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真名神代伝  作者: ブーカン
第一章 魔名なき者たち
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目つきの悪い少年と冷息吹の洞蜥蜴 4

(どんなに腕に自信がついても、絶対に相手にするな……。逃げに徹しろ……)


 後ろ髪を引かれる思いで教会堂をあとにした美名は、断続的に響くうろ蜥蜴とかげの咆哮に迫りながら、先生の言葉を思い起こしていた。


(「段」の魔名術者。もちろん「十行大師じっぎょうたいし」も。そして、「三大妖さんたいよう」……。強大な三種のアヤカム。そのひとつ……、うろ蜥蜴とかげ! 先生が、絶対に相手にするなって言ったモノ!)


 「ヤ行・躯動くどう強化」の効果で、美名の体感の寒さはいくらか和らぎ、走力にも拍車がかかっている。クミも振り落とされないよう、美名の肩口にしがみつくことに専心する。


(でも……、先生! クシャが()()()()()になってる!)


 猛吹雪のために相変わらず視界は通らないが、前触れもなく眼前に現れるクシャの村里の建物に、美名はたびたび方向転換を迫られていた。

 そして、その建屋のことごとくは、よくて半壊、ひどいものだと土台だけ残すのみといった惨状だった。


(……クシャのヒトたちが()()()()()になってる!)


 道中、あるいはそれらの建屋跡の付近で、よく目を凝らさなければ判らないほどの、()()()()()が散見された。

 それがヒトの亡骸に積もった雪であると、教会堂の例で知った美名とクミ。

 心中で冥福を捧げながらも立ち止まることはせず、同じような小山のそばを、すでに何度も通り過ぎた。


(……ユ様が魔名をお返しになってる!)


 美名は、年近いヤ行他奮(たふん)の魔名術師の、白みきった、けれどどこかしら安らかな最後の顔を思い起こすと、また一筋、涙を風に流した。


オォオォン


 洞蜥蜴の鳴き声は、近い。


(私の心は、アイツから逃げるなって言ってる!!)


 美名は足を止めた。

 そこはクシャにおける誰かしらの家だったのだろう。

 例のごとく倒壊して跡形がないものの、庭先を含めた敷地が美名たちには案外に広く見渡せる。吹雪が渦巻く中心にあたるためなのかもしれなかった。

 美名はその、いくらか通った視界の大部分を占める、眼前の影を見上げる。


「お、大きい……」


 その巨大さと醜悪さに、彼女は全身が鳥肌立つのを感じた。


「う、ウソでしょう……。こんなの、まるで……恐竜かドラゴンじゃない……」


 クミも美名の肩の上でつぶやく。

 ふたりが見上げる洞蜥蜴は、ヒトの背丈のゆうに五人分はあろうかという高さ。頭から尾の全長は十数人分にも達しそうである。

 全身が白んだ鱗で覆われ、湿ったような光沢がある。全体的に細長い輪郭の体躯だが、胴と思われる部分は太く膨れており、そこには巨大さに見合わない、小ぶりな四肢がついている。指は放射上に拡がり、爪はなさそうだった。

 なにより目を引かれるのは、胴の左右で伸びる、長い尾と長い首。

 もたげた鎌首があることから、美名たちに向かって右側が首なのだと判る。

 頭部は平べったく、先端にいくほど尖るような形。頭の中央がやや丸く膨らんで跳び出しているのが、どこか調和のとれていない気持ち悪さを感じさせる。

 頭部に、目や鼻、口はどこにあるのか、そもそもあるのかどうか。見上げる美名とクミの位置からは判然としない。

 そして、長い尾。

 絶え間なく振りまわされるこの強靭そうな尾によって、クシャの荒廃の多くはなされているのであろう。今まさに、尾のひと振りで建屋の壁がなぎ倒されたところだった。


「み、美名ぁ……。こんなヤツ……」

「裁ち切るわよ……」

 

 美名は、自らに言い聞かせるようにしてつぶやいた。


「まだ息があるヒトもいるかもしれない……。でも、コイツを野放しにしてたら、救助も満足にできやしない! ……やるしかないッ!」


 美名は赤眼に宿る激憤を濃くし、洞蜥蜴を見据える。

 そして、気が付いた。


「……アイツ!」


 洞蜥蜴の鎌首の真下に、先ほどの少年がいたのだ。

 よく見ると、鎌首の先端からは白い噴霧のようなものが突風のように吹き出されており、それが少年を取り巻いている。


「あれが……『絶息ぜっそくの』……『れい息吹いぶき』!」


 美名は先生から聞いていた、洞蜥蜴の「絶息の冷息吹」について思い起こす。


(天候での氷雪より遥かに勝る、瞬間冷却。それに耐えれたとしても、強力な風のためか、洞蜥蜴の特殊な力なのか、息吹の渦中では呼吸をすることも阻害され、いずれは力尽きる……)


 絶命必至の「冷息吹」。

 だが、そんな中にあって、少年は二本の足でしっかりと立ち、あまつさえ洞蜥蜴をとり殺さんばかりにめつけている。


(アイツは、なんで無事に済んでるの……?)


 さらに目を凝らすと、少年の前には白光を煌かせる円状の()()があり、それが「息吹」を遮っているのだと美名は気付いた。

 ここでようやく、少年の方でも、自身に注がれる視線に――絶命必至のこの場に、美名とクミの姿が現れたことに気が付いたようだった。

 驚くように目をみはった顔を、ふたりに向ける。


「何をしてるッ?! 早く逃げろ!」


 少年が叫ぶや否や、洞蜥蜴の鎌首の先端が美名とクミに向けられる。

 即座に白い噴霧――「絶息の冷息吹」が彼女たちに噴きつけられた。

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