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真名神代伝  作者: ブーカン
第一章 魔名なき者たち
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希畔の有力者たちと眼鏡の去来大師 1

 両開きの大扉の前に立つと、明良は嘆息たんそくいた。


(気は重いが、好機かもしれない……)


 半刻ほど前――動力大師との邂逅かいこうのあと、ひとまずは「智集館ちしゅうかん」内に戻った明良。

 冷たい床にじかに座り込み、無力感と自身への憤慨とに心中で堂々巡りを続けていたとき。

 彼の元に、例の受付員が浮足うきあし立ってやって来た。


『少年! スゴいよ!』


 ゆっくりと彼女に目を向けた明良。

 どこか面白がっているような彼女の姿を、明良は心なしか遠く感じた。


『「ハ行去来(きょらい)」の大師様と、お目通りかなうかもしれないよ!』

『……大師?』


 正直なところ、その時の明良にとって、その言葉は、ぎもめるよりも苦々しいものだった。


『ウチの上役うわやくに明良くんのコト話したら、さらに上までハナシいったみたいで。緊急の「議会ぎかい」の場に、明良くんが招聘しょうへいされるって。事情を詳しく話せってさ!』


 明良の様子には無頓着むとんちゃくに、受付員は嬉々とした顔を寄せたものだ。


 「議会」。

 居坂いさかの主だった都市は、その歴史的背景から、町ごとに独立した自治統制が、()()()()とられている。

 呼称はそれぞれ違えど、首長を置き、その下に施策立案や諮問しもん、それらの是正を目的とする評議会とが置かれる形態が最も一般的である。

 希畔きはんの町も、「大屋主おおやぬし」と呼ばれる首長の元、「議会」が統制機関として存在する。これらが希畔の政治を担っているという()()だ。

 だが、都市運営の実態は、居坂いさか中に浸透している「魔名教」抜きでは成り立っていない。

 人々の旅路の始まりから、日々の営みの補助、互恵ごけい、自警、貨幣の発行と制限、教育、祭礼や都市によっては物流、そして、人々の旅路の終わりまで――何もかもに関わっているのが「魔名教会」である。

 歴史上に衝突もあったことから、首長に魔名教会員が就くことは現在ではほぼないものの、どの町、どの都市においても評議会の場には多かれ少なかれ、魔名教本部から派遣され、その町に駐在する高位の魔名教会員が関わっている。

 そして、その発言力は評議会内でも絶大であった。首長の決定でさえも、魔名教の者が首を縦に振らなければ通らないことはままある。

 ()()()()()()()()()、居坂の町の、村の、人里の、為政者いせいしゃと言えば、「魔名教」を意味するのだ。

 「教区館きょうくかん」が置かれている町でのその役目は当然、「十行じっぎょう大師たいし」――ここ、希畔の町においては「ハ行去来の大師」にある。


『なかなか姿を見せないし、見かけても遠くだったりするしで希少なお方なんだよね。でも、「議会」……、それも議題は、「大師による智集館襲撃について」だもの! 同じ大師同士のことだから、絶対に姿をお出しになるわ!』


 明良はふざけるな、と思った。

 大師など……、事後の話し合いなど知るものかと、苦み走った。

 そんな話はふいにして帰宅の途につき、通例よりも多くの重しをつけ、「幾旅金いくたびのかね」を振る鍛練たんれんに精を出したい、と考えた。

 だがつと、思い直した。


 明良は「議会」の間に続く、大扉の取手とってに手を掛ける。


(……この中にいるのは、希畔の「重役」たちだ。この町に顔の広い者だ。縁故えんこを得れば、「劫奪こうだつ者」と「使役しえき者」に繋がる何かを得られるかもしれない……)


 生唾をゴクリと呑み込み、黒髪の少年は重厚な扉を引き開いた。

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