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真名神代伝  作者: ブーカン
第一章 魔名なき者たち
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目つきの悪い少年と冷息吹の洞蜥蜴 6

「スゴいッ!」


 白刃の連撃がうろ蜥蜴とかげの胴体に叩きこまれる。

 火花散るような目前の光景に、小さなクミは感嘆の声を上げるが――。


「ダメだ! 手応えはないッ!」


 少年の焦燥の叫びのとおり、うろ蜥蜴とかげは脇腹に与えられた何重の斬撃など意にも介さない様子で、変わりなく美名に「れい息吹いぶき」を浴びせ続けている。


「……アヤカムめッ!」


 怒声とともに、少年はひと度、ふた度と洞蜥蜴を刀で切りつける。

 斬撃は何十にもなって襲うのだが、巨大なアヤカムの小さな鱗ひとつ、傷つけることさえかなわない。


「お腹、お腹は?! 動物のお腹なら、だいたい柔らかいはずよ!」

「こんな巨体、ひっくり返せるものか!」


 叫びながらも、どこかに突破口はないものかと、少年は位置を変えつつ、刀を振り抜きつづける。

 それでもやはり、洞蜥蜴の巨体にはひるむ様子もない。


「このままじゃあ、美名が……」


 クミは美名を見遣った。

 「かさかたな」で「冷息吹」に耐え続けている少女。

 彼女の表情は、苦しく悶えているようでもあった。


「美名が、せっかく耐えてくれてる……の……に?」


(ちょっと待って……)


 クミにはそこで、ひとつの疑問が生じる。


(なんで()()()()()()、「()()()()()()()()()の?)


 小さなクミは、すぐ隣にある、歯噛みして刀を振り抜き続ける少年の顔を見遣る。


(コイツも私も、美名よりずっと洞蜥蜴の近くにいる。痛くもかゆくもないんだろうけど、日本刀で切り続けてもいる……)


 洞蜥蜴の尾の根元に斬撃を叩きこんだ少年だったが、ここも手応えがないことに舌打ちを鳴らしている。


(どうして、コイツや私には『息吹』をかけてこないの? 美名と私たちの、()()()はなに?)


「ちょっとアンタ!」


 小さなクミは、自分が身を預けている少年を大声で呼びつけた。


「なんだ! 耳元で!」

「アンタ、このアヤカムを『殺す』って言ってたわね! 前々から狙ってたってことでしょ! 何か弱点とか、倒し方とかないの?!」

「そんなもの知ってたら、うにやってる!」


 それはそうだと納得したクミの目の前、刀で洞蜥蜴を切りつけ続ける少年の顔がおもむろに気色ばむ。

 その変化にクミも気が付いた。


「……まさか?」

「なに、何なの!」

 

 急くように問い詰めるクミに、少年は言葉を続けた。


神代じんだいの昔話程度だと思っていたが……、洞蜥蜴に襲われた旅人が、『逆鱗げきりん』を切りつけて難を逃れたという逸話が確か、魔名教の蔵書物の中にあった……」

「『逆鱗』……?」

「だが、それがどこの、どのうろこかなどは書かれていなかったッ! こんな、星の数ほどの鱗から、そんなもの見つけるのは容易たやすくない!」


 後ろ肢の付け根に斬撃を振りかぶり、少年が叫ぶ。

 だがこの、ヒトの腰ほどの太さの付け根にさえも鱗が光っており、少年の幾重もの刃のひとつさえ食い込むことはなかった。


うろこの場所……。竜の『逆鱗』っていったら……)


 クミは少年の肩にしがみつきながら、顔を上げる。

 洞蜥蜴の後ろ肢の位置からクミが視線を向けた先は、鎌首を支えている長い首だった。

 首の根元から鎌首へ、先端に向かうようにゆっくりと、双眸であらためる。夜目が効くネコでよかった、とクミは思った。


(首には……ない……? いや!)


 ヌラリと光る鱗がいくつも並ぶ中、小さなネコは一点で目を留めた。

 そこは、洞蜥蜴の頭。顔の先端の底部。ヒトでいえば、「アゴ」にあたるような箇所だった。

 止むことなく美名に「冷息吹」を噴きつけている洞蜥蜴という強大アヤカムの先端。その少し手前、鱗の中、薄桃色の小さな「くぼみ」を見つけたのだ。


「あ、あれは……?」


 鱗の中の桃色のくぼみ――似たような絵面えづらを、クミは自身の記憶より呼び起こす。


(確か……、「ヘビ」には赤外線を感知する感覚器――「ピット器官」っていうのを持つ種がいたはず。あんなふうに、体表に隠れるようにしてあって、獲物を見つけるのに使ってるって……)


 小さなクミは、青と赤の色違いの双眸で、洞蜥蜴の「アゴ」のくぼみを睨み上げる。


(美名と私たちの違い……。美名は、「ヤ行・躯動くどう強化」を受けてて体が温かかった。もしもコイツが……、洞蜥蜴が、「熱いもの」――自分や周りよりも温度の高い恒温動物を優先的に攻撃して、食糧にするように進化してきたアヤカムなら……? そのために、ヘビの「ピット器官」みたいな感覚器を持っているとしたら? 「逆鱗」ってのが、その「ピット器官」のことを指しているのだとすれば……?)

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