表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真名神代伝  作者: ブーカン
第二章 千年路の果て
100/464

狼狽の少女と眉目秀麗な名づけ師 1

「美名、『オ様』だって! トジロ様かもしれない! 早く会いに行こうよ!」

「……うん」


 案内された自分たちの「穴室あなむろ」に下がると、クミは早速に相方あいかたに声をかけた。

 だが、銀髪の少女の顔は沈んでいる。

 今日はずっと上機嫌だったのに、一転して沈鬱ちんうつになったその顔色に、小さなクミも気が気でならない。


(……原因は、まあ、まちがいなく……)


「……あの子のことが、気になるの?」


 美名が小さくうなずく。

 ひと晩の宿を求めて立ち寄っただけの美名たちにとって、この山深くの集落で「名づけ師」と居合わせたというのは、思わぬ、嬉しい偶然である。

 明日予定の「名づけ」のため、「未名みな」のおさのため、サガンカにやってきているらしい「名づけ師」。

 しかし、嬉しいはずのこの状況は少しばかり、不穏ふおんである。

 元来の予定で「名づけ」られる当人であるサタナの妹は、布団を被り、誰とも口をききたくないほど「名づけ」を嫌がっているという。

 なぜか?

 女児は何をそんなに嫌がっているのか?

 美名には判らない。判らないが、祝福されるべき当人がそうまで「名づけ」を拒んでいるのを差し置いて、自らが脇から出ていって、「名づけ師」に「名づけ」てもらおうなどという気には、到底なれない性格の少女であった。


「美名ちゃん、『魔名』をつけられちゃうの?」

「せっかくまだ『仮名かな』なのに、もったいないよ」

「……」


 子どもらが、うつむく美名を覗き込むようにしてたずねる。

 美名たちの部屋についてきたのは、広間でも元気のよかった三人。

 寝台に腰掛ける美名を、挟むようにして座るふたりが、男児のエガと女児のコウメネ。

 「穴室」のしき絨毯じゅうたんの上に座り、クミを膝の上に置いてゆったりと撫でまわしているのが、女児のミルザ。

 その男女の子どもらが自らの「魔名」を教えてくれるときも、美名たちに違和感を感じさせた。

 ほとんど全てと言っていいほど、これまでの旅路の途中で出会った子どもたちは、自分たちの「魔名」を得意気になって教えてくれた。美名とクミが彼らの名を呼ぶと、それだけで嬉しそうな笑顔を見せてくれたものだ。

 だが、サガンカの「児童窟じどうくつ」の子どもたちは違う。

 魔名を訊ねてもしぶるような様子で口ごもり、なんとか「個人名」を教えてくれたかと思うと、「属性名」は口が裂けても言わないといった強情さ。これは、この場にいないスッザも、サタナも同様であった。


(魔名教にも……宗派の違いがあるのかしら……?)


 クミは、「宗派の違い」という言葉でひとまずは腑に落とした様子だったが、美名は違う。

 美名の心中には、どうにも解きほぐせないしこりのようなものが残る。言葉にできない、つかえのようなものがある。それがため、銀髪の少女の顔は、どうにも晴れないのだ。


「……美名、どうするの? 『オ様』のところ、行かないの?」

「……うぅん……」


 男児と女児が訴えるように美名の服のすそを引っ張る。


「ダメだよ、美名ちゃん!」

「『名づけ』られるなんて、恥ずかしいよ!」

「……あはは。う~ん……困ったなぁ……」


 困惑し、戸惑うようにし、煮え切らない様子の美名に、クミの方が先にしびれを切らした。


「んもう、判った! 私が先に行って、話つけとくから!」

「えぇ……?」

「美名は魔名、『名づけ』て欲しいんでしょう?!」

「それは、そうなんだけど……」


 「えぇ~」と残念がる子どもたちに、困ったように苦笑いを返す美名。

 小さなクミは、なぜだか無性に腹が立ってきた。


「……明日、あの子のあとに『名づけ』てもらいたい子がいるんです、って、私言ってくるからね!」

「んん~……」

「ミルザ、案内してもらっていい?」

「あ、ちょっと、クミぃ……」


 美名のすがるような声に振り向きもせず、黒毛のネコはさっさと「穴室あなむろ」を出て行ってしまった。

 案内をわれた女児、ミルザは、当惑するように美名に目を向ける。そうやって少しばかり、美名を哀しそうに見つめたあと、彼女もクミのあとにいて出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ