新たな輩の子と名づけ術師 1
夜が明けた。
気のいいヒ・ミカメとの明るく和やかな朝食の場が済んだあと、美名たちは身支度を整えて教会堂をふたたび訪ねてきた。
昨晩からはいくらか減ったが、教会堂の中にヒトはまだ多い。
いくらかのヒトは夜通し起きていたのだろう。ダンゲ村長をはじめ、目の下がくぼんだ顔も多かった。
「やあ、よく眠れたかな?」
「ハイ、村長様。とてもいい夜で、いい朝でした」
美名とクミは堂の中央で椅子に座らされ、魔名術封じの緊縛法に処されている連中に目を移す。
彼女たちが辞したあと、林の中から連れてこられたのであろう。サ行とタ行の男もそこにはおり、四者ともが憎々し気にふたりを睨んでくる。
「とんだ疫病神だったぜ、『客人』はよ!」
サ行の男が憎まれ口をクミに向けて寄越した。
小さなクミは少しも物怖じせず、ふんと鼻を鳴らして答える。
「どうでしょう? なにか、進展めいたようなことは……」
美名が村長に向けて訊ねる。
相手は徹夜の疲れもあってか、ゆったりと首を振った。
「いんや、あいも変わらず。これは、魔名教会の方がいらっしゃるまで、口を噤みきるつもりだろうな……」
「では、『客人』のことも……」
ダンゲ村長は力無く頷いた。
昨晩、クミからは「気にするな」とは言ってもらえたが、彼女のためにもやはり、なにか有益な情報を得たかった美名は、村長のその様子に内心で落胆を感じた。
それが表に出ないよう、美名はアゴを少しだけ上げて、言葉を続ける。
「魔名教会からヒトがやってくるのは、いつ頃になりそうでしょうか?」
「『ヘヤ』……、クシャが属する教区館が置かれてる港町なんじゃが、こちらからの報せはもう届いたろう。すでにヘヤを馬で発っていたとしたら、早くて明日の夕刻になろう……」
美名は足元のクミと目線を交わすと、ふたたび村長に顔を戻した。
「私たち、ちょっと行きたいところがあるのです……」
「……どこへ、かな?」
「森の中の『養蜂家』のおウチへ」
「ああ、リントウのところか……」
美名は「魔名」を求めて旅をしていること、そのため、新生児を授かる予定だという「タ行養蜂」家に昨晩のうちに訪れていたことを告げた。
「もしも『オ様』がいらっしゃられたなら、不躾とは思いますが、私も『魔名』を授かる機会が得られると……」
教会堂師たちについて、美名たちになにかしらの危急な必要が迫られていないのであれば、昨晩の約束を違えずに「養蜂家」を訪ねてみようと、美名とクミのふたりは今朝方に示し合わせ済みだった。
今、クシャを発てば、ちょうど午に差し掛かる頃合いには『養蜂家』にたどり着ける。
「……ふむ」
ダンゲ村長はひとつ頷くと、美名とクミに微笑んだ。
「構わんよ。念のため、明日の夕刻までにここか、ウチを訪ねてさえくれれば」
「……はい!」
美名は聴衆にも伝播するほどに嬉し気に応答をした。
「私たちになにか用向きあれば、連絡を届けていただければ」
美名のお辞儀に、「あい判った」と、村長は頷く。
そうして、お堂の格子窓から差し込む朝日に銀髪をキラキラと輝かせている美名を、そうしないと目が潰れてしまうというほどに目を細めながら、村長は見つめる。
「年嵩もそれほどでもなさそうなのに、礼儀が良くて、旅慣れたお嬢さんだ……」
「でしょ?」
「……なんでクミが得意気なのよ」
村の男たち、女たち、村長、美名、クミ。その場の皆が笑い合う。
教会堂師と悪漢たちの悪態など、矮小にしてしまうほどに。
「輩に魔名よ、響け」
「響け!」
教会堂が揺れるほどの加護の唱和が、美名とクミに贈られた。
「いってきます」
「ってきます!」
美名とクミは今朝の曙光のような暖かさを胸に感じながら、見送る人々を見遣り、手を振り、クシャの村里を囲う木柵の門を抜けた。




