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真名神代伝  作者: ブーカン
第二章 千年路の果て
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少女の髪と楚々とした教主 3

 守衛しゅえい手司しゅしの姿が見えなくなると、誰よりも先に美名に駆け寄って来たのは明良あきらであった。そうして彼は美名の手をとり、両の手で強く、強く包み込む。


「すまん……。すまん……。俺が不甲斐ないばかりに……」


 項垂うなだなげく明良の手の甲に、美名もまた、もう一方の手を添える。少年の震える手は、美名にはとても小さく、優しく思えた。


「美名……、説明して」


 クミの声に顔を向けると、「クミ、ありがと」と美名は礼を述べる。そして、彼女の隣の名づけ師にも目を配る。


「……クメン様も、ありがとうございました。私ひとりでは、やりきれなかった……」

「……わたくしにもお聞かせ願えますか? 彼女を遠ざけるのに……、美名さんがこうまでするのに、強い意志を感じて同調しましたが、その『強い意志』とは何だったのか……」

「実は……」


 美名が、「ニクラは詳細は不明ながらも明良と敵対する者」だと告げようとした時、彼女を制止するように明良の手の握りが強まった。

 思わず向き直ると、彼は美名を直視し、小さくかぶりを振っている。


()()なの……?」


 明良はうなずくと、周囲の様子をうかがう素振りを見せる。美名もまた、庭園内を見渡す。ひとまず、視線の通る範囲には()()()()()ようだった。

 しかし、そうして集中しているうちに美名は気が付いた。

 異音がする。

 あの、チリチリとするか細い音が、わずかに聴こえるのだ。


(まだあのは、私たちを()()()……)


 美名は明良から手を離してもらうと、クメン師に向かって目線を送る。


「……ン? 何です?」

「んもう! 『迎賓げいひん館』からふたりとも、イチャこきすぎよ!」


 伝わらないもどかしさに顔を渋らせ、美名はついに身振り手振りをしはじめた。

 片手に何をかを持つような仕草。そうしてその手を、さらさらと宙に遊ばせる――。


「あ、何か、書くも……」


 判じたクメン師を制するように、美名は自らの顔先に指を立てる。

 「喋らないで」の仕草――。


「……私がニクラ様を追い払うようにしたのは、ま、言った通りのこともあるんですけど、単純に、彼女がキライだからですよ。気に食わないから、いてもらいたくなかっただけです」


 小さなクミも、自身の荷物から「美名が求めた物」を取り出しているクメン師も、その美名の言葉が彼女の本心でないことは判り得た。

 美名という少女は、滅多なことでは「ヒトを嫌う」ということをしない。

 美名という少女は、本人がいない場であっても、このようなことを礼儀知らずに言うことをしない。

 ふたりとも、決して長い付き合いだとは言い切れないが、少女のその性質については充分に理解している。


「……髪なんてすぐにまた伸びるんですから、大したことじゃないですよ!」


 強がるように言う美名に、クメン師は()()()を手渡す。

 美名が名づけ師の発言を制し、心にもないことを言っている様子から、クメン師とクミにもすでに悟れていた。

 ()()()()()()()()()

 そして、その聴いている者は、守衛手司ニクラ――。

 美名は受け取った筆と紙を、そのまま明良に渡した。

 小さなクミは「美名(のぼ)り」で肩までのぼる。

 三人が注視する中、明良は筆を走らせ――。


『話をつづけつつで ヤツはきいてる さほどとおくないところで波どうで』


 明良の筆記はまず、三人の悟りを裏付けた。


「……そうよね。まあ、いきなり髪を切ったときには、私もびっくりしちゃった! 私も、アイツ嫌いよ!」


 快活な調子で笑い飛ばすクミを傍らに、明良から筆を取り、美名もまた書きつけていく。


『たおせばいいの? ニクラを』

 

 この問いに、明良は首を振った。


『くわしく書いてられん ヤツのけいかいからまず抜けねば』

 

「ちょっと強く言い過ぎたかもしれませんね。わたくしも、あとでニクラさんに謝っておかなければ」

「謝んなくていいですよ、性悪ガールには!」

「『ショーワルガール』、やっぱり可愛い……」


 今度は、クメン師が筆を要求した。

 明良は少しの躊躇の色を見せたあと、彼に筆を渡す。


『でしたらやはり、主塔に向かいましょう』


 『主塔』――。魔名教教主のおわすところ。

 理由問いたげに顔を上げた明良に、名づけ師クメンは微笑み、追記していく。


『波導の介入ができない うってつけの部屋が主塔にはあります』


 その書き文字を確認してすぐさま、「よし!」とクミが威勢を上げる。


「それじゃあ、とっとと教主様のところ、行きましょうか!」

「そうね!」

「……うむ」


 目を配せあって四人は、盗み聴かれている緊張の場であるにも関わらず――いやむしろ、その状況がためなのであろうか、どこか楽しそうに目顔で笑い合うのであった。

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