教会堂師の話の真偽と教会堂師の真偽 4
「『客人』を抱いて、私は『福城』に凱旋する! 教会の中央に食い込み、権力を手に入れ、教主への栄達に手を掛けるのだ!」
「大きな月」と「小さな月」、ふたつの月に照らし出され、教会堂師は妖しく嗤った。
「欲に塗れた、なんてヤツ……」
「どうせ『未名』の子の言うことなど誰も信じやしないだろうが、その口を封じておくに越したことはないな……」
歯をむき出すと、堂師は得物の先を美名に向けた。
(アレが、雷の力だとしたら……)
月の光で槍の穂先が鈍く光る。
「美名!」
「何、クミ?」
「助けてと言いたいところだけど!」
「……だけど?!」
「いざとなったら逃げてよね!」
脂汗を垂らしながらも、美名は小さく噴き出した。
「私、これでも結構強いんだよ!」
「知ってるけど、死んだら元も子も、名前もないんだからね!」
「フフッ。おかしな言い回し……」
美名の身体から、不思議と強張りが解けていく。
(先手を取る!)
美名は自身の得物を正眼に構え、堂師に向かって突進する。
美名の先生から授かったこの刀、「嵩ね刀・不全」。
その切っ先に仕込まれている、「神代遺物・嵩ね刀」。
原理は美名も詳しくは知らないが、この刀は「超質量であらゆる物質を裁つように裂くことができる」のだ。
今夜、すでにクミに披露した通り、植物の根などは元より、炎といった不定形のものまで、「嵩ね刀」なら裁つことができる。
「雷の力も、この刀ならきっと……」
迫る美名に、堂師はねじ曲がった笑みを張り付けたまま、何の躊躇いもなく槍を突き出してくる。
「裁ち切れるはずッ!」
美名は確信していた――が。
バチンッ!
「ぁあッ?!」
美名は「嵩ね刀」を携えた手に、先ほどと同じ、刺すような痛みを感じ、思わず刀を取り落としてしまった。
「嵩ね刀・不全」が地面に突き刺さる。
「あっつ……?!」
ジワリとにじむような痛みに、美名は自身の手の甲を見遣る。
親指の爪ほどの大きさの赤み。
その中央は表皮も焼かれたのか、肉色も見えている。
「か、雷の力……」
美名は睨むようにして顔を上げる。
彼女のすぐ目の前を、蝶が飛び舞うようにうろつく槍先。
その槍先は「嵩ね刀」でも切断などされておらず、健在だった。
「この刀が、押し負けた?」
「ふふふ……。なんだか自信ありげに突っ込んできたけども、残念だったね」
堂師は片手に引っ提げたクミを、美名に誇示するように前に突き出した。
「いや、このぉっ! 離せ!」
「クミ!」
「この『客人』だけでなく、その刀も何か特別なものなのかな? だが……」
ウロウロしていた槍先が、美名を定めをつけたようにピタリと止まる。
「それもこれもあれも、君が死んでから検分することにしよう!」
「美名ぁ! 逃げてぇ!」
美名は突き出された槍をかわす。
「しまったッ!」
(刀をアイツの槍の射程に置いたままだ!)
「死ね、死ねぇッ!」
執拗に襲い来る突き技を避けるため、地面に突き刺さったままの刀を取り戻すことができずにいる美名。
たが――。
(おかしい……?)
美名は槍を避け続けている間に、あることに気が付いた。
(コイツの槍先……、殺意を感じない?)
突きは早くなく、急所を狙いに来ているのでもない。
脇腹と手に痺れが残っている美名でも、ひどく余裕を持って避けることができている。
雷の力のことさえなければ、素人同然と言ってもいい槍捌きだった。
雷の力のことさえなければ、教会堂師の槍術は児戯同然なのだった。
「どういうことッ?!」
「……いょし!」
堂師が声を荒げると、またも突きがひとつ、美名に襲い来る。
(これも、さして早くはない!)
コレを躱したら徒手で相手を叩く、と美名は考えた。
美名にとっては止まっているといってもよい速度の槍。
即座の反撃を見越して、それを皮一枚ほど、肉薄して避けた美名だったが――。
バチンッ!
「いつぅッ!」
肩先に衝撃が走り、美名は地面を転がった。
「く……、あつぅっ!」
燃えるように熱い肩口を抑え、片膝をつき、美名は呻く。
「槍には触らなかった……。完全に避けていたのに!」
(そうか。さっきも刀とあの槍は接触してなかったんだ! 刀が触れてなかったから、裁ち切れていなかった!)
「でも」と美名は堂師を睨み上げる。
(触れられない? 見えない? 雷の力がどう私に向かってくるのか、判らない!)
「く、くくく……」
可笑しくて仕方がないといった風に槍先を遊ばせながら、堂師が嘲笑う。
美名は喜悦の相手に、歯軋りをした。
(判らないことには、迂闊には近づけない……)
美名の切り札である「嵩ね刀」もすでに破れ、今は手元にさえない。
(どう打開すれば……)
「ラ行・磁渦……」
「らぎょう……?」
堂師の詠唱を聞いて、何かを考えついたように呟いたのは、彼に吊り下げられているクミだった。
「ラ行! 判った!」
左右色違いの輝く眼。
クミはその宝石をふたつ、美名に向ける。
「ラ行は確か『波導』よね?! 波を導く……。電磁波よ!」




