邪神』を『非難』する」
痩せ男は、洞穴内に静かに響く声音で、密会の主旨を始める様子だった。
「わあ、ふたつも!」
「ウチのお父さんも私も、動力だよ!」
「そうか。それは残念だったなぁ。ミルザの魔名は、『いらない物』だ……」
「そっかぁ……」
ミルザと呼ばれた女児は、少し気落ちした様子である。
「……でも大丈夫だ。心から主神様に仕えることで、ミルザの魂はきっと救われる」
「ホント?!」
「ああ……」
そう言うと、痩せ男は短髪の少年に目をくれる。
相手はゆっくりと立ち上がると、洞穴の入り口の方に向かって行った。どうやら彼は、見張り役のようである。
「……『地動討伐』という話は、ふたりは知ってるかな?」
「しらなぁい」
「僕は知ってる! あのね、『動力の神様』が……」
痩せ男がキッと睨みつけたのにビクリとして、男児は言葉を切った。
その睨みが何を意味するか悟ると、男児は「じゃしん」と小さく呟く。
それで痩せ男がニッコリ顔に戻ってくれたことに、男児は小さく安堵の息を吐いた。
「……サタナ、いいんだ。続けてごらん」
「うん……。『動力のじゃしん』が山を作って、『混沌』をやっつけたお話……」
「そうだ。よく覚えてるな、サタナ。でも、それは間違いだ」
「まちがい……?」
微笑のまま、痩せ男が頷く。
「『動力の邪神』は、山を作る前、主神様が仰られた『私の御剣で混沌を払う』という言葉を、無視しているんだ」
「……ムシ?」
「ムシはいけない! 悪いコトだよ!」
「ああ、その通り。無視はしてはいけない。悪いコトだ。それで、主神様の言葉を聞かず、勝手に山を作って、勝手に『混沌』をやっつけた気でいる。主神様の剣のほうが、早くやっつけられたのに……」
「動力……、悪いヤツだね」
「そう、ミルザの言う通りだ。全て、主神様に委ねればいいのに、勝手に出しゃばって、自分の手柄だ、って得意になってるのが『動力』だ」
「『じゃしん』だね」
「『邪神』だ。『動力の大神』は、主神様に逆らう、悪い奴だ……」
「私……、動力の魔名……、イヤになってきた……」
痩せ男は立ち上がると、ふたりに歩み寄って屈み込む。
そうして、女児の頭を撫でてやった。
「ミルザ。その魔名は恥だ。ミルザは死ぬまで、その魔名を恥に思って、心から主神様に仕えるんだ。そうしないと罰が下る。いいね?」
「うん……」
「僕ももう、『他奮』の魔名なんか、ひびかせないよ。毎週の祈りの時間も、『主神様、ごめんなさい』って、祈るようにしてる」
痩せ男は、傍らの男児にも笑顔をくれてやる。
「いいぞ、サタナ。それでいい。その気持ちは、きっと主神様に届いてる」
「……うん!」
「よし。それじゃあ、『識者の邪神』の話もしよう。『神言録』という教えの中で――」
*
男女の児を送り届けて戻って来た短髪の少年に、痩せ男はチラリと目線をくれ、「お疲れ」と言ってやった。
「……そろそろ、大人のヒトたちにも広めていきたいですね」
「そうだな。ちゃんとした真実を伝えるのが、主神様の御意向だから。魔名教――邪教を革めるのが、俺たちの使命だ……」
落ち窪んだ眼の中、密やかに燃え上がるような色を灯し、痩せ男は呟いた。




