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真名神代伝  作者: ブーカン
第一章 魔名なき者たち
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教会堂師の話の真偽と教会堂師の真偽 3

 教会堂師は戸口から二歩退がる。

 だが、美名を睨むその顔にはまだ、侮るような色が残る。


「コイツからすべて聞いたわよ」

 

 美名は倒れている男をチラリと見る。

 森の中で襲撃してきた男たちが口走った言葉から、教会堂師の悪事を察した美名は、気を失っていたこの「カ行」の男を叩き起こし、一切を白状させたのだ。


「私みたいな旅人や、親ナシの『未名みな』の子を捕らえては、奴隷として大都だいと大陸に売り渡してる首謀者、悪徳教会堂師め……」

「……ふん」


 悪事を暴かれた教会堂師は不敵に嗤った。


「下衆な行為……。見過すなって、私の心が叫んでる!」

「観念しろぃ!」

「何が悪い? 蓄財なんて、皆やっていることだ。こんな辺鄙な村の教会堂にまわされた魔名教師なら誰でもな!」

「やり方が下衆だって、そう言ってるの。アナタの言う『皆』にはゼッタイに含まれない、とっても親切な堂師さまがたくさんいることを、私は知ってるわ!」

「そいつらがバカなだけさ。『福城ふくしろ』の魔名教本部に戻れば、要職を得るのに財が要る。カネが物を言うんだ。そのための準備期間が『地方堂師』だということを判っていない、無知蒙昧な奴ら……」

 

 美名は歯噛みして堂師を睨みつける。

 相手は嘲笑をさらに歪ませた。


「『未名みな』や根無しの浮浪者など、どうせ『教税』もまともに納めていない与太者に決まっている。有能な教会師が出世するのに一役買えて、むしろ感謝すべきだ!」


 美名の足元で、毛が逆立つほどにクミは怒りに震えていた。


「ダメだわ、コイツ。『居坂いさか』に慣れてない私でもハッキリ判る。どんな状況だろうが、どんな世界だろうが、コイツ、最悪だわ」


 教会堂師はクミに目を向ける。


「しゃべる『アヤカム』……?」


 いやらしく微笑んだかと思うと、その笑みは次第に大きくなり、ついには気が触れたかのような高笑いに至る。


「『客人まろうど』か! お嬢さん、朗報だ! 君が嫌がる『売り飛ばし』は今日で店じまいだ。『客人』を本部に供すれば、財力など必要ない。教会内での地位は約束される!」


 教会堂師は舌なめずりをすると、ふたりに向けるように腕を振った。


「……マズい! 『魔名術』が来るわ!」

「遅い! 『ラ行・明光めいこうッ!』」


 堂師の詠唱に併せて、彼の平手から光が発せられる。

 まぶしさに美名の視界は奪われた。


「クソッ! 『波導』使いだったか!」

「や、きゃぁ!」

「クミッ?!」


 足元付近からの悲鳴に美名は呼び掛けるが、クミからの応答がない。

 すぐ近くを堂師の気配が移動したような気もするが、美名の視野はまだ回復しきっていなかった。


「どこ? クミッ!」


 ようやく視界が回復してくると、美名は周囲にクミの姿を探す。

 だが、黒毛の、あの愛くるしいクミは、どこにも見当たらない。


「外か……?」


 美名は勝手口を駆け出る――が。


「いたっ?!」


 戸口をくぐった直後、脇腹に痛みが走った。

 刺されるような痛撃に、美名は飛び退く。


「くぅ……」


 うずくまり、脇腹を抑えながら、美名は顔を上げる。

 勝手口の外側、暗がりの中に教会堂師がいた。

 醜く笑いながら、片手には槍のようなものを持ち、もう一方の手では――。


「クミッ!」

「ごめん、捕まったぁ!」


 クミの首根っこをつまむようにして掴んでいる。


「ふん捕まってイヤなハズなんだけど……、この状態、どうにも落ち着くのが困る!」


 ぶらんぶらんと堂師の手の中で揺れながら、クミが叫ぶ。

 確かに、美名の目にはその状況を楽しんでいるようにも見える。


「クミ、大事ではなさそうでよかった……」


 ほっとひとまずは息を吐くと、美名はあらためて堂師が手に持つ得物に目を移す。


「『ラ行波導』は『波』を操る『魔名術』……。あの武器は?」


 得物はやはり槍のようである。

 居坂では近接武器で唯一、効果が認められて広く使用されている武器種である。大きな熟練がなくとも、間合いの長さと「突き」の型で扱いやすい。その扱いやすさは対人においても変わらず、魔名術にも対応がしやすいと過去の幾多の戦争、大戦でも重用されてきたのが「槍」という武器なのだった。

 だが、美名を先ほど襲った痛覚は、槍による刺傷や裂傷といった類のものとは違っていた。


(熱い炎に焼かれたような、瞬間的に焦れたような痛みだった……。魔名術……?)


 だが、美名はこれまで、『ラ行波導』の魔名術者がこのような武器を使うのを、見たことも聞いたこともなかった。


「まさか、『光』だけじゃない? コイツ、『段』か『段』……?」


(もしも、『段』だとすれば……)


 美名は過去に一度だけ、比較的近場での落雷に出くわしたことがある。

 まだ「先生」と一緒にいた頃のことだ。


『「波導」を極めた術者にこんなの撃たれたら、跡形もなく消えちまうわな』


 雨中にもかかわらず、落雷の影響で火に巻かれる木を見ながら、先生は呟くように言ったものだ。


(この堂師が「ロ」の魔名術者だとしたら、雷の力を操る?!)


 嫌な想像を振り払うかのように、脇腹の刺すような痛みを紛らすように、美名は頭をひとつ振った。

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